第一話: 堕ちる天使と昇る悪魔
どこまでも続く、純白の雲海。
その上には、完璧な幾何学模様を描いて整然と立ち並ぶ、水晶と黄金で築かれた神殿が広がっている。空には七色の光が常に満ち、耳を澄ませばどこからともなく、心のささくれを浄化するような清らかなハープの旋律が流れてくる。
ここ、『ヘブン』は、秩序と善意で満たされた世界だ。
「まあ、ステラ。またそのような場所で、そのような格好を」
甲高い、しかし羽毛のように柔らかな声が、神殿の尖塔の陰から聞こえた。
声の主は、真っ白なシルクの衣を身にまとった三人の天使。彼女たちの背には、シミひとつない純白の翼が輝いている。
彼女たちの視線の先。神殿の屋根の縁に、一人の天使が腰掛けていた。
「……あァ?」
気だるそうに振り返った少女は、ヘブンにおいてはあまりにも異質だった。
天使の象徴たる翼こそあれど、その色は純白ではなく、どこか日焼けしたようなクリーム色。燃えるような濃い赤髪は無造作に束ねられ、低い位置で揺れている。そして、他の天使たちが皆、柔和なタレ目をしているのに対し、彼女の目は鋭く吊り上がっていた。
ステラ。
それが、彼女の名前だった。
「だいたい、貴様らに関係ねえだろ。あたしがどこで何をしようが」
「なっ……!『貴様ら』だなんて、なんて口の利き方を!」
「天使たるもの、常に柔和であれと教わりましたでしょう!」
三人の天使たちは、まるでこの世の終わりでも見たかのように顔をしかめ、扇のように翼を震わせた。彼女たちの周りに、ふわりと清らかな「徳」のオーラが舞う。ヘブンにおいて、「善い行い」や「正しい言動」は「徳」を生み出し、それがこの世界を維持するエネルギー源となる。
つまり、ステラを非難することすら、彼女たちにとっては「秩序を正す善行」なのだ。
「うるせえな……。そんなに『徳』が欲しいなら、そこの柱でも磨いてろよ」
ステラは悪態をつきながら、再びそっぽを向いた。
彼女の担当は「創造」。
天使の力は、神の奇跡を代行するもの。ヘブンにおいては、無から有を生み出すことは神の領域だが、既存の物に新たな価値や役割を与える「創造」と「改良」は、一部の天使に許された重要な任務だった。
ステラの足元には、作りかけの小さな彫像が転がっていた。ヘブンの神殿を飾るためのものだ。
他の天使たちが作る彫像は、皆、完璧な左右対称で、穏やかな笑みを浮かべ、誰が見ても「美しい」と感じるものばかり。
だが、ステラが今作っている獅子の像は違った。片方の牙は鋭く剥き出しになり、筋肉は躍動し、今にも飛び掛かってきそうなほど荒々しい。
「……また、あんな野蛮なものを……」
「本当に、彼女が天使でいるのが不思議ですわ」
「きっと『創造』の力があるから、大目に見られているだけなのよ」
「あのような粗暴な心、地獄の悪魔と何が違うというのかしら」
ひそひそと、しかし確実にステラの耳に届く声で、天使たちはささやき合う。
ヘブンで生まれ育った者にとって、最大の侮辱であり、恐怖の対象。それが「悪魔」だ。
「そんな悪い奴は地獄にしかいないね」
それが、このヘブンの共通認識。
少しでも秩序を乱せば、少しでも「善」から外れれば、それは即ち「悪」。地獄の所業。
「……チッ」
ステラは舌打ち一つすると、手元の獅子の像を掴んだ。そして、ぐっと力を込める。
彼女の「創造」の力が発動した。
像は眩い光を放ち、その姿を変えていく。荒々しさはそのままに、たてがみはより鋭く、爪はより長く。それはもう、神殿に飾るにはふさわしくない、「破壊」の衝動すら感じさせる芸術品へと「改良」されていく。
「きゃあああっ!?」
「な、なんて恐ろしいものを……!」
完成したそれを見て、三人の天使は悲鳴を上げた。まるで汚物でも見るかのように目をそむけ、慌てたようにその場を飛び去っていく。
「……ケッ。どいつもこいつも、分かってねえ」
一人になった屋根の上で、ステラは荒々しく創り変えた獅子の像を眺める。
彼女は、他の天使たちのように「完璧で穏やかなだけのもの」を美しいとは思えなかった。荒々しさの中にこそ、力強い生命が宿る。そう信じていた。
だが、その感性がヘブンで受け入れられたことは一度もない。
(あたしは、ただ……)
ただ、自分の「創造」の力を試したいだけだ。もっと違うものを作りたい。改良したい。
だが、ここでは常に「秩序」と「調和」と「善」が求められる。
ステラは、この息苦しいほどの「善」に満ちた世界が、心の底から嫌いだった。
(天使でいるのが不思議、か……)
(地獄の悪魔と何が違う、ね……)
天使たちの言葉が、棘のように胸に突き刺さる。
疎まれているのは知っている。自分が「問題児」扱いされていることも。
「……だったら、本当に出てってやるよ」
ぽつりと、誰に言うでもなく呟く。
(どうせ、あたしみたいなのは……)
ステラは立ち上がり、雲海のはるか下を睨みつけた。
このヘブンと、忌み嫌われるヘル。その中間に、「地上」と呼ばれる世界があるという。
善人も悪人も、清らかなものも穢れたものも、全てがごちゃ混ぜになって生きている世界。
(「悪い奴」か……)
ヘブンの天使たちが口を揃えて「地獄にしかいない」と蔑む、秩序を乱す存在。
だが、ステラには、そうした「悪い奴」の方が、よっぽど自分と気が合いそうに思えた。
「……悪い奴とつるむんだ」
ヘブンから逃げ出すための禁断の儀式。「堕天」。
家出同然の、無謀な計画。
だが、ステラの吊り上がった目には、この息苦しい故郷への未練はなく、まだ見ぬ地上への渇望だけが、赤く燃え盛っていた。
一方、ヘブンとは対極に位置する世界、『ヘル』。
空は燻るような暗赤色に染まり、大地にはマグマの川が奔る。歪にねじれた黒鉄の塔がひしめき合い、そこかしこで絶えず破壊音と、悪魔たちの甲高い嘲笑が響き渡っている。
秩序と調和のヘブンに対し、ここは混沌と破壊こそが是とされる世界だ。
「ヒャハハ! 見ろよ、あの塔、俺様が昨日一日かけてぶっ壊してやったぜ!」
「ハッ、甘えな! 俺なんか、昨日だけで三つの魂を堕落させてやったわ!」
「いやいや、結局は『核』の量だろ? 俺の破壊は最高効率で『核』を生み出すんだよ!」
酒場(という名の洞窟)では、角や尻尾を生やした悪魔たちが、いかに自分が「悪いこと」をし、いかに効率よく「破壊」を行ったかを競い合っていた。
ヘルでは、破壊行為によって生み出される「核」が、世界のエネルギー源であり、食糧でもある。
より多く、より派手に破壊し、より多くの「悪」をなすことこそが、悪魔の誇りであり、存在意義だった。
そんな騒がしい酒場の片隅で、一人だけ、その輪に加わらない少女がいた。
「…………」
タレ目がちの大きな瞳。陽光を思わせる、この世界にはあまりに不似合いな金髪のショートヘア。
彼女は、目の前のマグマが注がれたジョッキ(中身は煮立っていない)を、ただ静かに見つめている。
彼女の名は、アスエル。
このヘルの「問題児」である。
「……おい、見ろよ。またアスエルの奴、一人でぼーっとしてやがる」
「悪魔のくせに、あのタレ目。見てるだけでイライラするぜ」
「本当だよな。あいつ、この前の『合同破壊祭』でも、ノルマの半分も壊さなかったんだろ?」
「『まだ使えるものを壊すのは、効率が悪いと思います』だとよ。ケッ!」
ひそひそと、しかし確実にアスエルの耳に届く声で、悪魔たちは嘲る。
その声に、アスエルはゆっくりと顔を上げた。
「……あら。お噂ですか? 私、何かいたしましたか?」
おっとりとした、柔らかな声。
その「悪魔らしくない」物腰が、余計に周囲の神経を逆撫でした。
「チッ……。おい、アスエル!」
リーダー格の、一際大柄な悪魔が、テーブルを叩きつけて立ち上がる。
「お前、本当に悪魔かよ? そのおっとりした喋り方、ムカつくんだよ! 少しは悪魔らしく、邪に振る舞えねえのか!」
「邪に、ですか……。うーん、そう言われましても」
アスエルは、ほんの少し首を傾げる。
「だいたい、お前、『破壊担当』のくせに、なんで破壊を渋るんだよ!」
「そうですよ? 私は『破壊担当』ですもの。だからこそ、思うんです」
ふわりと、アスエルは微笑んだ。
そのタレ目が、優しげに細められる。
「どうせ壊すなら……跡形もなく、完璧に、ミクロの単位まで分解しつくさないと、意味がないじゃないですか。
「「「…………え?」」」
悪魔たちの動きが、一斉に止まった。
アスエルは立ち上がると、先ほどテーブルを叩いた悪魔が持っていた、黒鉄のジョッキを指差した。
「たとえば、これ」
「あ? お、おう……」
「こんな風に中途半端に『壊す』のは、美しくないと思うんです。そうでしょう?」
アスエルが、そのジョッキにそっと指先で触れる。
次の瞬間。
「…………」
サァァァ…………
鋼鉄でできていたはずのジョッキが、音もなく、ただの黒い粒子となって崩れ落ち、そのまま風に溶けるように消滅した。
ミクロレベルでの完全な「破壊」
それは、他の悪魔たちが行う「叩き壊す」「爆発させる」といった乱暴な破壊とは、次元が違った。あまりにも静かで、完璧すぎた。
「……ま、こんな風に、ですわ」
にこり。アスエルは、塵すら残らなかった空間に満足そうに微笑んだ。
「「「………………」」」
酒場は、水を打ったように静まり返る。
大柄な悪魔は、ジョッキが消えた自分の手を、信じられないものを見る目で見つめている。
「……や、やっぱ、お前、おかしいよ……」
「……能力は随一だが、言動が天使かぶれなんだよな……」
「あんなおっとりした顔で、あんなエグいことしやがる……」
(あら? また、引かれてしまいましたわ……)
アスエルは、内心で小さくため息をついた。
彼女は、ただ自分の「破壊」の美学を述べただけだ。無駄な破壊は好まないが、やると決めたら完璧にこなす。それが彼女の担当だった。
だが、その「おっとりした性格」と「完璧すぎる破壊能力」のギャップが、他の悪魔たちから「悪魔でいるのが不思議」と疎まれる原因だった。
「……そんな“良い奴”は天国にしかいないね」
それが、このヘルの共通認識。
少しでも秩序を重んじれば、少しでも「悪」から外れれば、それは即ち「善」。天国の所業。
(天国、ですか……)
アスエルは、酒場の外に広がるマグマの川を見つめた。
(いいえ、私が行きたいのは、そんな場所じゃありませんわ)
彼女が密かに憧れているのは、このヘルとも、忌み嫌われるヘブンとも違う、第三の世界。
善人も悪人も、清らかなものも穢れたものも、全てがごちゃ混ぜになって生きているという「地上」。
(「良い人」……)
ヘルで忌み嫌われる「善」を、当たり前のように行う人々。
彼女は、そういう存在と出会ってみたかった。
(ここにいても、私は『問題児』のまま……)
アスエルは、そっと拳を握った。
「……良い人と出会うんだ」
ヘルから逃げ出すための禁断の儀式。「昇天」。
家出同然の、無謀な計画。
だが、アスエルのタレ目には、この混沌とした故郷への未練はなく、まだ見ぬ地上への清らかな憧れだけが、静かに灯っていた。
――――――――――
【ヘブン:廃棄された観測所】
ヘブンの最下層。
かつて天使たちが「下界(地上)」を観測するために使っていたとされる、今は打ち捨てられた水晶のドーム。ここは、清らかな「徳」の循環からも外れ、埃と静寂だけが満ちる、忘れ去られた場所だ。
他の天使たちが忌み嫌う、この「淀んだ」場所こそ、ステラが選んだ儀式の舞台だった。
「……ケッ。どいつもこいつ も、こんな場所があることすら忘れてやがる」
ステラは、ドームの中央に刻まれた古い転移陣の上に立っていた。本来はヘブン内の移動に使うものだが、彼女は数週間かけて、こっそりとこれを「堕天」用に“改良”していた。
陣の神聖な文字は、ステラの手によって黒い塗料で塗りつぶされ、反逆と混沌を意味する禁忌の紋様へと書き換えられている。
「(天使長……テオルには、悪いけど)」
ふと、一人の天使の顔が脳裏をよぎった。
テオル。彼女の師匠であり、唯一、その粗暴な言動の裏にある優しさを見抜き、根気強く指導を続けてくれた天使長だ。
彼だけは、ステラがどれだけ問題を起こしても、見捨てることはなかった。
(……いや、だからこそ、だ)
ステラは頭を振った。
あの人の優しさに甘えて、あの息苦しい場所に居続ければ、自分はいつか、あの人の顔にまで泥を塗ってしまう。
疎まれ、陰口を叩かれ、爪弾きにされるだけの自分が、「問題児」でなくなる唯一の方法。それは、ここから消えることだ。
「……もう、うんざりなんだよ」
ステラは、腰に下げていた袋から、ヘブンでは決して見ることのない「あるもの」を取り出した。
それは、彼女が「創造」の力で密かに作り溜めていた、「獅子の像」と全く同じ……荒々しく、生命力に満ちた、ヘブンの価値観では「悪」とされる造形物。
それを、彼女は改造した陣の各所に、ためらいなく叩きつけるように配置していく。
「堕天」の儀式。
それは、自らの「善」の属性を強制的に反転させ、ヘブンからの追放を願う禁断の行為。成功すれば、ヘブンの加護は失われ、二度とこの純白の雲海を踏むことはできなくなる。
まさに、家出同然の覚悟だった。
(待ってろよ、地上)
彼女は、ヘブンの書庫で密かに読んだ地上界の記録を思い出す。
そこは、善も悪も、秩序も混沌も、全てがごちゃ混ぜになった世界。
天使たちが「地獄にしかいない」と蔑む、「悪い奴」がいっぱいいる世界。
「悪い奴とつるむんだ。あたしみてえな奴が、胸張って生きていける場所で……!」
決意を固め、ステラは陣の中央に立った。
両手を広げ、目を閉じる。
「――あたしは、あたしが『善』だと思うもののために、『創造』する!」
それは、祈りであり、呪いだった。
彼女が叫んだ瞬間、足元の陣が、神聖な白ではなく、濁った灰色の光を放ち始めた。
ヘブンの秩序が、彼女を「異物」として認識し、排除しようと動き出す。
「うぐっ……!」
全身を万力で締め上げられるような、凄まじい拒絶反応。
だが、ステラの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「(そうだ、それでいい……! 拒絶しろ、ヘブン!)」
彼女の背中にあるクリーム色の翼から、純白の羽根が抜け落ちていく。
身体が、この世界から弾き出されようとしている。
「(さよならだ、退屈な天国!)」
灰色の光がステラを包み込み、その姿は水晶のドームから掻き消えた。
彼女の身体は、重力に引かれるように、光の届かない暗い虚空へと、まっすぐに堕ちていった。
――――――――――
【ヘル:忘れ去られた大空洞】
ヘルの最深部。
かつて大悪魔がその力を誇示するために創り出し、そして飽きて破壊し尽くされた結果、何も残っていない広大な空洞。ここは、「核」を生み出すための破壊対象すら存在しない、悪魔たちにとって何の価値もない不毛の地だ。
他の悪魔たちが寄り付きもしない、この静かすぎる場所こそ、アスエルが選んだ儀式の舞台だった。
「……ふぅ。ここなら、誰も来ませんわね」
アスエルは、空洞の中央、わずかに残った平らな岩盤の上に立っていた。
彼女の足元には、この数週間、誰にも気づかれないよう密かに描き進めてきた、巨大な魔法陣が広がっている。
それは、ヘルの混沌とした紋様とは真逆の、完璧な対称性と規則性を持った、清らかな幾何学模様だった。
「(悪魔長……ヴァンゴ様には、申し訳ないですけれど)」
ふと、一人の悪魔の顔が脳裏をよぎった。
ヴァンゴ。彼女の上司であり、唯一、そのおっとりした言動を「天使かぶれ」と罵りながらも、彼女の「完璧すぎる破壊」の能力だけは高く評価してくれていた悪魔長だ。
彼は、アスエルがどれだけ浮いていても、その実力を認めて任務を与え続けてくれた。
(……いいえ、だからこそ、ですわ)
アスエルは静かに目を伏せた。
あの人の期待に応えようとすればするほど、彼女の「破壊」は完璧になり、周囲との溝は深まっていく。
疎まれ、陰口を叩かれ、「悪魔でいるのが不思議」と言われ続ける自分が、この世界で唯一「普通」でいられる方法。それは、ここから消えることだ。
「……もう、疲れましたわ」
アスエルは、懐から小さな小瓶を取り出した。
中に入っているのは、彼女が自らの能力で、ジョッキや岩をミクロ単位まで「破壊」した際に集めた、純粋な「物質の粒子」。
それを、彼女は描いた魔法陣の線の上に、一粒一粒、完璧な間隔を保ちながら、そっと置いていく。
「昇天」の儀式。
それは、自らの「悪」の属性を強制的に中和させ、ヘルからの離脱を試みる禁断の行為。成功すれば、ヘルの混沌は彼女を拒絶し、二度とこのマグマの大地に戻ることはできなくなる。
まさに、家出同然の覚悟だった。
(待っていてください、地上)
彼女がヘルの禁書庫で垣間見た、地上の記録。
そこは、善も悪も、清らかなものも穢れたものも、全てが寄り添い合って生きている世界。
悪魔たちが「天国にしかいない」と嘲笑う、「良い人」がいっぱいいる世界。
「良い人と出会うんだ。私のような者でも、受け入れてくれる……そんな温かい場所で」
決意を固め、アスエルは陣の中央に立った。
そっと両手を胸の前で組む。
「――私は、私が『悪』だと思うものを、完璧に『破壊』します」
それは、祈りであり、誓いだった。
彼女が呟いた瞬間、足元の陣が、ヘルの濁った赤ではなく、清らかな青い光を放ち始めた。
ヘルの混沌が、彼女を「異物(秩序)」として認識し、反発しようと動き出す。
「あっ……!」
全身を底なしの沼から無理やり引き上げられるような、凄まじい浮遊感。
だが、アスエルの表情は、恐怖ではなく、安堵に満ちていた。
「(そうです、それでいいのです……! 反発してください、ヘル!)」
彼女の金髪が、重力に逆らうようにふわりと舞い上がる。
身体が、この世界から押し出されようとしている。
「(さようなら、私の愛せない故郷)」
青い光がアスエルを包み込み、その姿は大空洞から掻き消えた。
彼女の身体は、光に導かれるように、眩い虚空へと、まっすぐに昇っていった。




