シャルズに潜入せよ!
「お前達が新しく入隊した新人達か」
「「はい!」」「ごっつぁんです!」
警備会社の敷地内。訓練用の広場の中心に、新人達は集められた。同心チーフが手を後ろで組みながら、新人達の前を横断する。いかにも教官らしい立ち振舞いといったところだろうか。
「いい返事だ! ……だが気を抜くなよ。天然力士は、いつどこに現れるか分からんのだからな」
「「はい!」」「ごっつぁんです!」
同心チーフに目をつけられないよう、必死で声を張り上げる。声が小さいとか難癖をつけられたらたまらない。
「まぁ、足軽ガードマンとして精々気張ることだ。全員ひとまず詰所で待機してろ。以上だ、解散!」
同心チーフのひと言で、おいどんと新人の足軽ガードマン2人が詰所へと歩き出す。侵入成功だ。声を張り上げ過ぎたせいだろうか。新人達がこちらを怪訝そうに見ているが、些細な問題だ。おいどんは建物の中へと足を踏み入れた。
◇◇◇
おいどんは、新人達と共に無機質な合金製の通路を進む。ふと壁を見ると、でかでかと社名が掲げられているのが見えた。
Providential Martial & Confidential Security
プロビデンシャル・マーシャル・アンド・コンフィデンシャル・セキュリティ
通称シャルズ。それこそが今回潜入した会社の名前だ。わざわざ新人として侵入したのは、幕下ドナルドの痕跡、あるいは悪事の証拠を内部から掴むためだ。
「さて、ちょっとトイレに行くでごわす」
おいどんはそうつぶやき、自然な足取りで新人達から離れた。トイレを目指しつつ、他の部屋を探す。資料室、サーバールームに制御室。情報が得られそうな場所ならどこでも良い。総当たりだ。
「……まずはここでごわすな」
総合倉庫。そう書かれた金属のゲートを、おいどんは開いた。
「おぉ、広いでごわす」
総合倉庫と言われるだけあって、物流倉庫のような広さだ。両国国技館のメインアリーナより少し小さいくらいだろうか。車両や資材といった大きなものから、ヘルメットやネジ、書類の束に至るまで、多種多様なものが雑多に並んでいた。
「さて、何か見つかるといいのでごわすが……」
周囲を見渡しながら、数歩踏み込む。すると、背後のゲートが突然閉まった。
「ごわす!?」
「かかったな! 力士め!」
その声と共に、足軽ガードマンが倉庫のあちこちから現れた。しかも、十文字スピアを持って完全武装している。まさか罠だったとは……
「くっ、不覚!」
「まさに、飛んで土俵に入る夏の力士よ!」
おいどんは、完全に包囲されてしまう。正面には指揮官たる与力コマンド。十手ロッドを持っておいどんに対峙している。しかし、完璧な潜入だったはず。なぜバレたというのか。ちゃんこの匂いもケアしたはずだ。
「菅笠ヘルメットから、髷アンテナが突き出ておるぞ」
そう言われ、急いで頭を触るおいどん。手の感触を確かめた瞬間、肝が冷えるのが分かった。しくじった。本当に髷アンテナが菅笠ヘルメットから突き出ていたのだ。
「それさえ無ければ、完璧だったろうな。わははっ!」
十手ロッドで手を叩き、笑う与力コマンド。包囲する足軽ガードマンがドンドン増えてゆく。規則正しく、美しく。おいどんは土俵際といったところか。
「さぁ、観念して投降しろ。そうすれば、命までは取られんかもな」
その言い方に、引っかかるものを感じた。かもな? そしておいどんは、探りを入れる。
「……前に潜入した力士はどうしたでごわすか」
「あぁ、あいつか。生きたまま捕らえ、アケボノバイオニクスに引き渡してやったわ」
なるほど、口ぶりからして嘘ではなさそうだ。そして、嘘でないのなら、より醜悪だ。
「ま、実験材料にでもなったかもしれんな」
「……許さんでごわす」
幕下ドナルド。まだ生きているのなら、必ず救い出してやる。おいどんが拳を握り締めた瞬間、倉庫の電源が落ち、赤い非常灯に切り替わった。その瞬間を、おいどんは見逃さない。
「何ぃ!?」
「隙ありでごわす!」
おいどんはまわしに手を突っ込み、DSKIのポケット土俵を取り出す。そして、スイッチを押し、放り投げる。ポケット土俵はみるみる膨らんで立派な土俵を展開した。足軽ガードマンの一団を吹き飛ばしながら。
「「うわぁぁぁぁっ!?」」
「怯むな! 全員で抑えろ!」
与力コマンドが、残った足軽ガードマンをけしかける。おいどんはポケット土俵の中心に上がり、立合いの姿勢でそれを迎えた。
「さぁ、いつでもどこでも、はっけよいでごわす!」
◇◇◇
「どすこいっ!」
「ぐはあっ!」
おいどんの突っ張りが炸裂し、与力コマンドを吹き飛ばす。赤い非常灯に照らされた倉庫に立つのは、今やおいどん一人となっていた。
『雷電さん、ご無事ですか?』
館内放送から、聞き覚えのある声がした。小雪だ。
「無事でごわす! ナイスなタイミングでごわした」
『小雪ちゃんが、今だ! って。凄いですよね』
ちゃんと小春も一緒にいるようだ。2人とも無事なことに安堵する。
『制御室を制圧しました。雷電さんが引きつけてくれたおかげです』
『ゲートを閉じたし、監視カメラも全部止めました。雷電さん、何か見つけましたか?』
「いや、まだでごわす」
逃げるべきか、もう少し調べるべきか。考えあぐねていると、倒れたはずの与力コマンドが起き上がった。
「クククッ……まさか他の新人2人も侵入者だったとはな」
髷が解け、乱れた長い髪を掻き上げる与力コマンド。その露わになった素顔には、歪んだ猟奇的な笑みが浮かんでいた。
「監視カメラを切ったか。ならば、隠す必要も無いな」
そのひと言で、周囲の足軽ガードマン達も立ち上がり始める。ゆらりと立ち上がった彼らは、菅笠ヘルメットを脱ぎ捨てた。
「思い知るといい、シャルズを敵に回すことの恐ろしさをな」
菅笠ヘルメットの下から現れたのは、坊主頭。更に彼等は、十文字スピアの穂先を外して捨て始める。そして、石突部分を上に向けると、石突の形状記憶合金がぐにゃりと歪み、錫杖へと変化した。
錫杖を手に、ゆらりと立ち並ぶその姿は、破戒僧と呼ぶに相応しかった。




