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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒六
53/89

五十二升目。

坂道の頂上。空が見える場所。

あそこまで行くとぱーっと視界が開けてどこまでも行けるような気がして、登る。

でも登って見えるのは住宅街の続き。


家出をしてからそんな光景を何度か見てきた。

あそこを登ったら何かあるんじゃないか。世界が開くんじゃないか?

そう期待して登った。

でも何度登ってもダメだった。


『もう、いいや』


そうあきらめて夜の駅でうつむいてたあの日。

あの初夏の夜。ボクの何度登ったかわからない坂道は世界を開いた。

一人の泥酔した人によって・・・・・・。


それまでに出会った人たちとは違う。

自分たちで世界を開こう、開いた。

彼のおかげでそんな人たちに出会えて色んな世界を見た。

たった一ヶ月少しで。

この人なら、と思った。最初は恋心とかそういうのじゃなくて。

なんか一緒にいればボクはもう少し進めると思った。


いつの日かそれは恋心になっていた。

ボクは男。その人も男。なのだけど、恋していた。

彼もそれに気がついてボクを大切にしてくれた。

しかしその人は、死んだ。


ライブハウス、ゲーム、バイクの整備所、

バーを複合してる倉庫のお店、バックヤード。

今そこでみんなお酒を飲んでいる。でも彼はいない。


栄子さんとバックヤードのオーナーと彼の母、信子さんとのお話は終わったみたいで、

みんなで飲んで騒いでいる。ボクはなんとか外へ出れたけどそんな騒ぐ気になれない。


ウーロン茶を飲みながらぼけっとしていたとき。

「ねえ、アキちゃん。先に謝らせて。ごめんなさい。

今からする話はあなたを抜いて勝手に進めちゃったから、

ここから先はあなたが決めることなんだけど・・・・・・」

ほんのり火照った顔で信子さんが頭を下げながら横に座ってきた。


右手にグラス。

左手にひげのおじさんが描かれてるウィスキーを持っている。

コンビニとかでもよく見かけるウィスキーだ。

ボクの視線に気がついて

「あ、これね。私、これ好きなの」

ボトルを振りながら言う。


会ってからそんなに経ってないのに、この人は彼の。幸太のお母さんなんだな・・・・・・。


変に納得してしまった。

信子さんは一度深呼吸してから、

「じゃ、アキちゃん。

すぐに決めなくていい。でもあまり長くも待ってられない。

そうね。半月のうちに決めてちょうだい」

きりっとした瞳で顔を見てそう言った。


後から気がついたことだけど、

その力のある瞳でボクの瞳を直視しないところに優しさがあった。

無理やり一線を越えてこない優しさが。


「アキちゃん。あなたは幸太が預かった。

幸太はそれをあなたのご両親へあの子なりにちゃんと話をしに向かった。

けどその途中で死んだ。でも私たちは生きてる。あなたはここにいる。

だからあなたが幸太に預かられたっていう状況も生きてる。

ここまではわかる?」


無言でうなずく。

口の中が乾き、ウーロン茶を飲み干す。


ボクがうなずくのを確認してから、

「そっか。じゃあ、そこからなんだけど。

私はあの子の。幸太になんかもったいないくらいのお友達や、

お知り合いから話を聞かせてもらってね。

あなたを幸太ができなかった・・・・・・。違うわね。

幸太がやりたかった事の責任をとって預かろうと思うの」


しばらくボクの顔を見つめ、ウィスキーを飲む。

一気に無理にまくしたてないで様子をうかがう。

ほんとだ。ほんとにこの人は幸太のお母さんなんだ。

似ているところを見るたびにそう思う。そしてついに涙がこぼれてしまった。


「泣けるときはたくさん泣いていいのよ」

そう言いながら頭をなでてくれた。


「それでね、アキちゃん。私はあなたのご両親と連絡を取って、

あなたがこの後どうするかの許可をいただいてるの。

アキちゃんが実家へ戻るのも良いし、このまま私のところで暮らすのも良いって。

もちろん私のところで暮らせば学校は新しいところへ編入になるわ。

新しい学校って言っても嫌でしょうけど、これはご両親の絶対条件なの。

高校は卒業することって」


泣いているボクの頭を抱えながら、

「うん。だからそんなすぐにとは言わないけど・・・・・・。

やっぱり長く待てない。だから、ね。半月。半月で決めてちょうだい。

それまでは栄子さんか理穂ちゃんがあなたを預かるって言ってるから。

その半月は安心して考えれるわ」


ボクは泣きじゃくって信子さんに抱きついてた。

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