二十九升目。
幸太とアキと滝口。三人、海の上。
夏の暑い日差しの中、帽子やタオルなど、
日よけ対策ばっちりで、三人は釣りをしている。
滝口は魚屋を継ぐ時、
一つだけ条件を出した。
とりあえず中古でボロでもいいから船が欲しい。
元から釣りなど海が大好きだったやつで、
親もこれには折れて、知人から安く船を譲り受けてくれた。
船舶免許は滝口がいつの間にか取得していたらしい。
その船で幸太とアキが釣り糸をたれている。
今日休みの滝口は昨夜、
バックヤードでみんなと飲んで騒いだ。
その時滝口が明日は海で遊ぼうと言い、
アキは嬉しそうに両手をあげていた。
海で遊ぶのが砂浜で遊ぶことだと思い込んでいたアキは、
翌朝、船へ案内されて目を丸くした。
しかし船で海へ出て釣りをすると聞かされると、
昨夜以上に嬉しそうにとびまわった。
初めて釣りをするアキ。
真剣と好奇心いっぱいが混ざった目で集中しながら、滝口から色々教わっている。
滝口はアキの横でずっとアシストだ。
幸太はぼけっと海面を見ながら、
昨夜の。昨夜、倉庫から出た時の事を繰り返し思い出していた。
――確かに岸田がいた。
昨夜、倉庫で岸田を見た幸太。
しばらく動けなかった。そこへ、
「どうしたの?幸太」
振り返ったまま立ち止まっている幸太へアキが声をかけた。
「あ、ああ。ちょっと、な」
そう言ってアキたちの方へ小走りに向かった。
途中、倉庫の方へもう一度振り返ったが、岸田の姿はもうなかった。
『岸田、お前は・・・・・・』
「え?え?ええ!!?」
隣から大きな声。
その声で我に返った幸太はアキの方を見る。
「うわぁあー!」
アキに魚がかかった。
滝口が手取り足取り助けている。
「振り返らないで楽しんでこい、か。
まったくお前が言いそうなことだ・・・・・・」
幸太は二人を見ながらつぶやく。




