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8 ファルデア王国のブルリカ

ファルデア王国の東北に位置するブルリカという街は美しい海と綺麗な街並みが自慢の街だ。

国境に位置する街でもあり、海、陸路ともに貿易ルートとなっており、非常に栄えた街でもある。


そんなブルリカを代表する兵士たち「ブルリカ警備隊」は皆屈強な戦士たちであり、特に隊長を任されているアルデン准将は優れた頭脳と他を圧倒する武を持ち、文武両道の初老の男性である。

さらにはこの街を守るため天界から遣わされたアークエンジェルズたちも皆エリートたちであり、隊長のスワンナは非常に優れた神力と魅力的な容姿の女性で非常に市民からの人気もあった。

ブルリカには冒険者ギルドも存在しており、そこにいる冒険者たちも非常に屈強な戦士たちで、国に12人しかいないAランク冒険者のうち実に4人ものAランク冒険者が登録されていた。


ブルリカ3つの守護者と言われたブルリカ警備隊・ブルリカ所属アークエンジェルズ、そしてAランク冒険者率いるギルド「オーバ」。


どんな敵国の侵略者でも、どんな盗賊や海賊でも、どんな魔物たちでも、彼らには適わなかった。

噂に名高い守護者達は百戦百勝の戦士たちとして市民たちからの絶大な支持を受けていた。


だから今回のスタンピードも最初はだれもあわててはいなかった。

数年に一度、魔界と人間界の次元の歪みから発生するスタンピード。

魔界に住む魔物たちがその次元の歪みから大量に発生してきて街を襲う。

次元のゆがみが起ると警備隊の魔術師たちがそれを察知し、警告鐘を鳴らす。

市民たちは慌てず騒がず、所定の避難所まで避難する。

そして最初にアークエンジェルズが次元のゆがみに向かい、それを対処。その取りこぼしを警備隊が処理していく。


数年に一度起こるイベントみたく、アークエンジェルズのスワンナ隊長の勇姿を見ようと避難すらしないものもいた。


そんな市民たちが最初に違和感を感じたのはスワンナが大きな悲鳴を上げた時だった。


「ああああああああああ!!!」


彼女の聞いたことのないような悲鳴が街にこだました時、初めて市民もそして警備隊たちも今回の以上を察した。

そして悲鳴を上げたスワンナを見た時、彼女の惨劇に市民たちもまた悲鳴を上げるのである。


美しく白い羽は片方は千切れており、彼女が雄々しく戦う象徴として掲げていた銀の剣を携えていた右腕はすでにそこにはなかった。

身体は糸で覆われており身動きが取れなくなっている。


見れば周りの天使たちも同じような状態であった。


「み……んなはやく……にげな……さ……」


息も絶え絶えに皆に呼び変える声に市民たちは悲鳴とともに慌てて逃げ始める。


少し遅れて到着した警備隊はアークエンジェルズの敗北に一瞬心を折られそうになるが、気持ちを保ち敵を見る。


ディオスパイダー。


魔界に生息する黒い蜘蛛は本来1m~1.5mほどの体長である。


しかしそこにいた蜘蛛たちはざっと見ただけで体長5m以上の巨大な蜘蛛であった。

突然変異。しかしその突然変異は一匹ではなく群れ全ての蜘蛛がその大きさであった。

ざっと見ただけで100匹以上の巨大な蜘蛛たちが街に押し寄せていた。


ディオスパイダーの糸には毒があり、肌に触れるとそこから体が痺れて動けなくなるのだ。

牙も同様に痺れ毒があり獲物を絶対に逃さない。

ディオスパイダーは習性上一度群れで獲物の巣を狙い、巣を完全に無力化してから捕らえた獲物を食らう習性がある。

そして獲物は半死の状態で生かしておき、新鮮な生き肉を貪るのである。

よってアークエンジェルズたちは半死の状態で捕らえられていた。


そして警備隊たちも自分たちの運命を悟る。

数時間……いや、数分後には自分たちもディオスパイダーの餌として食卓にならぶことになる……と。

そしてその運命は決して逃れることができないと。



アークエンジェル全滅の報告を受け、アルデン准将は膝から崩れ落ちそうになるのを必死に抑えた。


すでにスタンピートから30分ほど経過しており、ようやくその第一報を受けたのである。

本来は現場に到着した魔術師が魔術装置を使って状況を逐一報告するのであるが、いつまでたっても報告がなくやきもきしていた時だった。

現場から一命をとりとめた兵士からの報告を受け、アルデンはすぐに街を捨てる決心をする。


突然変異のディオスパイダーの群れ。


スタンピード発生から凡そ数分でアークエンジェルズを無力化したその化け物たちに対処するにはもはや王国筆頭軍たちをおいてなかった。


「すぐに市長に連絡して、街の住人を全てこの街から退去するように伝えろ!」


兵士たちに指示を出しながらアルデンは次の指示を出す。


「王国軍に連絡して特別部隊を編成するように伝えろ!このままでは未曽有の大災害に発展する!」


指示を出しながら自らも準備を始める。


「准将?なにをされているのですか?」


不思議に思った部下がアルデンに話しかける。

アルデンは武器を携えて今にも戦場に行こうとしているのである。


「ヴァイス中佐……あとのことは頼んだぞ」


そして若き自身の右腕の肩に手を置くと続けた。


「わしも戦場に行く。後の指示はお前に任せる」

「何を言われているのですか!?准将も早く避難の準備をしてください!」

「この老体にできることは彼奴らを数分でも足止めして、市民の避難の時間を稼ぐことだ」


あとは若い者たちの仕事だ、と笑い部下に後を託すのである。


「ちょっとまった」


そうして指令本部から出ていこうとするアルデンを止める一人の男。


「伯父貴がいなくなっちゃあ警備隊も混乱しちまうだろうが」

「お前……」


彼はアルデンの甥にしてAランク冒険者のジークであった。


「ここは俺が行く。正直老体についてこられたんじゃあ足手まといだし伯父貴はみんなの避難を誘導してくれ」


混乱してるだろうしな?っとジークは続けて笑った。


「なあに少し時間を稼いだら俺も逃げるさ!

アークエンジェルズを倒すような化け物相手に長居はしたくないしな!」


そう言って笑う甥にアルデンは何も言えなかった。


「さあ!時間がねぇ!伯父貴は早く市民たちのとこに行ってやれ!」

「ジーク……」

「そこには他の冒険者たちも避難を先導してる!市長たちもすぐに合流するだろ!」

「……」

「ヴァイス!!」


黙ってしまったアルデンを無視してジークはヴァイス中佐に話しかけた。


「は…はい!」

「市民を頼むぜ!ついでに伯父貴も!」


そう言うとジークは踵を返し部屋を出て行った。


「ジーク……」


あの魔物たちを相手にして逃げれるはずがない。

そんなことはジークが一番よくわかっているだろう。


甥を死地へと赴かせてしまった……。


「准将!ジークさんや警備隊たちの犠牲を無駄にしてはいけません!」

「………わかっている。」


アルデンは震える拳を押さえつけ、ヴァイスと共に市民の元へと急ぐのであった。

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