三十八升目。
幸太の邪魔にならないように見ている明子。
服はメイドからゴシックなものに着替えている。ウィッグはない。
幸太がコーヒーを欲しがると部屋にあるサイフォンから淹れる。
たまに行き詰まるのか、図面を見つめたままタバコを吸い続ける。
灰皿がいっぱいになれば、そっと吸殻を捨てる。
そうしながら見てる幸太は今まで見たことのない幸太で、
明子はドキドキしながら時間を忘れていた。
夏の日差しに少し赤い色が混ざってきたころ。
大きく伸びをした幸太が
「終わったー!」
声を上げ、明子を引き寄せ頭をなでる。
いきなりなことだったので焦ってしまう。
「幸太!?」
顔が熱い。たぶん赤くなってるかもしれない。
「も、もう夕方だよ。お疲れ様!」
照れ隠しに少し距離をとって、夕日の赤で顔色をごまかす。
「助かったよ。コーヒーはいいタイミングで淹れてくれるし、
灰皿もさりげなく吸殻片付いてるし」
「え、えと。タバコの吸殻捨てる場所ってキッチンの三角コーナーでよかったよね?」
「おっけーおっけー。ありがとうな」
しばらく幸太を見つめる明子。顔の赤色は夕日と溶けた。
「・・・・・・幸太」
言いかけた時、
幸太のプライベート用の電話が鳴る。
「おー。滝口か。こっちは仕事終わった。
それじゃあ今から迎えにきてくれよ。ああ、よろしく」
電話を切り、
「どした?」
「え?」
「お前さっきなんか言いかけなかった?」
「なんでもないー。それより支度しなくちゃ。
栄子さんのところ行くんだよね」
「そそ。昨日の魚お土産にしてな。たぶんそのまま飲む」
「りょーかい!」
いつもの元気な返事を残して部屋から出て行く。




