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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒六
52/89

五十一升目。

幸太の家を引き払い、家財など処分してゆくのをその時のアキはぼうっと見ていた。

「アキちゃん、せかすようにしちゃってごめんなさいね」

信子はアキに謝りながら死者の後始末をこなしてゆく。


『なんでボクなんかに謝るんだろう。気を使ってくれるんだろう。

だってこの人は幸太のお母さん。ボクなんかよりずっと辛いはず・・・・・・』


「天の岩戸が開いたかー。良かった良かった」

「滝口。あんたねえ、まだアキちゃんショック受けてるんだから・・・・・・。

でも出てきてくれて本当良かったわ」

軽口をたしなめながらしゃがんでアキの方へ笑顔を見せる理穂。

無言で頭をなでる栄子。


『滝口さん、理穂さん。栄子さん・・・・・・。

毎日きてくれてた。心配してくれてた』

引きこもってるときに訪ね、

そして食料などを置いていってくれたのを思い出し泣きそうになる。


素早く目をこすり、立ち上がった理穂を見上げる。

『理穂さんて背、高いな。初めて会ったときはあんまり意識してなかったけど。

滝口さんと同じくらい、かな?』


「申し訳ありません。無理なことをお願いして」

「いえいえ。あの子が中途半端に死ぬのが悪いんです」

栄子と信子の会話が耳に入る。

「それで栄子さん、私ね、アキちゃんをうちへ引き取ろうと思いまして」

「信子さん、いくらなんでもそこまでは・・・・・・」

「アキちゃんの親御さんにはもうお話して承諾頂いてるんですよ。

高校さえちゃんと出てくれればいいとのことで。学費なども出してもらうことになってます。

そこから先はアキちゃんの意思にまかせるそうで」

「・・・・・・そうですか。ご迷惑、おかけします」

「何を言ってるんですか。元々うちの子がやりはじめたことですよ」

朗らかに笑う信子。


自分のわがままでこんなにも周りの人が動いてくれてると再び自覚する。

どうしようもなく申し訳ない気持ちになってしゃがみこむアキ。


『どうしよう。幸太のときはそんな考えてもなかったことだけど。

それはこんなにも大変なことだったんだ。どうしよう。ボクさえ一人でおうちへ戻れば。

そうだ。そうしよう。それができればみんなに迷惑かけなくてすむ。

耐えられなかったらまた家出すればいいんだ。違う場所へ行けばいい。

今度は本当に一人になってどっかへ行こう』


「お前、なんかつまんないこと考えてるだろ?」

肩をつかまれ振り返る。オーナーが目をのぞきこんでいた。

「あいつをあんな本気にさせといて、つまんないこと考えんなよ。

初めて会った時のあたしの期待を裏切ってくれるな」

背中をバシ!と叩いてにやりと笑う。

そして手を叩きながら声を張る。

「はい、全員注目!今夜はうちの店で偲ぶ会という名の飲み会やります。

信子さんとの細かい打ち合わせなどやるので最初は真面目に。あとは貸切無料だから好きなだけ飲んで騒げ」


歓声と拍手がわいた。

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