一升目。
お昼近く。
幸太は目を覚ました。
大きく伸びて、あくびをしてから
「あったま、痛ってー」
とひとり言
「はい、お水」
幸太は差し出された冷えた水のコップを受け取り
「おぅ。ありがとう」
と答え。
頭をふってから、水を差し出した相手の方へ顔を向け。
『・・・誰?この女の子』
その言葉は幸太の頭の中で発せられた。
そして顔を向けたままコップを持ってしばらく固まった。
時間を戻そう。
幸太は昨夜、
居酒屋をハシゴして帰る時にいわゆる家出娘と出会った。
酒の勢いで、面白半分同情半分で家に一泊させる事にした。
部屋は2DKだから問題もない。あっちとこっちで寝ればいいだけだ。
その時かなり酔っていた幸太の記憶はすっとんでいるが、
そういう経緯で連れてきた子。
しかし酒の勢いと面白半分と同情半分とは、
どういうことかと言われそうだが、
これはこれで全否定は出来ないような気もする。
終電間近に会った女の子が、行く場所がない、とか。
言い訳ではあるけれど。
そしてそれだけではなく、
幸太自身気づいているかいないか、というところだが、
どこか行き詰まりなそのまま進んでいく日常。
そこからどうやってでもいい、その日常に変化を欲しがっていた事もある。
固まって記憶がすっとんでいる今の幸太に、
「昨日は飲みすぎだよ。はい、冷たいお水飲んで、
シャワー浴びてくるといいよ」
「あ、ボク勝手にシャワー使わせてもらったね」
「お昼ご飯、どうしよっか?」
その子はテンポ良く話しかけてくる。
「おーい、どうしたの?」
ん?っといった表情で幸太の頬を軽くぺしぺしと叩く
「やっぱし飲みすぎー。忘れてるんでしょ、ボクのこと」
『ボク?ボクっ子か?』
肝心なところの思考を飛ばして、
それでもやっと色々動き出した幸太の、
「あ、ああ・・・。ええっと・・・」
なんとか何か話そうとしだした声をさえぎって、
元気のいい、高らかな。誇らしげな。
そしてまた幸太が固まる自己紹介が始まった
「ボクは明子。今は明子!女装好きなんだ。
だから、女装してる今は明子なの。女装してない時の名前はアキだよ」
「むー。また、ぽかーんとしちゃって。
やっぱり忘れてるね。昨日ちゃんと自己紹介したのになあ。
ま、いいや。女装好きな男の子だよ!
昨日は泊めてくれてありがとう。改めてよろしくねっ」
これが幸太と明子の出会い。アキは、そのうち。