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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒三
29/89

二十八升目。

倉庫に入った幸太と滝口はしばらく立ったままだった。


二人には昔の。

まだ岸田が生きていてバンドをやっていた頃の、

その、光景が見えていた。


始まる前の楽屋での馬鹿話。

客の歓声。ステージの光。

終わったあとの楽屋での気持ちよい疲労感。打ち上げ。

時々ライブが上手くいかなかった日の険悪な雰囲気。

次の日の反省会。


色々なものが見えていた。


「今を見ろ」

二人は後頭部をぴしゃりとオーナーに軽く叩かれて現実へ戻る。

目の前には岸田愛用のギターとベースが数本にアンプ。

作曲に使ってたPCやキーボードなどが置かれてある。


二人を叩いて前に進みながら、

「楽器は手入れは欠かしてない。すぐにでも使える。

PCの方は電源を入れてないからわからない。

どうしたんだ?お前たちがここに来るって決めたんだろう?」

「そうなんですけど、ね。オーナー」

「やっぱり、こう、久しぶりにやつのを見ると・・・・・・」

幸太と滝口は顔を見合わせ交互につぶやくように言う。


オーナーは、ふっと優しく笑って

「実際目の当たりにすればどうなるかお前たちの事はわかってた。

それでもお前たちはずっとさけてたここに来た。

店には来ても、ここには来なかったのに。今夜は、来た。

それだけでも充分だと、あたしは、思う」

アンプに軽くもたれかかりながら、

「今夜はここまでだ。さ、店に戻って飲むぞ」


「え?いや、でも・・・・・・」

言いかける幸太に、

「今のお前らにこれは渡せない。もう少し落ち着いたらまた来い。

納得するまで何度でも、な。それに・・・・・・」

「それに?」

「アキがぽかんとしたままだ。

どうするんだ、これ。男二人が情けない」

「いや、アキも男なんですけど」

幸太のこたえに、

「鈍いやつ」

オーナーと滝口の声が重なる。

「滝口はこういうことには流石だな」

「情けない男でも幸太とは違いますからね」

「お前なあ・・・・・・」

ため息混じりに滝口を見る幸太。


「幸太、行くぞ」

アキを連れ、店に戻るオーナーと滝口。


三人を追いかけ倉庫を後にするその時。

なんとなく。なんとなく後ろを振り返る。


岸田が、いた。


「なに振り返ってんだ。楽しんでこいよ」


そう笑っていた。

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