十升目。
ジュークボックス。
色々な酒とグラスの並んだ棚。
小さめのバーカウンター。
食器の洗い場。
そしてバイクと車。
バーカウンターから離れたところにバイク三台と車二台。
整備できるように環境も整っている。
ドアーズはジュークボックスから流れていた。
流れてる曲は思い出せなかったあの曲から変わっている。
『リトル・ゲーム・・・・・・か』
今度はタイトルをすっと思い出して心で呟く。
バーカウンターへよっかかりながら煙草に火をつける。
「ね、ねえ。幸太」
「ん?どした」
まだ中身が残っていたビール瓶を抱えてきたアキが、
戸惑ったを顔に書いたように聞いてくる。
「お、アキ。
ビール持ってきてくれてたのか。ありがとな」
「そうじゃなくってー」
「そうじゃなくって?」
声とともに後ろから急に頭を撫でられ、
ひゃあ!と声を上げるアキ。
頭を撫でながら、
「どうしたんだい?アキちゃん」
アキの抱えていたビール瓶をカウンターへ並べながら、
驚いているアキを見て栄子はニコニしている。
『駄菓子屋の奥がこんなガレージ。驚くよなあ』
幸太は頭をかきながら、
アキにガレージをどう説明するか少し考え
「アキ、いいか。よく聞け」
「う、うん」
「ここは説明できないのが説明だ」
「幸太、なにそれー」
「なにそれって言われてもなー。俺もこの異空間はなぁ」
「幸太。何回も来てて異空間はないだろ。
ここはあたしの趣味のガレージって言ってるでしょ」
「栄子さん、外の駄菓子屋とのギャップ、考えた事あります?」
最初からここがそういう場所なら戸惑いもないだろう。
「ギャップがあるから面白いし楽しいんだろ。
物だって人間だって人生だって」
「ありすぎはきっついですよ」
無言で栄子は指を向ける。
指の先には例のとてとて走りでアキが目を輝かせながら、
ガレージの中を隅から隅まで回って見ていた。
「もう慣れてるよ。受け入れることに柔軟性があるんだね」
「・・・・・・」
「幸太も若いんだからあれくらいじゃあないとね」
バーカウンターの上にグラスを出して、
ビールを注ぎ栄子は楽しそうにアキを見ながら。
「アキちゃーん、
危ないから工具にはあんまり近づいちゃだめよー!」
「はぁーーい!」
栄子が奥から出て来た時の金属音。出したままの工具。
「ほんっと良い子だね」
「家出娘・・・・・・じゃない。
家出女装が良い子なんですか」
「へえ、家出してるの。あの子。
で、娘って?女装って?」
凄く楽しそうな顔をして栄子は聞いてくる。
『口、滑った・・・・・・』
幸太は諦めて今までのいきさつを栄子に話す。
「なるほどね。それで、おもちかえりってわけか」
「おもちかえりじゃないっすよ」
「実際そうだろ」
「一宿一晩世話しただけです」
「あ、そ。でも今日で二泊目」
「栄子さん楽しそうにそこばかりですけど・・・・・・」
「ああ、楽しいからそこばかりだよ」
「いや、あいつ家出で女装とか」
「それで?それが?」
「いや、そこ気にしないんですか?」
「家出したっていいじゃないか。女装だって素敵じゃないか。
なんでそんなとこにこだわるのか逆に聞きたいね。幸太」
「女装はいいですよ。そりゃあ、個人の趣味とか、
なにか色々でしょうから。ただ家出は家の人が心配したり・・・・・・」
「家出だってそれぞれの家庭で一括りにはできない。
それくらいあんただってわかってここ連れて来たんだろ、幸太」
「ええ、まあ・・・・・・」
「すぐ世の中の常識ってのを建前にするくせに本音は違うんだよね、あんたは」
軽く息をはいて
「栄子さんにはかないません」
笑顔で降参する。
そしてグラスにビールを注いで飲もうとした時、
「で、女装したアキちゃんってどんな子なのよ?」
急に聞かれ幸太は思いっきりふいてむせだした。
「幸太ー。どうしたの大丈夫?」
心配そうな顔をして近寄ってくるアキ。
「大丈夫大丈夫。
今度またアキちゃん連れておいでって話してただけ」
むせて返事の出来ない幸太にかわり栄子がこたえる。
「また来てもいいんですか?」
「いいよ、いいよ。いつでもおいで。
ところでアキちゃん、バイクずっと見てたけど」
「あ、はい。なんかあのバイクかっこいいなーって」
「そっかそっか。あれ気に入ったの」
「はい!」
栄子はアキが気に入ったというバイクの方へ歩きながら、
アキを振り返りおいでおいでと手招きする。




