奇妙な写真と好奇心
「ね、ねぇ……これってさ、やっぱりアレだよね……? 写っちゃってるよね……?」
大学のサークル、写真同好会の部室に蛍光灯の明かりが灯った。
今どき珍しい、レトロな引き伸ばし機を使ってプリントした写真には、明らかに『写るはずのないもの』がくっきりと浮かび上がっていた。
サークル活動の一環としてダムに出かけたのが一昨日のこと。
部長の『今回は、オートフォーカスも自動露出も禁止! フィルムカメラで行くよ!』という、謎の縛りプレイに付き合わされた僕は、慣れないカメラでなんとかフィルムを1本撮り切ることが出来た。
最初はフィルムの装填にも10分くらいかかったし、何なら2~3枚分くらいは無駄にしたと思う。
ピントを手動で合わせて、露出も自分で合わせて撮影した写真はさぞかし味があるのだろう……と思っていたけれど、デジタルと違って撮影してすぐに確認が出来ないという制約が、無駄に緊張感を高めていた。
結論から言えば、まぁまぁ楽しかった。ただ、やっぱり撮影した写真の内何枚かは暗すぎたり明るすぎたりと、ちょっと使い物にならない状態だった。
「顔、ですよね、これ……」
「だよね……ど、どうしよ? ね、芹沢くん、これどうしよっか?」
「なんで僕に聞くんですか、木林先輩何とかしてくださいよ」
「やばいよね? これ絶対アレだよ、心霊写真だよね?」
写真同好会の部員は複数いるけれど、活動しているのは僕と部長である木林先輩の2人だけ。残りの3人は実質幽霊部員だ。
僕が親のお下がりで軽自動車を持っているのを良いことに、木林先輩からは移動手段として良いように使われている。
が、正直言えば悪い気はしない。
普段チェックのシャツにデニムのスカートばかりで、飾り気のカケラもないような先輩だが、髪を整えて化粧をすれば美人だ。おまけに、そのことを知るのは今のところ僕一人だろう。
コスプレが趣味の先輩は、化粧と仮装をすると本当に化ける。多分、大学でもコスプレした木林先輩と、今こうしてプリントを見て『ヤバい、どうしよ、ホントヤバい』とぶつぶつ呟いている姿を見て、同一人物だとわかる人はいないだろう。
「ね、そう言えばさ?」
「なんですか、何がそう言えばなんです?」
「デジカメでも、心霊写真って写るじゃん?」
「いや、僕撮ったことないですけど……今回のコレが初めてですよ、変なの映り込んだのなんて」
「や、まぁそうなんだけどね? 今回のこの写真って、フィルムで撮ったでしょ? でまぁ、ネガの時点でも映り込んでたよね?」
今はフィルムで撮影した写真の原本、つまりフィルムをスキャナーで読み取って、デジタルの画像として取り込む事が当たり前に出来る。専用のスキャナーも部室においてあって、スキャン直後の画像も確認した。
画像データ上にも、ちゃんと謎の顔が映り込んでいるのを確認している。
ライトテーブル上にフィルムを乗せて、ルーペでも確認した。フィルムには、くっきりと何者かの顔が映り込んでいる。
「ってことはさ? 少なくとも撮影の時点で写ったわけじゃん?」
「ですね。それがどうしたんですか?」
「いやぁ、デジタル対応ってどうしたんだろうなって」
「……はい?」
あぁ、この人は本当に、『ちゃんと』してれば凄く美人なのに、こういうものすごく残念なトコロがあるのが玉に瑕だ。
本に曰く、これがギャップ萌えというものらしいけれど、少なくとも本人が言って良いセリフじゃないだろう。
「だってさ、ほら、考えても見てよ? 心霊写真ってさ、持ってるだけで祟るとか言うじゃない? アレって、昔は写真イコール紙にプリントされたものだったじゃん? 要は物理媒体なワケよね? でもデジカメって違うでしょ? 物理的には何処にも記録されてなくない?」
「いや、SDカードとかに記録されてるじゃないですか」
「でも電磁的な記録なわけでしょ? おまけに今どきプリントされる写真って少ないじゃん。基本PCとかスマホだよね?」
「ま、まぁそれはそう、ですけど……」
あと、木林先輩は、興奮してくると距離が近くなる。
今だって顔をものすごく近づけて、眼鏡の奥の垂れ目が大きく開いてきた。いつもは気だるそうな、ダウナー系のジト目さんなのに。
「でもさ? やっぱ心霊写真って持ってると祟られるとか、憑かれるとか言うでしょ? 媒体違うのに。ってことはぁ? 写る側が何らかの形でアップデートしてるってことじゃない?」
徐々に顔が近づいて来て、もう少しで鼻の頭が当たりそうだ。
前のめりになるあまり、今の時点でほぼ身体は密着しかかっている。
いけない、これはもう『サークルの先輩と後輩』の距離じゃない。付き合ってるわけでもないのに。
「まださ、百歩譲ってポラロイドはわかるの。あれも物理媒体だし、言ってみればリバーサルフィルムの一種って言って良いじゃない? でもプリントされたネガと、ディスプレイに写されたデジタルデータで同じ祟りの効果が出せるって、なんかおかしくない?」
「お、おかしいです。ついでに言えば先輩の距離もおかしくなってます!」
「えー? 何よぉ、芹沢くんって女が苦手なタイプ?」
「じゃないですけど! 近いんですってば!」
今でも、先輩の息が口にかかるくらいの距離になっている。付き合っててもここまで接近することはそうそうないはずだ。
まぁ、今までに誰かと付き合ったことなんてないから、実際は知らないけれど。
「謎だよねぇ? なんか興味そそられるよねぇ?」
「……い、いや、まぁ、不思議だなとは思いますけど……」
「でしょ? でしょー? 思うよね? だよねぇ? さすが、私が見込んだだけのことはあるよ、芹沢クン」
「何をどう見込んだのかは聞かないでおきます……」
「じゃさ? 今度またクルマ出してくれる? またこないだのダム行こ? 今度はフィルム2本ずつと、あとデジタルでも撮るよ!」
あぁまただ。
また僕はこの先輩に振り回される。
「どうしよっかなぁ、確かあのダムのそばに、結構有名な心霊スポットもあるんだよね。ああいうところでフィルムで撮ったらさ、また何か撮れると思わない?」
「先輩、怖くないんですか? そういう心霊スポットとか」
「え? 怖いよ? 夜とか絶対ムリ。だから朝行こ朝。ね? よし決まり! 明日朝8時に、私んち集合ね!」
「明日!? え、明日ですか!? 本気で言ってます!?」
「えっ? ダメ? なんで? 彼女とデートとか?」
「先輩、そうやって不意に無慈悲な一撃ブッ込んでくるのやめません?」
「……芹沢くん? ひょっとしてホントに彼女と約束あった? え? ゴメ――」
「だから! そう言うとこですよ先輩!」
本当にもう、この人は振り回し方のたちが悪い。
僕に彼女なんていた試しがないなんて知ってるはずなのに。
「もー、頑張りなよぉ。芹沢くん真面目だし? 背も高いし? その気になれば彼女の1人や2人すぐに出来るってぇ」
「あぁもうヤだこの先輩……デリカシーって言葉知ってます?」
「知ってる。美味しいよねアレ。甘くってサクサクしててさ」
「それ、僕が知ってるデリカシーじゃない……」
あぁ、前途多難ってきっとこういう事なんだろう。
今回のショートショートは、心霊写真を題材にしてみました。
今のところ、まだ心霊写真を撮影したことは無いですが、実際撮れたらビビリ倒すと思います




