五十八升目。
目をつむって手に力を入れ、バックを振り回そうとしたその時。
ドドドドドドという音が聞こえ近づいてきた。
聞き覚えのある音。
オーナーの店や栄子さんのところで聞いたバイクの音。
音はすぐ近くまで来て止まる。一台じゃない。何台かある。
足音。そして声。
「よお、おっちゃん、俺の彼女に何してんの?」
「え、いや、私は・・・・・・」
「俺ら、この子とここで待ち合わせしてたんだわ。
この子おっちゃんとなんかあった?」
つむっていた目を恐る恐る開ける。
ライダージャケットを着た四人の男の人たちが中年男性を取り囲んでいる。
「わ、私はただこの子が一人で寒そうにしてたから心配で・・・・・・」
「ああ、そりゃどうもありがとうございます。でも俺たちが来たんでもう大丈夫ですよー。
なんでしたらお礼に家まで送ってゆきましょうか?」
ニヤリと笑う。
他の三人もそれにあわせるように笑い出す。
「あの、いえ、そ、それじゃあ、私は、これでっ」
走って消えてゆく中年男性。
笑いながらそれを見送り、
「アキ・・・・・・ちゃん、だよね?」
「は、はい」
「良かったー。前に何度か見かけたのと、
写真一枚しか渡されてなかったからさー。
間違えたらどうしようかと思ったよ」
「その割にはノリノリだったじゃねーか」
「しかもテンプレの俺の彼女とか」
「お前にはこんな子彼女にできねーよ」
「うっせえな!おまえら!!」
空まで響くような笑いが起こる。
『誰?この人たち。また、ボク何かされるのかな。
それになんでボクの名前・・・・・・。
あ!この人たちオーナーのお店で何度か見かけたことがある!』
顔をよく見て気がついた。
安堵の気持ちが押し寄せ力が抜け、倒れそうになったところを支えられる。
「大丈夫?」
「はい。安心したら急に」
思わず笑みをもらしながらこたえる。
「ははっ。前から思ってたけど、ホント笑い顔可愛いね」
少し恥ずかしくなりうつむくと、後ろの三人が
「おーい。ここにナンパ男いるぞー」
「いや犯罪者だろ」
「とりあえず通報しとっか」
支えてくれたまま後ろを振り返り、
「だからおまえらなあ!」
また空まで響く笑い。
「よっしゃ。とりあえず、これ」
保温のマグボトルを渡される。
「ブラックコーヒーだけど大丈夫?」
「大丈夫です。大好きです!」
「じゃ、飲んで温まって」
マグボトルからコーヒーを注いでもらい一口ゆっくりと、飲む。
体がホっと温まってゆく。
「連中に先越されちまったね」
少し離れたところからタバコの煙を吐き出し微笑む栄子。




