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合成清酒  作者: 初菜
合成清酒二
14/89

十三升目。

「お、幸太の料理か。いいねえ。

ところでこのマグロはどうしたのさ?」


ここにマグロは無かったはず。


「さっき魚屋の滝口がちょうど来たんですよ。

ちょっと出てるだけだから待ってればって言ったんですけど、

仕事で寄っただけだからって。また今度ゆっくり来るそうです。その時もらいました」

「そうかい。次来た時、お礼しとかなくちゃね」


二人のやり取りを見ながらぽかんとして黙ってるアキ。


「アキ、どうしたんだ?」

「アキちゃん、どうしたんだい?」

「え。あ、あの、えっと」


「えっと?」

幸太と栄子の声が重なる。


「幸太ってどこでもこんな風にお料理できるんだって」

アキは目をきらきらさせながら感心しきってる。


「ぷ・・・・・・、ぷはは。あははははは!」

「なんですか栄子さん。急に笑い出して」


「ごめんごめん。なんでもないよ」

「なんでもないって、笑いすぎて涙出てますよ」

「ごめんごめん。でも面白くて」

「だからなにがですかー」

「幸太、アキちゃんがあんな事言うってのは、昨夜はご馳走作ったんだろ」

「ご馳走ってほどのものじゃないけど作りましたよ」


涙を拭いながらまだ笑いをこらえつつ、

栄子はアキに優しい眼差しを向けそれからアキの耳元へささやく。


「ほらね、アキちゃん。大丈夫って言ったでしょ」

「え?なんで幸太がお料理作ってくれると大丈夫なんですか?」

アキもつられて小声で返す。


「こいつはね、誰にでも簡単に料理作ってやるような奴じゃないんだよ。

アキちゃん、会ったばかりなのに幸太の手料理出たって事はしばらく置いてくれるよ」

「幸太がご飯作ってくれたら、大丈夫・・・?」

「そう、大丈夫。幸太が手料理振舞うって事はそれくらい大切な事なの」

「そんな凄いんだ。幸太のお料理食べれるって」

「幸太だけじゃないよ。料理を作るってのはあたりまえに見えて、

人生の貴重な時間をそこだけにかけてるからね。

作ってくれる人はそれだけの人生を使ってくれてるのさ」


食事に合うワインを選びながらアキと栄子の方へ顔を向けて

「笑い倒したかと思えば、大丈夫とか、

置いてくれるとか、ひそひそと何の話してるんですか」

不安と不審が混ざった表情を浮かべ幸太は声をかける。


「いや、何でもないよ。さて、ご飯いただこうかね。ね、アキちゃん」

「はあい。ボクもおなかぺこぺこ」

かけられた声をさらっと流して椅子に座る二人。


いただきます、と食べ出した二人をしばらくじっと見つめてから、

「栄子さん。何の話してたんですか。

栄子さんの好きな素麺の辛子明太子和えと、

茄子の煮びたしも作ってあるんですけどね」


栄子は、ぱっと目を輝かせて

「それ先に早く言いなさいよ」

素麺の辛子明太子和えと茄子の煮びたしに文字通り食いついた。


食事をしながら栄子はアキちゃんが幸太としばらく一緒にいたら、

っていう事を話してたんだよと、かいつまんで説明する。


「あんただっていいと思ってるんでしょ」

「別にあと三日くらいならいいですけどね」

「三日じゃ、だめだめ」

「だめって何がですか」

「あたしがアキちゃんと遊べないでしょ」


栄子とアキのグラスへ注いでた白ワインを落としそうになって

「栄子さんの都合ですかっ」

慌てながら声を上げる。


「そそ。あたしの都合」

「相変わらず、全く・・・・・・」

「ぐちぐち言わないの。それにあんただってアキちゃんの事気にしてるんでしょ。

この先泊まる場所はあるの?とか、ね。それにアキちゃんにも言ったけど、

あんたが気に入らない子をあたしのところに連れて来たりなんかしないわよねえ」

「そりゃあ、まあ」

「じゃあ、決定」

「勝手に決定しないでくださいよ」


栄子はひょいひょいと手をふって

「ジョニー・ウォーカー。ブルーラベル」

酒の置いてある棚を指差す。

「はい?」

「あれ、あげるから」


幸太

「アキはしばらくうちに泊まらせます」

即答。

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