二十五升目。
二人で静に飲み、そして
「じゃ、ちょっと行ってくる」
アキを滝口にそっとまかせて立ち上がる。
「オッケ。いってら」
滝口はか細いアキの体を優しく受け止め、手を軽くふった。
しばらくして。
「ん・・・・・・。んあ。
あ、滝口さん。ボク、寝てた?」
「ぐっすりと。少しは疲れとれたかな?」
「はい。ん?あれ、えーっと・・・・・・」
「幸太か」
「はい。幸太・・・・・・いない」
心細そうなアキの顔。
「あいつ、ちょっと用事あってね。俺じゃ頼りないかな?」
「そ、そんなことはないです!」
「ありがと。大丈夫、幸太、ちゃんと店にいるからさ」
「そうですか」
安堵の色が顔にうかぶ。
「ここのオーナーに会いに行ってる。
アキちゃん、動ける?」
「はい!元気です!!」
「ははは!よし、じゃあ幸太のとこへ行こうか」
「行ってもいいんですか?」
「アキちゃん起きたら一緒に来てくれって言われてるからオッケー」
店の奥。シンプルで機能的に片付いている部屋。
しかし使っている家具や食器は一目でそれとわかる良いものばかり。
それらがうまくかみ合って控えめながら上品な雰囲気に仕上がっている。
「それでですね、そろそろ岸田の。
あいつの機材を引き取ろうって・・・・・・」
「そうか。やっと決めたか」
「はい。オーナーにはずいぶんと」
「いいって、気にするなよ。
あたしはずっと預かっててもいいと思ってたんだ」
紅茶を飲みショートヘアを軽く手ではらって、顔を上げる。
少しきつめの、しかし頼りがいのある整った顔立ちの女性。
『よくまあ、これだけ若くしてられるな』
心でつぶやく幸太。
「幸太ー。今さ、お前。若作りとか思わなかったか?」
「い、いえいえいえいえ、そんなこと思ってもませんよ」
「ふーん。ほーう・・・・・・・」
「ちょ、オーナー?」
ジト目でにらまれてたそこへ。
テーブルに置いてある装飾品としか思えない、
高価そうなアンティークの電話が鳴る。
視線をそらし、受話器をとるオーナー。
「ん?おお、きたか。入れ入れ」
言いながら電話の外観をそこなわないようについているスイッチを押す。
それで部屋の鍵が開くようになっている仕掛けだ。
こういった物や仕掛けがたまらない趣味らしい。
部屋の中に入ってきた滝口とアキを見て
「君がアキでいいのかな?」
「はい。ボク、アキって言います。よろしくお願いします」
「幸太からさっき話はざっと聞いたから自己紹介はいいぞ。
さて、メンバーそろったな。行くか」
「え?えっと、行くってどこへ?」
「なんだ、アキはそこまで知らないのか」
「こいつには行きながら俺が話します」
「そうか。じゃあ、幸太、手短にな」
そしてオーナーは先に立って部屋を出た。




