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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒四
32/89

三十一升目。

幸太の家。


幸太はキッチンで忙しそうに動いていた。

缶ビールを片手に。


アキは帰宅してすぐに、

「幸太、お風呂!お風呂いい?」

軽くとびはねながら聞く。

OKと言われると荷物を置いた部屋へ着替えを取りに行き、

脱衣所へ入ったが、

「滝口さん、一緒に入る?」

ひょいとドアから顔を出し、

冗談ぽく笑う。

白く華奢な体の鎖骨が目に入る。


「アキちゃん、入りたいけどやめとくわ。

幸太に怒られる」

「誰が怒るって?」

「あれ?怒らねーの」

「怒らねーよ」


そのやりとりを見て、

えへへへと笑ってから、アキは風呂に入った。

滝口はベランダ借りるぞ、と言って、

ベランダで水を豪快に浴びている。


「俺だって、早く風呂入ってさっぱりしたいっての」

ぶつぶつ文句を言いながら釣り上げた魚と、

途中で買ってきた食材で手早く料理を作る幸太。

缶ビールの二本目が空き、三本目を手に取ってぐびっと飲む。


釣果は結局幸太が釣れずじまい。

アキが一番の大漁。コツをつかむのが早く、

物怖じしないで滝口に教わりながら、

最後には小柄なアキでもおさえられる獲物なら、

自分で締めて血抜きをやっていた。


しばらくして、

「これだけ釣れれば栄子さんと、

オーナーのとこへ持って行っても充分だな」

滝口のこの言葉で帰港する。


「殺すなら食う分だけ。遊びならリリース」

だそうだ。


オーナーの所へは帰りに寄ろうと決めていたので、

滝口が港で捌き分けたのを持っていった。オーナーはニヤっと笑ってから、

「今夜は酒宴だろ?おすそ分けの礼だ。もっていけよ」

日本酒を三升、白ワイン赤ワインを二本ずつ。

いずれも逸品。魚が上物だったのでそれに対しての評価と、

わざわざお土産を持ってきた三人への心遣いだ。


「アキ。こいつら駄目男二人、よろしくな」

帰り際にアキへ声をかけ、別で貴腐ワインを渡していた。


幸太はその光景を思い出し、

「まったく、人に好かれるやつだ」

独り言を言って、バスルームの方を見る。

鼻歌がかすかに聞こえる。


栄子さんへのお土産は、

「今日はもう疲れたし遅いしまだ新鮮すぎるから明日でちょうどいい」

と滝口が言い、捌いたのを冷蔵庫へ入れ明日持ってゆくことにした。


その滝口が、

「あー、さっぱりしたぜ」

ベランダの水浴びから戻ってき、

冷蔵庫を開けてビールを引っ張り出し飲む。

「水浴びなのになんでお前そんな長いんだよ」

「気持ちよくてしばらく浴びながら横になってた」

「横になってたって、お前な。俺だって早くさっぱりしたいんだよ」

「悪い悪い。おー。うまそうじゃねーか。やっぱ、お前すげえわ」

悪びれもせずビールを飲む。幸太はため息ひとつついて、

「ツマミ食いすんじゃねーぞ」

「わーってるよ。三人揃うまで待ってるさ」

「じゃあ、俺もちょっと水浴びてくる。

皿と酒、テーブルに並べといてくれ」

とりあえず酒の肴には充分な分を作り終えた幸太が、

キッチンを片付け、ベランダへ行こうとしたその時。


バスルームのドアが開いて。


「・・・・・・。あき、こ?」

幸太はかろうじて声を出し、

滝口は固まっていた。


目の前にはアキではなく、ウィッグをつけ、

少しゴシックなメイド服を着た明子が立っていた。


「えへへ」

明子がまたいつもの笑いをする。

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