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9 化け物

ジークは警備隊基地を後にし、奇妙な三人組と別れてからすぐに現場に到着した。


そして目の前に広がる惨劇に顔を(しか)めた。

建物は崩壊し、市街の半分近くはディオスパイダーに支配されていた。

街中に広がる蜘蛛の糸には多くの餌となった人たちが絡めとられている。


その中にスワンナもいるのだろうか?


アークエンジェルの隊長であるスワンナとジークは恋人同士であった。

彼女は自分よりも強く、優しく、聡明で全てにおいて自分を上回っていた。

そんなスワンナがディオスパイダーに敗北したと聞いたとき、ジークは心の奥から憎悪と憎しみと怒りが湧き出てくるのを感じていた。

しかしそこで冷静さを欠いてはまるで若い新人冒険者だ。

仲間の冒険者に指示を出し、市民たちの護衛を頼むと失意のうちにあるであろう叔父の所に急いだのである。


───くそったれどもめ……!


心の中で悪態をついて息を整える。

愛剣を構え、体から立ち上る闘気を全開にしてディオスパイダーたちに向かって駆け出した。


「おれはAランク冒険者のジークだ!!クソ蜘蛛どもが!!かかってきやがれ!!」


なるべく目立つように、全てのディオスパイダーたちがこちらに集中するように大声で叫びながらディオスパイダーの群れに飛び込んでいく。


───スー……今逝くぜ……!

───伯父貴……あとはたのんだぜ……!


心のなかで恋人への別れと叔父に後を託し、ジークは死地へと駆け出してい行った。



アーシュリが佐藤勝利たちから分かれて数分後、すぐにアーシュリは現場にたどり着いた。


「スワンナ……!どこ……!?」


親友を探すため辺りを見回すとすぐにその惨劇に目を覆いたくなった。

街は蜘蛛の糸に覆われており、黒い蜘蛛たちは餌を増やしながらゆっくりと行進していた。

蜘蛛の巣には逃げ遅れた市民や警備隊たちが絡めとられている。


「うう……」


蜘蛛に見つからないように建物に隠れながら飛んでいるとさっきの冒険者の男を見つけた。

周りを見渡すと蜘蛛たちはここにはいないようだ。


「あ……あんたは……」


ついさっき会ったばかりの男はすでに蜘蛛の糸に捕まっており身動きが取れない。

屈強だった体は既に手足が1つしか残っておらず残った左腕も指先がなかった。

ちぎられたのだろうか?なくなった手足の先にはご丁寧に蜘蛛の糸で止血してある。


「き……みは……」


虚ろな瞳がアーシュリを映すがもう焦点はあっていなかった。


「あ……ああ……」


───貴女が加勢したところでもって数秒です───


あのむかつく魔族の女に言われたことを今更思い出す。


地獄……。


ここは地獄なのだろうか?


魔界よりもさらに深い場所にあると言われる地獄とはこのような光景なのだろうか?

呆然としていると突然右の羽に激痛が走った。


「ああ!!」


次の瞬間左足にディオスパイダーが噛みついてくる。


───そんな!さっきまでこの周りに蜘蛛はいなかったのに!?


蜘蛛たちのあまりの俊敏さに驚くと、次の瞬間には左脚を食いちぎられていた。


「………え?」


なにが起ったのだろうか?


「いやあああああああああ!!!?」


一瞬にして右羽と左脚を失いのたうちまわるアーシュリだが、すぐに身動きが取れなくなる。

蜘蛛の糸に雁字搦めにされたアーシュリは体が痺れて動けなくなるのを感じた。


───ああ……ここで私も死ぬのか……


何人にも逃れられぬ死が自身に迫っていることをようやくアーシュリは悟った。


───ごめんね……スワンナ……


自分よりも賢く、強く、美しい親友の事を思ってアーシュリは目を閉じる。


そう言えばあの転移人にも悪いことをした。

自分の仕事を放り出して彼を放置してしまった。

人間のくせに自分に口答えしてくるあの男には腹が立ったが、よく考えれば彼も勝手にこの世界に連れてこられたのだ。


───怒っても無理はないかな……

───無事だと……いいな……





ふわりと、体が軽くなるのを感じた。

自分は死んだのだろうか?


「ってさむ!!」


がばっと体を起こし目を開けるとそこは氷の世界だった。


辺りの蜘蛛たちはバラバラになって凍り付き、完全に活動を停止している。

この光景どこかで……。


そう思っていると向こうの方から走ってくる一人の男を見つけた。


「よかったぁ!無事だったのか?」


その男は移転人の佐藤勝利であった。


「あんた……なんで……」


そこまで言ったハッと気づく。

そうだ、これはジルトさんが殺された時と同じ光景だ。

だとするとまさか……!?


「ねぇ……これをやったのってもしかして……」

「ああ……シアンだ……」


苦笑いをしてほほをかく佐藤勝利を呆然と見ながら、自分の羽と足が復活しているのを気付いた。


「え……?」

「君たち大丈夫か!?」


驚いていると屈強な男に話しかけられた。

彼は先ほど目の前で餌として絡めとられていた冒険者である。

男の体も全ての手足が元通りになっており、彼自身も困惑しているようだ。


「多分それもシアンが治してくれたんだと思う」


混乱していると佐藤勝利はとんでもないことを言った。


あれだけ欠損していた体を一瞬にして元通りにしたというのか!?

だとするとあの女はそこいらの僧侶やこの世界に3人しかいない聖女よりも癒しの力を持っているということになる。

圧倒的武力とそれと相反する圧倒的な癒しの能力。

本来ならその双方を持っているものなど、神話上にしか存在しないはずだ。


化け物……。


助けてもらったことも忘れ、アーシュリはやはりあの女には逆らわないようにしようと心に誓うのであった。

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