五十三升目。
理穂さんのところでボクはしばらくすごした。
最初は栄子さんのところへお世話になろうと思ってたのだけど、
酔った理穂さんが、
「えー。ちょっとしばらくアキちゃん貸してよぉお。
幸太、滝口と栄子さんたちだけで飲んだりとか楽しんでたじゃん。
それに着せたいお洋服もたくさん・・・・・・ある・・・・・・んだ、から」
ボクを抱きしめそのままソファに倒れこんで寝てしまった。
みんな肩をすくめ、栄子さんが聞いてきた。
「アキちゃん。理穂ちゃんのところでいい?」
「は、はい。でもボク一応男・・・・・・だから、
あのこんなきれいな女の人のところに行ってもいいんでしょうか?」
「理穂がいいって言ってるんだから大丈夫だよ。
それよりなんで俺は候補にあがってなかったわけ?」
「お前はアキちゃんを襲いそうだからだよ、滝口」
オーナーにいつもと変わらないビシっとした口調で言われ、
「そんな信用ないかな・・・・・・」
ボソボソと言いながら頭をかいてジンをあおる。
「そりゃ、ないね。ないない。
明子ちゃんじゃないときにもセクハラしてただろ、滝口」
栄子さんが笑いながら言い放つ。
「なんですか、栄子さんまで。ひどいな。ひどいよー」
壁に向かいながらしゃがみこみ、またジンをあおる。
「そんなことないです!滝口さんは釣りとかお魚のことたくさん教えてくれたし、
重たいもの持ってくれたり、ええっと。他にもたくさんいっぱい優しかったです!」
酔いつぶれて寝てるのにがっしりと抱きしめられて動きのとれないアキがじたばたしながら声を上げる。
「マジで!?アキちゃん、じゃあ俺毎日理穂のところ通うよ。
理穂にアキちゃんがなにかされないか俺が守る!」
「あー、こりゃもうかなりまわっちゃってるねー」
「そうですね。若い子のお酒っていいですね」
ややあきれた笑い顔の栄子と羨ましそうに懐かしそうに微笑む信子。
「さ、それじゃあ私たちは私たちでこれからゆっくりと飲みなおしましょうか」
オーナーは二人をカウンターへ連れて行き、新しいウィスキーを開けた。かなりの高級品。
今夜は幸太を偲ぶ夜なんだ。そう感じ取ったアキのほほにまた一筋の涙が流れた。
その涙をぬぐったのは白く細く美しい指。
「さあ、アキちゃん。アキちゃんも飲むのよ!
滝口もこっち、こっち。私たち若人は若人で飲みなおしよ!」
久しぶりのお酒。いつもの雰囲気。
・・・・・・気がついたら寝心地の良いベッド。
やわらかな光に包まれて、アキは目を覚ました。




