第30話:白薔薇の裏側、隠された涙
登場人物
レイン・アークライト
主人公。アークライト家を出奔し、ミニドラゴンのファル、ウルフのフェリル、小型ゴーストのポルカ、召喚師の少女シルビア、白銀の狐ルナ、グリフォンのギルと共に旅を続ける心優しき召喚師。
ファル
レインの相棒である手のひらサイズのミニドラゴン。白薔薇の都の美しい街並みの裏に潜む、冷たい空気と不穏な気配を敏感に感じ取る。
フェリル
レインの相棒である小さなウルフ。優れた嗅覚で、街の華やかな表通りの裏に隠された悲しみや抑圧された魔物の匂いを嗅ぎ分ける。
ポルカ
小型ゴーストのマスコット。街を覆う冷徹なプレッシャーに少し怯えながらも、仲間たちの温かさに触れて勇気を持つ。
シルビア・ローゼンベルク
かつて自身が育った実家の本拠地「ローゼニア」に潜入したエリート召喚師の少女。かつての自分が囚われていた「恐怖の支配システム」の残酷な現実を目の当たりにする。
ルナ
シルビアの相棒である気高く美しい白銀の狐。美しく着飾られた都の裏側にある、一族の歪んだ構造を冷静に分析する。
ギル
誇り高い魔獣「グリフォン」の幼体。空から街を偵察し、厳重に管理された閉鎖的な街の構造をパーティに伝える。
若手召喚師の少年
ローゼンベルク家の支配下で無理やり魔獣を従えさせられそうになり、怯えている見習い召喚師。
前書き
『使役を捨てた召喚師の成り上がり ~最弱のミニドラゴンと、虐げられた仲間たちと歩む世界改革~』第30話をお届けします!
前回、白薔薇の都ローゼニアの正門で警備兵たちを圧倒的な「絆の魔力」で黙らせたレインたち。第30話からは、いよいよ長編「ローゼンベルク家編」の本格的な幕開けとなる、潜入と「裏の顔」の目撃を描きます。表向きは優雅で美しい薔薇に満ちた都の裏側で、強制契約のシステムに苦しむ人々と魔獣たちの現実を目の当たりにしたシルビアたちの決意を描いたエピソードです。ぜひじっくりとお楽しみください!
白薔薇の都ローゼニアの正門前。
シルビアが放った圧倒的な青銀色の魔方陣と、仲間たちの魂の共鳴の波長を目の当たりにし、警備兵たちが恐怖と驚愕で一歩も動けなくなっていたその隙に、レインたちは静かに、しかし堂々とした足取りで門を通り抜け、街の内部へと足を踏み入れていた。
背後で慌てふためく警備兵たちの声や、ざわめく群衆のどよめきは、巨大な白い石壁と、どこまでも美しく整備された街路の向こうへとすんなり溶けて消えていった。
「ふう……流石に緊張したわね。でも、あの様子なら当分の間はこちらの動きを悟られずに街の中を動けそうね」
シルビアは深く息を吐き出しながら、胸元に手を当ててそう呟いた。エメラルドグリーンの瞳には、かつて自分が怯えて逃げ出した街に戻ってきたことに対する複雑な感情が渦巻いていたが、その表情に迷いは一切なかった。
「みんな、お疲れ様。見事な連携だったよ。さて、まずはこの街の様子を落ち着いて観察しつつ、安全に身を隠せる場所――あるいは、この街の裏の事情を知るための拠点を探そうか」
レインがいつもの穏やかで優しい笑みを浮かべて振り返ると、肩の上のファルが小さな翼をパタパタさせながら元気に同意した。
『レイン、お腹が空いたよ! この街の美味しいご飯を食べたら、もっと元気になる気がするな!』
フェリルも「ワンっ!」と頷き、足元で周囲の匂いを丁寧に嗅ぎ取りながら安全な路地裏のルートを選び出している。
空の上では、ギルがふわりと翼を広げて旋回し、『地上は大通りがすごく綺麗だけど、なんだか歩いている人たちの顔がみんなピリピリして硬い表情をしてるぞ?』と、鋭い観察眼で街の印象を伝えてきた。
ギルの言う通りだった。
一歩、街の内部へと足を踏み入れてみると、白薔薇の都ローゼニアは、表向きは驚くほど優雅で美しかった。建物の壁面には見事な白薔薇が這わせられ、石畳の道はゴミ一つ落ちていないほど綺麗に清掃され、行き交う人々は高級な衣服に身を包んで上品に歩いている。
しかし、その街の空気を肌で感じたルナは、優雅に尾を揺らしながら低く、しかし鋭いトーンで首を振った。
『……表面だけの飾り物よ。この街の美しさは、すべてを恐怖と厳格な規律で統制し、人々の表情から自由な感情を奪い取ることで成り立っているわ。見てみなさい、あの通りを歩く人々を』
ルナが示した先を見ると、高価な服を着た貴族や商人の後ろを、首元に冷たい光を放つ金属製の「強制の首輪」を無理やり嵌められた魔獣たちが、怯えた目をしながら一言も鳴かずにトボトボと従えられて歩いていた。魔獣たちの瞳から誇りや野生の輝きは完全に失われ、ただ主人の命令に怯えるだけの「生ける人形」のようになっていた。
「……やっぱり、何も変わっていないわね。私が知っていた頃のローゼニアのままだわ」
シルビアは拳をギュッと強く握りしめ、唇を噛み締めながらその光景を見つめた。
「力による支配。魔獣を対等な生き物ではなく、ただの便利な道具、あるいはステータスのための消耗品としか見なさない。この街のすべてが、我が家――ローゼンベルク家の歪んだ思想そのもので出来上がっているのよ」
シルビアのその言葉には、かつて自分がその一族の血を引いていたことへの激しい嫌悪と、そんなシステムの中で苦しんでいる無数の命に対する深い痛みが込められていた。
レインはそっとシルビアの背中に手を添え、まるで包み込むような温かい声で言った。
「大丈夫だよ、シルビアさん。君が一人で抱え込んでいたその痛みも、今日からは僕たちが一緒に背負っているんだからね。この街の裏側に隠された真実をしっかり見届けて、僕たちにできるやり方で、この歪んだ空気を変えていこう」
そのレインの温かな手の温もりと、揺るぎない優しい言葉に、シルビアの胸に広がっていた冷たい焦燥感はスッと溶けていき、代わりに強い決意の光が灯った。
「ええ……ありがとう、レイン。私、もう逃げないわ」
一行は人目のつかない静かな路地裏を選び、街の奥へと慎重に進んでいった。
白薔薇の都の華やかな大通りから一歩外れた裏路地は、表の優雅さが嘘のようにひっそりとしており、どこか澱んだ冷たい魔力の気配が漂っていた。
しばらく歩いたその時だった。
古びた石造りの訓練施設の裏手あたりから、何やら押し殺したような少年のおびえた声と、冷酷な大人の怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、何をグズグズしている! この程度の戦闘用の魔獣の魔力コントロールすら満足にできないのか! お前は本当にローゼンベルク家の血を引く者か、それともただの落ちぶれた落第生か!」
「っ……! す、すみません……! でも、この子はそんなに強く首輪を締めなくても……!」
「言い訳をするな! 従う意思を見せない魔獣は、この痛みの調教で心ごとへし折るしかないんだ! さあ、もう一度魔導杖を構えろ!」
ガシャンッ!!と、冷たい鎖の音が響き渡り、続いて魔獣の悲痛な鳴き声と、少年の泣き出しそうな必死の声が重なった。
「……今の声、子供の……それに、魔獣を無理やり痛めつけて調教している音だわ!」
シルビアは表情を険しくし、迷うことなくその訓練施設の裏口へと走り出した。
レインや他の仲間たちも、一瞬の迷いもなくその後を追った。
施設の裏手にある狭い中庭を覗き込むと、そこには見るに堪えない残酷な光景が広がっていた。
身なりの良い一族の指導員風の男が、恐怖に顔を歪めた若い見習い召喚師の少年を威圧し、その足元では、全身傷だらけになった一匹の若い猫の魔獣が、冷たい鉄の鎖と強制の首輪に繋がれて床にうずくまっていたのだ。
「そこまでだ!」
シルビアが鋭い声を張り上げながら、中庭へと踏み込んだ。
指導員の男は突然現れた一団に驚き、不機嫌そうに顔を歪めて振り返った。
「なんだお前たちは! ここはローゼンベルク家の厳重な管理下にある訓練施設だぞ! 許可なく立ち入る者は、たとえ何者であろうと――……ん? おい、その顔……まさか……ッ!?」
指導員はシルビアの顔を間近で見た瞬間、あまりの驚きに言葉を失い、目玉が飛び出るほど見開いた。
「シルビア……お嬢様……!? なぜ、あなたがこんなところに……!」
その場にいた見習い召喚師の少年も、恐怖に震えながら顔を上げ、信じられないものを見るような目でシルビアの姿を見つめた。
白薔薇の都ローゼニアの深部に潜入したレインたちは、この出会いをきっかけに、一族のさらに深い闇と、虐げられた者たちの悲劇の中心へと足を踏み入れていくことになるのだった。
物語は、この街の核心へと、さらに熱く、深く加速していく。
後書き
第30話「白薔薇の裏側、隠された涙」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
いよいよ本格スタートした「白薔薇の都ローゼニア編」にて、華やかな表通りの裏に隠されたローゼンベルク家の残酷な強制調教システムと、それに苦しむ少年や魔獣の姿を描かせていただきました。シルビアの過去のトラウマとの向き合い方や、レインたちの優しさがしっかりと伝わっていたら嬉しいです!
次回の第31話では、その傷ついた少年や魔獣を助け出すために、指導員たちとの緊迫した対峙や、街の中で密かに活動する「虐げられた召喚師たち」との接触へと繋がっていきます……!
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それでは、第31話でお会いしましょう!




