破戒僧と無頼漢
「ほう、あのコマー"シャル"の裏側は斯様に薄汚かったでごわすか」
シャルズの本性、ここに見たり。破戒僧に無頼漢、ならずものもいいところの立ち振舞だ。
「抜かせ! この浮世、真っ当にやってるだけでは喰われて終いよ! かかれぇっ!!」
無頼漢と化した与力コマンドは十手ロッドを鞭へと変化させ、髪を振り乱しながら怒りに任せて床を叩く。それを合図に破戒僧達が錫杖を振り回しながら突進してきた。
「ヒョォォォォッ!!!」
「ヒィィィハァァァァッ!!!」
一人一人がバラバラに動き、錫杖による突きや蹴りを放って来る。更には倉庫の資材すら投げつけてくる者までいる始末だ。先程までの整然とした陣形も戦術も存在しない、ただの暴力集団。だからこそ、厄介極まる。
「どすこぉいっ!」
「ぎぇっ!!」
おいどんは真っすぐ突っ込んできた破戒僧を突っ張りで土俵の外まで飛ばす。そして深く息を吸い、腹の底から声を張り上げた。
「なればこそ、真っすぐ生きることが尊ばれるのでごわす!」
だがおいどんの言葉は届かない。土俵の外側で、おいどんを囲むようにぐるぐると走り回る破戒僧達。ギラつく目と相まって、まるで獲物を追い詰める肉食獣の群れのようだ。
「貴様は正しい、だがそれは強者の理屈だ!」
与力コマンドは得物を戦鎚に変化させ、床を引きずるようにして真正面から歩み寄ってくる。破戒僧に気を取られ過ぎれば、たちまちそのミートハンマーを振り下ろして来るだろう。
『雷電さん。ハックしたサーバーに、幕下ドナルドのログがありました。回収します』
突如混線する小雪からの通信。それを耳にした瞬間、張っていた気に緩みが生まれてしまう。そして、その隙を与力コマンドが見逃すはずが無かった。
「キエェェェェェェッ!!!」
しまった。そう判断した瞬間には、髪を振り乱した与力コマンドがおいどんの眼前でミートハンマーを振りかぶっていた。だが、柔らかく仕上げられるつもりは毛頭ない。
パァンッ!!!
おいどんの両の手が合わさり、空気が破裂するような激しい音が放たれる。猫だましだ。
「ガアッ!?」
虚を突く衝撃と音は、脳波までかき乱す。その隙は一瞬であっても致命的なのだ。振りかぶったまま固まる様は、隙の塊でしかない。おいどんは奴の浮いた腰を掴み、手前へと引き倒した。引き落としだ。
「2人とも! ログを回収したら、すぐに脱出するでごわす!」
『分かりました、急いでコピーします』
錫杖を構えて突っ込んで来る破戒僧をいなしつつ、小雪達に指示する。だが、2人も状況は良くないようであった。
『急いで小雪ちゃん。扉の補強が追いつかない。このままじゃ破られちゃう!』
少し遠いが、小春の焦る声と何かを叩く音が聞こえて来る。どうやら、小春が体を張って制御室の扉を塞いでいるらしい。だがそれも、限界が近いようだ。助けが要るだろう。
「おいどんが暴れて引きつけるでごわす。その隙に逃げるでごわす!」
指示を出すおいどんの隙を突こうと、地を這うほどの低い姿勢で足を狩りに来る破戒僧。それを叩き込んで地面に追い落とす。なおも立ち上がろうとする破戒僧を掴み、土俵の外へと放り投げた。
「小雪、倉庫周辺の警備システムを復旧させるでごわす」
『わ、分かりました』
おいどんはACSを起動させ、四股を踏む。その衝撃で、破戒僧を一人、吹き飛ばした。その衝撃を感知したのか、けたたましい警報の音と自動音声の放送が流れ始めた。
『総合倉庫に天然力士出現。総員対処せよ。繰り返す……』
「くっ、監視カメラが復旧する。監査対象にされる前に引き上げるぞ!」
何とか立ち上がったのであろう。与力コマンドが十手を振って命令を下す。破戒僧達は菅笠を拾うと、一目散に逃げ出した。
「貴様は正しい。だが覚えておけ! 皆にそれができるほど、世間は強くないのだとな!」
そう言い残し、与力コマンドも通路へと姿を消した。残されたおいどんは、ひとり呟く。
「だから相撲道を正すのでごわす。もう一度、人々を真っすぐ歩かせる道標になるために」
さて、増援の足軽ガードマンが向かって来るはずだ。おいどんも脱出しなければ。
「どうするでごわすかなぁ」
ポケット土俵を片付けつつ、おいどんは脱出する方法を模索した。




