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閑話4 もう一人の移転者

暗い森の中を一人の少年が走っていた。

少年は何かから逃げるように、時折後ろを振り返りながら逃げる。


「いたぞ!!あそこだ!!」


見つかってしまった少年はクソっと悪態を付きながらなお走った。


───そう簡単に捕まってたまるかよ!!


少年はサッカー部に所属していた。

レギュラーを取れる程の実力ではなかったにせよ、そこら辺の大人たちに体力で負けるつもりはなかった。


───目の前で佐藤が消えたと思ったら今度は俺かよ!!


彼の名前は三谷和也。

佐藤勝利のクラスメイトにして友人である。


ホームルームが終わって担任に呼ばれ、職員室に行こうとして消えた友人。

自分を含むクラスメイトが驚愕する中、次の瞬間自分の目の前が暗転した。


目が覚めたら周りには怪しいフードを被った集団。

床には怪しい魔法陣のような模様。

どう考えても普通ではなかった。


その後持ち物を奪われ、衣服を無理やり着替えさせられた三谷は、三日ほど牢屋のような場所に放置されていた。

最低限の水と食事は渡されるがそれだけだ。

不衛生なトイレと、藁が引かれた冷たい床。

どうやってかは知らないが、どうやら自分はこの怪しい連中に拉致されたらしい。


冷たい床で眠りながら、三谷はとりあえずどうやって連中から逃げるかを考えていた。


「貴様を指導者様に引き渡す」


しばらくして集団のリーダー格の男がそう言った。

その時三谷はぐったりとしていた。


フードの男たちはため息をつくと、二人の男が彼の両脇を抱え、引きずるように車へと連行する。


だが次の瞬間三谷は急に暴れ出す。

完全に力を失っていたと思っていた男たちは突然の大暴れに彼を離してしまった。


その隙を見逃さず、三谷は駆け出す。


「なにをしている!!早く捕まえろ!!」


慌てる男たちを背に、三谷は全速力で駆け抜けていった。

拉致された場所の近くに樹木が生い茂っていた。

男達の目を眩ませるため、森に飛び込んだ。


こうして森の中を駆け抜けた三谷であるが、さすがに三日も放置されていたとあって体力の限界であった。


「だれかぁ!!助けてくださぁい!!」


最後の力を振り絞り、助けを呼びながら走る。

次の瞬間銃声が聞こえた。


振り向くとフードの男たちが自分に向かって銃を発砲したのだ。

フィクションでしか見たことのない本物の銃。


三谷は腰を抜かしてしまった。


「手間をかけさせる……」


フードの男たちが銃を構えながら三谷に近づく。


───くそったれ!!これまでかよ……!!


その時だった。

森の奥から一人の少女が歩いてきた。


その場には凡そ似つかわしくない少女。


黒い瞳に美しいロングの黒い髪に整った顔立ち、黒い着物に身を包み杖を突きながら歩く少女。

暗い森の中で黒い髪に黒い衣装。

闇に溶けるはずの姿はなぜがよく目立った。


誰しも少女に見惚れる中、三谷は少女に違和感を感じた。

黒い髪に猫の様な耳、そして腰の下から出る猫の様な尻尾。

コスプレにしては、耳も尻尾も意志を持っているように見える。


「四つ耳族か……!」


四つ耳族?


男達が言う聞きなれない言葉に首を傾げていると、今度は男たちがその少女に近づいた。


「四つ耳族の生き残りか……」

「捕まえろ。こいつは高く売れる」

「売るのはもったいないだろ。俺達で楽しむのもいいな……!」


口々に下種な言葉を発する男たちに嫌悪感をもちつつ、三谷は焦る。


男達が近づいても少女は動じることはなく杖を突いて歩く。

まさか───


───目が見えてないのか!!


彼女の視線は何も捕らえてはなかった。

近づいてくる男たちに気づいていないのだろうか?


───くそったれ!!


「抵抗するなよ?」


男たちが少女に手をかけようする。

三谷はたまらず少女に叫ぶ。


「おい!!逃げ……!」


ひゅっと風が切れる音がした。

目の前で少女が消えた。


───何が起きたんだ?


「もし……。大丈夫……ですか?」


気が付くと目の前に猫耳少女。

何も映していない黒い瞳にじっと見つめられている。


「うお!!あ……ああ大丈夫っす……?」

「そうですか……」


そう言うと少女は興味を失ったのか、スッと離れる。


一体何が起きたのか。

気が付けばさっきの男たちが消えている。

一体どこに行ったのか。


混乱しながらも腰の抜けた体を無理やり起こそうと、手を使って体を起こそうとする。

そのとき手に何か生暖かいものが触れた。


何だ?と三谷が手元をよく見てみると、それは惨殺され無残にバラバラになった男の半分の生首だった。


「うわあああああああ?!!」


そしてようやく気付く。

自身の周り捨てられている男たちの無残な姿に。


バラバラ殺人とでもいうのだろうか、男たちは皆人の形を保ってはいなかった。


「うう!!げぇえ!!」


涙を流しながら、胃の中の物を全部吐き出す。

数日の監禁と逃亡、そしていきなりの大量殺人現場に三谷は限界を迎える。


そしてそのまま彼の意識はブラックアウトしていくのであった。



「んあ?なんだそいつ大丈夫かって、うお!?」


短く切りそろえた赤い髪に鋭い眼光の赤い瞳を持った体格のいい青年が、猫耳の少女に近づく。

彼こそ現代において最強と唄われる勇者スヴェンである。


「バラバラ殺人事件……!!鈴、お前いくら快楽殺人者だからってこりゃぁ……」

「失敬な……。彼らが先に手を出してきたんですよ……?」

「まじか?じゃあしゃーねーか。ってそいつは大丈夫なのか?」


倒れた三谷をしげしげと眺めるスヴェン。

三谷が気絶しているだけだと確認すると、スヴェンは彼を背負って歩き出した。


「まぁ放っとくわけにゃいかねぇし、こいつ連れて一度街にもどんぞ?」

「……ご自由に。では私はここで……」

「おう!またな!……じゃなくてお前も来るんだよ!!」

「……はぁ……。面倒くさいですね……」


ため息をつきつつもちゃんと従う鈴に苦笑いをしつつ、スヴェンは背負ったを少年を見る。


見たところこれと言って特徴のない少年だが、この少年どうやら魔力も神力も持っていないようだ。

だとするとこの少年は移転人ということになるが、移転人は現在邪神と融合しているらしい。


この少年が邪神とも思えないが、何が一体どうなっているのか……


───うーん。思ったより面倒な事になりそうだな、こりゃ……


盛大なため息をつきスヴェンは街へと足を進めるのであった。

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