二十三升目。バックヤード
どこからか響いてるバイクの音がかすかに聞こえる。
「倉庫に落書きしてある」
「落書きじゃねーよ。看板だ、看板」
「じゃあ、このバックヤードって看板の倉庫がお店なの?」
「そう。ごちゃ混ぜなバー」
「ごちゃ混ぜ?」
「入ればわかる」
きしみそうなドア。しかしドアはきしむどころかすっと開いて閉じた。
「え、これ栄子さんの・・・・・・」
「似てるだろ」
入ったその中は栄子の店の奥のガレージを思い出させた。
「うん。それにバイクもある」
どこからか響いていると思ったバイクの音はここからだった。
数人様々な人がそれぞれのバイクをかまっている。
「まー、街外れで防音してあるから、な。
少し音が漏れるのは換気のために仕方ないけど許容範囲」
「へえええええ」
「じゃ、次のブース入るぞー」
「え?」
「ここはバイクと酒好きのブース。
言っただろ、ごちゃ混ぜって」
あたふたしながらアキはついていく。
次のブースへ入る扉を開けると左右に短い廊下があって男女のトイレがあり、
ドアが閉まるとバイクの音は聞こえなくなった。防音処理がされている。
聞こえなくなったのを確認してから幸太が次のドアを開ける。
入ったところはダーツ、ビリヤードのあるバーになった。
「こ、ここ?」
「ここでもいいんだけど今日はまた次のブース」
ゲームに興じている人の邪魔にならないように幸太はすすんで、
アキも同じようにすすんでいく。
次のブースに入る扉もさっきと同じ作りになっていた。
同じように音が聞こえなくなったのを確認して幸太はドアを開ける。
楽器の音と歌声が押し寄せた。
「幸太、これ・・・・・・?」
「ライブハウス」
「え。バイクがあってダーツとビリヤードがあって、
ライブハウスがあって・・・・・・」
「だからごちゃ混ぜって言ったろ」
「ごちゃ混ぜって、でもこれ、えぇえええ・・・・・・・」
「あれこれ色々取り入れてたらこうなったんだよ。な、幸太」
後ろから声をかけられて振り向く二人。
「滝口、お前来てたのか」
「おーう。仕事が結構早く終わってな。
お前こそ遅かったじゃねーの」
「理穂のところとか色々まわってたんだよ。
つか、なんで俺が来ること知ってるんだ」
「理穂んとこ頼まれ物届けに行って聞いた」
「お前に頼み物って・・・・・・あいつ、またか」
「そう、まただよ・・・・・・」
「人の趣味だからいいんだけどな。趣味だけなら・・・・・・。
たまに自信作って食わされるのはきつい」
「あいつの私が考えた料理シリーズ」
「今まで腹こわさなかっただけ幸いだよ」
「はあー・・・・・・」
二人でため息をつく。
それから滝口が二人を見上げたままのアキを見て、
「おー、悪い悪い。俺は滝口ってんだ。
こいつとはずっと腐れ縁でさ」
幸太の首を腕で軽く絞めながら言う。
「理穂んとこで聞いた。
お前さんがアキちゃんだろ。よろしくな」
「は、はい。アキです。よろしくお願いします。
・・・・・・あ!マグロ美味しかったです!」
勢いよく頭を下げる。
「ん?マグロ?・・・・・・。
俺が今日、栄子さんとこ届けたマグロのこと?」
「はい。幸太が滝口さんって人が届けてくれたって言ってたの覚えてて」
「おぉ!すげー。聞いたとおりのいい子だなー。羨ましいぜ、幸太」
「じゃあ今からお前に任せるよ」
「むー!」
アキのローキックが幸太の足にヒット。
「いってぇええ」
「いやー、今のはお前が悪いんじゃね?」
「お前が羨ましいとかいうからだろ」
「いやいやいや、お前が悪い。
しばらく面倒見るって栄子さんと約束したんだろー」
「なんで知ってんだよ。っく、理穂か」
「さてねー。なんでだろーなー。
とりあず座って落ち着こうや。喉も渇いてるだろ」
三人はライブハウスの奥の方にあるソファーへ座る。




