十二升目。
ジンライムソーダを飲みながら
「そうだよ。あいつが死んだ日もこんな青空だった」
ぼそっと独りつぶやいた。
その頃。
ガレージから出たハーレは心地よいエンジンの音を響かせ、
栄子の私有地の舗装された山道を登っていった。
初めはエンジンの音に驚いていたアキ。
「すっごいすっごーい」
今は楽しそうに声を張り上げている。
「楽しいかい?アキちゃん」
「はい!楽しいです!!」
「そうかい。そりゃ良かった」
「最初は色々びっくりしたけど、
景色が流れてって風がぶわーってきて」
何も言わず微笑む栄子。
やがて山道を登りきって、山頂へ。
バイクを止めエンジンを切る。
「アキちゃん。ほら、見てごらん」
息をのんで止めてから吐き出すように
「はわー!」
大きく目を見開いて山頂からの景色を見る。
山頂から見え広がる街の景色はアキをのみこんだ。
「今日はお天気もいいしね。
遠くまでよく見えるでしょ」
「見えますー!すごい!!
ボク、この街に来た時は狭いなーって思ってたのに。
こんなに広かったんだ!」
「目線を変えると色々見えるものが増えてくんだよ。
幸太のやつも、そろそろ見方を変えなくちゃいけないのにねえ」
「幸太?」
「そう、幸太。ただ、その話はあたしがしちゃあいけないかな」
「んー・・・・・・」
「気になるならさ、アキちゃん。
しばらく幸太と一緒に居たらどうかな?
あいつにとっても良さそうな事っぽいからね」
「でも幸太は嫌がると思うし、迷惑だし・・・・・・」
アキの頭をくしゃっとなでてから
「大丈夫だよ。あいつがアキちゃんをあたしのところへ連れてきたって事は、
そんな心配しなくても大丈夫」
「そうなんですか?」
満面の笑みを浮かべて
「そうなんですよ」
返す栄子。
「あたしの駄菓子屋はね、人を選ぶんだ。
選ぶっていっても、あたしが帰れって言う時もあれば、
連れて来るやつが選んで来る時もある」
「栄子さんが帰れって言うんですか?」
「ああ、言うよ」
笑いながらはっきり答える。
夏の風が心地よく吹き抜けた。
「さ、それじゃあアキちゃんそろそろ帰ろうか。
幸太一人じゃねえ」
「あ、はい。寂しいですもんね」
「いやいや。頼りなくって」
栄子の答えに、くすくす、とアキが笑う。
帰りのバイク
「アキちゃん。今度は夜においで。
夜はまた違う景色が見えるから」
二人の帰りを待ちながら、
ガレージで今度はテキーラサンライズを飲んでいる幸太。
バイクの音が聞こえてきた。
『いい音してるよなあ。あのエンジン』
リズミカルに近づいてくる。
そしてガレージへバイクが入ってき、
元の場所へ止まりエンジンが切られる。
「栄子さん、ありがとうございました!」
アキはヘルメットを脱いで元気よくお礼をする。
「お礼なんかいいよ、アキちゃん」
「でもお礼はしなくちゃです」
「ほんっとに良い子だね」
「えへ」
照れたように笑ってから
「こーたーー!ただいま!」
「ほいほい。おかえり」
ひらひらと手を振る。
「幸太。あんたは何杯飲んでも片付けはしっかりしてるねえ」
呆れたように。しかし見慣れている感じで栄子がカウンターを見渡す。
幸太はカクテルを作るたびに片付けをし、
カクテルにあわせてグラスも変えていた。
「栄子さん、まだ四杯だけですよ」
「まだ四杯かい。珍しいね」
「でしょ」
「え、まだ四杯って珍しいんですか?」
「アキちゃん、こいつはいつもなら十杯は飲んでるよ」
「えええええ!?」
「そんな驚くことじゃないだろ」
「だって幸太、ボクと会ってからそんなに飲んでるの見たことない」
「お前を拾ったとき飲んでただろーが」
「あ、そういえばあの時はー・・・・・・」
「それよりお昼、軽く作ってありますよ。お二人様」
マグロの炙り焼きに塩だけを振り、
オリーブオイルを少しかけ、
炒めたガーリックを添えたもの。
とろろいも少しと納豆を包んだ、
オムレツなどがテーブルの上へ置かれている。




