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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒四
36/89

三十五升目。

「・・・・・・。

幸太、滝口さん。あのね。ありがとう!」


昔話を続けていた二人へ半泣きの声で言う。


「明子、お前いきなりどうしたんだよ」

「えっとね、えっとね・・・・・・」


半泣きから大泣きに泣きじゃくる明子。

幸太と滝口は顔を見合わせ、二人で明子をなだめる。


「明子。それじゃ何言いたいのかわからん。

とりあえず泣きたいだけ泣いて、落ち着け」

「そうそう、明子ちゃん。泣けるときは泣いちゃって」


「うん。うん、ありがとぉおお」


言いながら泣き続ける明子。

三人はとにかく室内へ入る。


それからしばらく。泣くだけ泣いた明子はリビングで寝息を立てていた。


幸太が膝枕をし、滝口が毛布をかける。

「こいつもな、色々あるんだろうな」

やさしく頭をなでながら滝口に小声で言う。

「そりゃなあ。生きてればそれだけの数、なんかあるだろ」

冷蔵庫からビールを持ってきて幸太に渡す滝口も小声だ。

「なあ、滝口」

「なんだ?」

「岸田、さ。

あいつ死ぬ前まで俺たちの前じゃ明るくしてたけど、

本当はどうだったのかな?」

「本当って?」

「俺たちがいなくなった病室で一人きりになったとき」

「さあな。んなもん、本人しかわからねえよ。

それにな、幸太。本当の、とかそういうのはないと俺は思う」

「なんだそれ?」

滝口はビールを一口飲んで

「あいつが俺たちにみせたあの明るさがその場の強がりとか、

俺たちに気を使って明るくおどけてたとしても、だ」

「しても?」

「それも含めて全部あいつなんだよ」

「なんだそりゃ」

「あー、だからさ。本当の自分とか、そういうのはいないってこと。

いいか、たとえなにかどこかで偽りをしてたとしても、

それも全部含めて、そいつそのものなんだよ。本当の自分とか、

本当のなんたらとか言うのは、逃げるための口上だ。自分は自分しかいない」

「逃げるため・・・・・・。本当の・・・・・・。

んー・・・・・・。よくわからん」

幸太はしばらく考えてからぐびっとビールをあおる。

「俺も説明しきれない」

静かに笑う滝口。


しばらく沈黙の後、膝を枕にしている明子を見て

「なあ、明子はアキで、今は明子なんだけど、

こいつは全部自分だって言ってるんだ。そんな感じのことでいいのか?」

「そうだなー。そういう感じでだいたいあってる、と思う。

明子ちゃんが自分を否定したことなかっただろ?」

「そういえば。男も女装もどっちもそのまま自然だった」

「だからみんな明子ちゃんはすごいって言うんだろ」

「なるほどねー。いまいちなんとなくしかわからないけど」

「だからお前はにぶいって言われんだよ」

今度は少し声を立てて二人、笑う。

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