十七升目。
「それぞれ種類や年代。デザインとかで分けてあるから」
店内をきょろきょろと見回してるアキの後ろから幸太が声をかける。
「幸太これ」
「どれ?」
「これ、これ!見たことある!」
「ルネ・ラリックの花瓶かあ。
テレビかなんかで観たんじゃないのか」
「テレビ出るような花瓶さんなの?」
「好きな人多いからなー。
ちなみにそれ五十万くらいだから触って落とすなよー」
ぼそっと言ってからアキの背中を人差し指で、ちょんとつつく。
「きゃあ!」
「ほーら、騒ぐと落とすぞー」
「こーたーー!」
振り向いてほっぺたをふくらませるアキ。
「悪い悪い。お前が遠慮して縮こまってるのが面白くて、つい」
頭をかきながら幸太は笑ってなだめる。
「そこの子、だいじょーぶよ。
地震がきても落ちないようにしてあるから」
いきなり女の声が二階から響いた。
少し高めで耳に心地良い透き通った声。
「幸太はそういうとこ昔から変わらないわね」
声のする方を見ると一部吹き抜けになっている二階から、
長い黒髪。綺麗な女が螺旋階段の手すりにもたれかかってこっちを見ている。
「理穂、いたのか」
「いたのかはないでしょ。私の店よ、ここは」
理穂と呼ばれたその人は螺旋階段を下りて、
こちらへ向かいながら不満そうに言う。
「だって、お前いないじゃん。いつも」
「いるでしょ。お店の中には」
「店の中にはいるけど小一時間は捜さねーといないだろ」
「捜しかたが下手なのよ」
「迷路みたいな四階建ての地下まである家具雑貨屋で、
電話も出ないやつどうしろってんだよ」
「それは長い付き合いのあんたが私の行動を読めばいいだけでしょ。
だいたい、この店の設計はあんたが・・・・・・」
「あ、あの。えっと・・・・・・」
幸太と理穂のやりとりにアキがおどおどしながらなんとか声をかけた。
「あ、ごめんね。幸太のばかのせいで。
お嬢さん、お名前なんていうのかしら?」
「理穂、お前なあ」
「幸太は黙る。私はこの子とお話してるの」
『なんか俺いつもこんな扱いだよな』
心の中で呟いてから、
「アキ、このおばさんに挨拶と女じゃないって言っとけ」
しゅっという足さばきの後、どすんという音。
見事に幸太を蹴り飛ばしてから理穂は、
「そっか、女の子じゃないんだ。見間違えちゃった。ごめんね」
「あ、いえ。よく間違われますから・・・・・・。それより・・・・・・」
視線を蹴り飛ばされた幸太へ向ける。
理穂もそっちを見てからアキへ振り向き満面の笑顔で、
「大丈夫。さっきも言ったけど、
地震が起きても倒れたり落ちたりしないようになってるから」
「あの、幸太が・・・・・・」
幸太は呻き声をあげたままうずくまっていた。
「あれくらいの蹴りで情けないわねー」
「あれくらい、じゃねえっての」
幸太が動けるようになってから場所を移し、
三人は二階の奥の一室でお茶を飲んでいる。
「そっか、アキちゃんは家出したところを幸太にお持ち帰りされたってわけね」
「はい」
「アキ笑顔で答えるな。それに拾ったけどお持ち帰りじゃない」
「同じようなものじゃない。ねー、アキちゃん」
「えへ。同じようなものですね」
「だからさ。なんでそうなるかなあ。栄子さんのところでもさあ」
「あ、栄子さんのとこ行ってきたんだ。
私も行かなくちゃいけないんだよねー。頼まれてたの入ったし」
「そうだ。俺のはどうなってんだ?それで来たんだけど」
「アキちゃんともうちょっとお話したいから、幸太はあとあと」
「なんで栄子さんといい俺は二の次なんだ」
「だってアキちゃん可愛いもん。素直で優しくて頭もよくって」
「はいはい。じゃあ、存分に語り合ってて下さいな。勝手に飲むぞ」
幸太は席を立ってブランデーを見繕い紅茶へ淹れる。




