五十升目。
「はい、アキちゃん」
柿を差し出され、
こたつの暖かさで少しウトウトしていたアキは目を覚ます。
季節は冬をむかえようと準備している。
「あ・・・・・・。ありがとうございます」
「あの馬鹿息子が、ごめんね。最後まで面倒もみないでさあ」
「え、いえ、そんなことないです。ホントに・・・・・・」
「いやいや、アキちゃん。死んだからって甘やかしちゃだめよ。
いっつも中途半端な子だったわ。ほんっと最期まで」
言いながら幸太の遺影に目を移す。幸太の母、信子。
それにつられるようにしてアキも幸太の遺影に目をやる。
遺影と言ってもしっかりしたものではなく、
皆と酒を飲み笑っている姿。まだアキと出会う前のものでアキの姿はない。
「アキちゃんと一緒に笑ってる写真があれば良かったんだけどね。
あの子写真撮られるのあまり好きじゃなくてろくなのがなくて。ごめんね」
「私にはこれがありますから」
微笑みながらふりかえり、携帯の。
幸太から渡された携帯のトップ画面を信子に見せる。
それは幸太、滝口、栄子。そして明子で撮ったあの時あのガレージでの写真。
「理穂さんいなくて残念ですけど」
くすっと笑いながら寝顔の幸太を見る。
「まったくだらしない寝顔だよ」
笑い返す信子。
仏壇に位牌を置き遺影を飾るとき、
この写真も遺影に使おうと話があった。
しかしアキが反対した。
「ボクなんかが口をはさんでごめんなさい。でも、なんていうか。
この写真はそういうのに使って欲しくなくて・・・・・・」
そう言って皆が驚くほどかたくなに反対した。
滝口も理穂も栄子もオーナーも、幸太の母信子も驚きはしたが、
こころよく了解してくれた。
一ヶ月近くアキは幸太の家に引きこもっていた。
毎日滝口と理穂と栄子さんの誰かが訪ねてきてくれた。
そしてある日。信子が訪れた。
「ごめんね、アキちゃん。
迎えに来るのが遅くなっちゃって」
インターホンのモニター越しに穏やかな日差しのような笑顔があった。
「だれ・・・・・・ですか?」
「あなたのお義母さんになる人。
幸太の母、信子です。よろしくね」
栄子たちが手をまわしたのは言うまでもない。




