十四升目。
「とう!」
掛け声とともにいきなり幸太は頭にチョップを食らう。
「痛っ。なんだよ、アキ」
「幸太がしばらく泊めてくれるのっていうのは嬉しいけど、
お酒で即答が物々交換みたいで」
「そのわりにはお前笑顔じゃないか」
「うん、だって嬉しいから」
「じゃあ、なんでチョップ?」
「ほら、こーゆのって・・・・・・」
「こーゆーのって?」
「なんとなくその場のノリ」
指で宙に円を描きながら、えへへとアキが答える。
二人を微笑んで見ていた栄子がもう一本お酒を持ってくる。
「はい。アキちゃんにはこれ」
「ボクもいいんですか?」
「幸太にだけあげちゃ不公平だからね」
「栄子さん、不公平ってなんですか。俺はこいつをしばら」
「はい、幸太は黙っとく」
幸太の言葉をさえぎり、栄子は
「アキちゃん。これはね、ワインなんだけどすっごく甘いの。
貴腐ワインって言ってね。飲んだことあるかな?」
「きふ、ワイン?飲んだことないです。名前も初めて聞きました」
「そうかい。じゃあ、びっくりするかもね。これがワインって」
「そんなに違うんですか」
「すっごく」
笑って答えながら
「飲み方は幸太が知ってるから」
「はい。教えてもらいます」
「栄子さん、俺も飲みますよ」
「あんたはだめ。これはアキちゃんの」
ちょっと考え顔をしたアキは栄子と幸太を見てから
「んー。えっと・・・・・・。幸太、一緒に飲もうね」
笑顔で元気良く言った。
それから駄菓子屋の方の表で。
「じゃ、幸太。あんた、まだこのまま出かけるんだろ」
「はい。アキが買い物したいとか、街を見たいとか言うんで」
「見たい!こーんな大きな街」
嬉しそうに両手をおもいきり広げて、アキはぴょんとはねる。
「じゃあ、栄子さん。お酒頼みました」
「ちゃんと送っとくよ。この温度じゃ持ち歩くわけにはいかないからね。
それより幸太。あんた、あそこへは・・・・・・」
「あー、あそこは。近くまで行ってみて決めます」
「そうかい。ま、無理して行く事もないさ。
昔馴染みに会いたけりゃ、またここにくればいい」
「いつもそうさせてもらってます」
「うんうん。今度は鮭フレークと納豆のオムレツがいいね」
「俺は食事係ですか」
「ついで、ついで」
栄子は笑いながら手を振って
「じゃあ、暑いから幸太もアキちゃんも気をつけて行くんだよ」
「はい。行って来ますー。栄子さん、ありがとうございました!」
元気良く答えるアキ。
「それじゃ、行って来ます」
暑さでだるそうに言う幸太。




