三十四升目。
おおざっぱに切った白菜と安い豆腐。
鍋に白だしを薄くはって水を入れ沸かす。
明子は興味深そうに見ている。
滝口が明子を見ながら
「昔はよくこうやって理穂たちと一緒にやってたんだよ」
楽しそうに言う。
「みんな学校出たばかりで貧乏で馬鹿やっててさ。
こうやって鍋の中に豆腐入れて、白菜を上からかぶせて食べるわけ。
で、食べてるそばからまた入れる。次々にそうやってくから、
熱々のを食べ終わる頃に次のがちょうど煮えてるんだ」
滝口がしゃべってる間鍋の様子を見ていた幸太が、
「お前ら、もういいぞ」
「よっしゃ、食うか。そいで飲むか」
「いただきまーす」
三人鍋をつつきだす。
「おいしい!」
「いけるでしょ、明子ちゃん」
「はい!」
「本当は昆布で出汁とって、
豆腐は水切っておきたいけど。
こんなのも久しぶりにいいな」
幸太もまんざらではない。
鍋をつつきながら滝口が、
「そういえば岸田のやつ、俺は豆腐はやっこがいい!
って豆腐だけは別で食って、白菜は鍋のつついてたな」
「そーいやそうだったな。飲み物は決まって」
「ユビス」
幸太と滝口が一緒に言って笑う。幸太はなにかふっきれた様子だった。
そんなやりとりの中、明子はいつの間にかちょっとうつむいてだまっていた。
「明子、どうしたんだよ」
幸太が話しかける。
滝口も心配そうに見ている。
「うん。えっとね。
幸太も理穂さんも滝口さんもいろいろ話してくれるし、
栄子さんやオーナーさんは何も言わないで優しくしてくれる。
なのにボクは何も話してない。
幸太やみんなはボクのこと聞かないの?」
「何?お前、聞かれたいの?」
「・・・・・・・?」
「お前にはお前の事情があるだろ。
俺たちだってこうやってお前に話すのは、
それなりに色々心に準備できたからだ。
できてなきゃ話さなさねーよ」
なんともいえない表情で幸太と滝口を見上げる明子。
「根ほり葉ほり聞くのも聞かれるのも好きじゃない。
良い気分しないだろ。無粋ってもんだ」
「俺たち昔からそうやってきたよなー」
「大切なことは無理に聞かないで本人が話したくなるまで様子見て待つ」
二人は微笑みながら明子を見ていた。
少し、あと少しで泣きそうになるのをがまんする明子。
二人はそれに気がついたかどうか。そのまま昔話に興じていた。




