三十升目。
はしゃぐ二人を見て、幸太はまた海面に視線を落とし、
釣り糸の先・・・・・・。海の中のことを何ともなしに想像する。
図鑑やテレビ、水族館で観た光景を想い出し、
さらになにか幻想的なものまで想い浮かべていた。
その時。
「おぉおお!」
「おーーー!」
アキと滝口、二人の歓声が上がった。
再び二人の方を見る。
スズキの大きいのが釣り上げられていた。
「ちょっとアキちゃんは離れてて」
滝口がそう言いながら手際よく締める。
「すっごいすっごい!!」
「アキちゃん、初めてなのにやるねー。
よし!これでオッケー」
血抜きを終わらせ、アキの方を見て、
「持ち上げてみる?」
アキは大きくうなずいて、
ものおじせず滝口に手伝ってもらいながら持ち上げる。
「70センチちょっとってところかな」
そう言いながらスズキを抱き上げてるアキを記念撮影。
「すごい!でっかい!」
「今夜の魚はこいつだな」
はしゃいでるアキからスズキを受け取り、滝口は幸太を見る。
「なんだよ、俺が捌くのかよ。
魚ならお前のがうまく捌けるじゃないか」
滝口は船の保冷庫にスズキを入れながら、
「ああ、捌くのは俺がやる。調理は幸太な。
じゃ、アキちゃん。もっと釣って行こうか。他の魚も釣って食べよう。
俺らが食べる以外はオーナーと栄子さんへお土産に持ってこうな」
「うん!」
すっかり楽しくて仕方がないアキは目をきらきらさせて、大きく返事をした。
幸太の釣果は灰皿にタバコの吸殻が増えてゆくだけだった。




