変わらない想い
ハロー、ハロー。
あなたは今、幸せですか?
「じゃあまた明日、唯」
そう言って手を振る友達に、私もバイバイと背を向けた。
いつも通りの別れ。いつも通りの路地。いつも通りの帰り道。いつも通りの夕日。それが私の、変わらない日常。
手にぶら下がる鞄には、確かな重みがある。オレンジに染まる街並みを、私は虚ろな目で見てた。
チェシャ猫につき落とされたあの日、気がついた私が最初に見たのはこの景色で。ああ、戻ってきたのだと思った。
だけど不思議なことに、私はビルの家に置いてきたはずのセーラー服を着ていて、手には鞄を握っていた。靴もローファーである。
時間、場所、そして私さえもが、向こうに行く前と何も変わっていない。アリスと白ウサギに呼ばれたときから、少しも。
その後、呆然としつつも家に帰ったのだけど、時間どころか日にちも変わっていなかった。もちろん誰も、お姉ちゃんのことは覚えていなくて。
私が体験したあの出来事に、何ひとつ証拠はない。まるで全てが白昼夢。ただひとつ確かなのは、私の記憶だけ。
『嘘。バイバイ』
君のその言葉が、耳から離れない。もうあれから、二ヶ月も月日が過ぎたというのに。
でも私は、忘れてないよ。あの世界のこと、ずっと忘れない。誰かが聞いたら呆れるファンタジー。夢物語って言うよね。
だけど私は、信じてる。だって約束したから。絶対、忘れないって。私が疑ったら、一体誰が彼等を信じるの?
必ず心のなかにあるの。いつだって存在する。
「…フラれちゃったけどね」
哀しいかな、片想い。もし他に好きな人ができなくて、生涯孤独になったら恨んでやるから。
「もっと素敵な人見つけて、私をふったこと後悔させようかな」
それもいいかもしれない、と私は小さく笑う。もちろん、そんなこと出来ないけれど。
「それは無理だと思うぜ?」
───それは、そう。唐突に。
背後から降る声。聞きたくて仕方なかった、彼の声。
…有りえない。だって、いるはずないんだ。
私は動けなかった。否定する思考と、期待する感情。
「俺より良い奴なんていないし、お前は俺を忘れられない。そうだろ? 唯」
愛しげに私を呼ぶ。たまらなくなり、私はゆっくり振り返った。
そこには、夕日をバックに立つ、変わらない薄笑いを浮かべたチェシャ猫。
「な、んで……」
君を見た瞬間、涙が溢れた。
これは幻覚? 今度こそ夢?
「白ウサギから聞かなかったのか? 俺は嘘つきなんだよ」
ねぇ、どういうこと? 私、思い上がっていいの?
「嘘って言ったのが、嘘」
ややこしいよ、とか。遠回しだ、とか。言いたいことがいっぱいある。
でも────
「大好きだよ、唯。離れたくないほど」
「っ…ばかぁ!」
私は彼の胸に飛びこんだ。
意地悪で、でも、愛しい嘘。not ending.物語は終わらない