四升目。
「俺は酔っぱらって家に帰る時にお前を見かけて、
こんな時間に女の子が一人でどうしたのか、と、話しかけて色々話をした後、
終電近くになって一泊くらいしていけと家に連れて帰ってきた」
「それから朝起きたら記憶もなくて飲みすぎでボケーっとしてる俺は、
部屋に女の子がいることにまず動揺し、
更にそれが、女装した男の子だったからまた動揺したと」
やっと頭の整理がついてきた幸太。
「うん。連れてきてくれたの。お持ち帰りって言い方もあるよね」
満面の笑みで明子が他人が聞いたら誤解を招くことを言う。
肩肘ついていた幸太はそのままズルっと滑ってゴツンと頭をテーブルに落とした。
そう、他人が聞いているのだから。
ここは幸太の家の近くのファミレス。
シャワーを浴びた後、そのまま家で話し込む気にもなれず、
明子がおなか減ったと言うので二人はファミレスに来ていた。
「幸太、大丈夫?」
「いったたた・・・。大丈夫。俺は大丈夫だけど、
お前の発言の方が大丈夫じゃない!」
「ボク変なこと言った?」
「お持ち帰りとか!」
「んー。じゃ、テイクアウト」
「テイクいらねえよ。もうアウトだ!」
ふむー、という顔をしてストローでジュースを飲んでた明子が
「うまいこと言うね、幸太」
「そういうんじゃくてだなっ」
「まあまあ、落ち着こうよー。他のお客さんに迷惑だよ」
そう言われた幸太がふと見回すと二人の。
いや、幸太のヒートアップした様子が周りのお客さんの注目を集めていた。
「自分で、注目集めちまった・・・・・・」
うつむき頭をかかえながら呟く。
そこへすっと幸太のタバコの箱が差し出される。
「はい。タバコ吸って深呼吸ー」
ストローでタバコを吸う真似をする明子。
『タバコで深呼吸はないだろ』
そう思いながらタバコに火をつける。
ここは喫煙席。
ファミレス入店一番に明子が元気よく
「お客様二名で喫煙席ー!」
と店員に言ってくれていた。
幸太がタバコを吸うのを見越してのこと。
「変なところで気がつく奴だ」
ボソっと呟きながら煙を吐き、
それでもそれはありがたいと思っていた。
「幸太ー。ドリンクバー行ってくるけど何か飲む?」
「ん、ああ。じゃあ、ホットコーヒー。ブラックで」
「りょーかいっ」
とてとてと小走りでドリンクバーへ向かう明子。
幸太の目の前には明子の頼んだ食べかけのハンバーグセット。
オーダーする時に
「えへへ。ボク、ハンバーグ好きなんだ」
お子様ランチを頼む子供のように嬉しそうにはしゃいで頼んでいた。
幸太はドリンクバーだけ。
「幸太は食べないの?」
「俺はいいよ」
「体に良くないのになー」
そんなやりとりがあった。
ぼけっと外を走る車を見ていた幸太にコーヒーが差し出される。
明子はオレンジジュースを持ってきていた。
コーヒーを受け取って
「ありがとう」
一言。
持ってきてくれたのだから、一言くらい礼を言う。
「うん、いいよいいよ。じゃ、今晩よろしくね」
コーヒーをふきだしそうになったのを危うく防いだが、むせまくる幸太。
「お、おま・・・・・・え。今、なんっ・・・・・・」
「ちょっと、幸太どしたの。急にむせて。大丈夫?」
明子が幸太の背中をさする。
咳のおさまった幸太が明子の手をどけて
「お前、今、何て言った?」
改めて言う。
「今晩よろしくねって言ったけど」
「よろしくねって、今日も泊まるつもりなのか」
「うん。だって行く場所もあてもないんだもん」
「一泊だけって俺言ったよな」
「言ったよ。だから一泊」
「昨日泊まったじゃねーか」
明子は少し黙ってから、ちょっと意地悪そうに笑い、
「問題です。昨夜、酔っぱらった幸太君を駅からお家まで何とか運んで、
ベッドに寝かせてから毛布に包まって床で寝ていた可哀想な子は誰でしょう」
ここで一呼吸置いて。
「それは一泊に入るのでしょうか?」
ニコっと微笑む明子。
「・・・入りません」
反論できない幸太はうなだれながら今晩の宿泊を認めた。
「大変よく出来ました!よろしくね」
満面の笑みだった。