五十五升目。
アキはリストを見ながら商品のチェックをする。
ただ居候していては申し訳なく理穂に頼んで店の手伝いをさせてもらっていた。
「アキちゃん、全部注文どおり?」
「はあい。ちゃんとリストと合ってますー!」
リストにはアキにもわかりやすいように、間違いがないよう写真説明がついている。
『逆に理穂さんのお仕事増やしちゃったかな・・・・・・』
そう思うとためいきがもれてしまう。
後ろから肩をつかまれ、
「どうしたの?疲れちゃった?」
「い、いえ。まだまだ大丈夫です!」
「そんな無理しないで。力入りっぱなしよ。
私も少し疲れちゃったからお茶にしましょ」
『今度は気を使わせちゃったかな・・・・・・』
うつむく。
じーっと見つめられてる視線に気がついてはっとする。
理穂がジト目で見つめていた。
「アキちゃん、なんか変に色々気を使ってるでしょ。
ダメダメ。そーゆうのはダメよ。
さ、お茶、お茶。好きなブランデーをほんの少し入れて、ね」
鼻歌を歌いながら軽いステップでリビングへ向かう。
夕方にはちょくちょく滝口も遊びに来て、
時には三人でそのまま栄子のところやオーナーの店へ行くこともあった。
みんな元気そうに楽しそうにしていた。
バックヤードのソファーで夜中にふと目を覚ましたアキ。
誰かがかけてくれた毛布にくるまり、寝ぼけながらカウンターにかすむ目をむける。
二人、座っていた。
「理穂さんと滝口さん?」
ぼうっと眺める。二人とも少し沈んだ表情のような気がした。
「******でしょ。あんたと私******」
「******こはそうなんだけど俺の場合はた******、岸田と幸******だけで、
お前は******太のこ******」
「******だけどさ。******、あいつが選んだことだ******」
途切れ途切れに話が聞こえる。理穂の鼻をすする音がした。
『なんだろう、なに、お話してるんだろう・・・・・・』
もっとはっきり聞きたかったが眠気が襲いそのまままた眠りに落ちた。
それから数日たったある夜。
アキはこの会話を思い出した。
「理穂さーん。そろそろボクお休みしますね」
初めて泊まった日からは別に寝室を用意してもらっていたので、
お風呂へ入り寝る準備をしてからリビングで一人飲んでいた理穂に声をかける。
机につっぷしてなにやら呟いてる理穂。
「幸・・・・・・太、幸太。
なんであんたはさあ、いつもそうやって。
私だってあんたのこと・・・・・・」
ドキっとした。胸が痛んだ。
「あのとき理穂さん泣いてたんだ・・・・・・。
理穂さん幸太のこと好きだったんだ・・・・・・」
『一人だけ。自分一人だけが苦しくて辛いと思い込んで引きこもって、
みんなに迷惑かけて・・・・・・。ボクは、ボクって・・・・・・』
酔いつぶれて寝ている理穂に毛布をかけ、
短くお世話になりましたと手紙を書き添え着替え荷物をまとめ、
そっと。そっと理穂の店を後にした。




