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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒二
17/89

十六升目。

喫茶店のすみの席。


幸太はブラックコーヒー。

アキはクリームソーダを注文する。


煙草に火をつけて、

「さて、と。アキ」

「うん?」

「お前、携帯電話は?」

「持ってないよ」

「やっぱり持ってないか」

煙を吐き出し、

鞄から薄型のいかにもビジネスライクな携帯電話をテーブルに置く。


「ん?なにこれ。幸太?」

「何って、携帯だよ。携帯電話」

「それはわかるけど・・・・・・」

「今日一日お前に貸すから。

迷子になったら使え」

「え、じゃあ、幸太はどうするの?」

「俺はこれ」


厚みのある頑丈そうな真っ赤な携帯をパンツのポケットから取り出す。

「防塵、防水、耐衝撃だ」

自慢げに言う。

アキはそれを無視して、

「幸太、なんで携帯二台あるの?

借りちゃって大丈夫なの?」


幸太は自慢の携帯を無視され、

なんとなく気まずく咳払いをして、

「こっちはプライベート。その薄いやつは仕事用。

今から使い方説明するから聞け」

「うん」

「とりあえず」

幸太はプライベートの赤い携帯から電話をかける。

すると薄い仕事用の携帯からじゅげむじゅげむと歌が流れ出した。


「その着うたが俺からの着信音。

あとはピリリリリって電子音しか鳴らないから、それには出るなよ。

ま、今日はかかってこないと思うけど」


「えっとえっと。じゃあ、えっと」

「なに慌ててんだ、落ち着け。

ほら、クリームソーダきたぞ」


一緒に運ばれてきたコーヒーを一口すすりながらアキを見れば、

アキはにらめっこでもするように幸太から渡された携帯を握り締めて見ている。


「アキ、ひょっとして携帯電話初め・・・・・・」

「違うよ!家出する前は持ってたよ」

「じゃあなんでそんな緊張してんだ」

「だってこれは幸太の携帯で、それでお仕事用で、

じゅげむじゅげむ以外は出ちゃだめで・・・・・・」

「もっと力抜け。てか、お前でもそんな緊張するのな」

「だって、これは・・・・・・」

「あー。だから、じゅげむ以外は出なけりゃいい。

もし出たらすぐに切ったりしてとぼけとけ」

「そしたら幸太のお仕事は?」

「大丈夫だから気にしなくていい。

ほら、とりあえずクリームソーダ飲め」

「うん」


いつの間にか三本目の煙草に火をつけて、

落ち着いてきたアキに簡単に携帯の使い方を教える。


教えると言っても携帯電話なんて基本はどこの会社も似たような使い方で、

更に幸太の仕事用は使い方もビジネスなシンプルなものだったからすぐに終わる。


「で、迷子になって困ったら俺の番号も登録してあるから。

そこにかければこっちのプライベートのやつが鳴るから」

「うん。これで迷子になっても大丈夫だね!」

「目を輝かせて言うな。迷子にならないのが一番だ」

「そっか」

アキはえへへっといつもの笑い方で笑う。


「じゃ、行くか」

「うん」


二人は腰を上げる。


「うあー。もう迷子になりそうだよ」

駅周辺のビルの立ち並ぶ隅っこで空を見上げて、人を見て笑う。

「嬉しそうだな」

「うん。どきどきしてきた」

「本当に早々に迷子なるなよー」

「はい!」

「それじゃあ、こっち行くぞ。

先にこの近くにある店で俺の買い物すますわ」

「はーい」


しばらくして。


「ねえ、幸太?」

「なんだ?」

「ここってお店?」

「店だよ。家具雑貨だよ」

「入っても大丈夫なの?」

「買い物に来たんだから入らないでどーすんだ」

「買うの!?」

「買うの」


やれやれとため息をつく幸太。

けれどアキが戸惑うのも無理はなかった。


挿絵(By みてみん)


その店の外観は一階が黒い鉄で覆われた壁。

扉は赤茶色く錆びた鉄で、二階からはコンクリート打ちっぱなしの四階建ての建物。

店と言われても一見なんの店だかわからない。


しかし重たそうな鉄の扉(実際には軽く開いた)を開いて中に入れば、

アキが見てもわかるような高そうな物ばかりを展示してある。


それは美術品の展覧会のように。


「ほら、奥行くぞ」

ぽんっとアキの背中を幸太は叩いた。

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