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63 ファルデア王国最悪の日 後

「さぁクリム様、シアン様。今すぐ魔界へ帰りますよ」


狼型の魔族であるウルガの言葉にシアンとクリムは嫌そうな顔をする。


「は?なんで私があの男の為に魔界へ戻らなきゃいけないんですか?」

「うーん。父様が呼んでるんだったら帰るのもやぶさかじゃないんだけど、今ぼくたち忙しいから……」


二人は拒絶するが、これはウルガも想定通りである。


「お二人の帰還は決定事項でございます。もし従わない場合は……」


凄みを出すウルガをシアンは鼻で嗤い言った。


「っは。貴方如きが私達を力尽くでどうにかできるんですか?」


「ガイオウ様がお二人を連れ戻すそうです」


その言葉にシアンとクリムは固まる。


「………くっ!!」

「えーー!?お兄ちゃんが!!?」


悔しそうに歯噛みするシアンと、驚き声を上げるクリム。

そんな二人の反応に、満足そうに頷いてウルガは言葉を続ける。


「お二人ともそれは嫌でございましょう?ですから私と共に魔界へ帰還しましょう」

「………わかりました。一度魔界へ戻ります……」

「はぁ……。しょーがないなー」


観念したように肩を落とす二人を見てスワンナは驚く。


天下無双の力を持つこの二人にとって恐ろしい存在がいる。

魔界では力こそが全てだという。

この二人にとって恐ろしい存在とは、それこそ大魔王にも肩を並べるであろう事は間違えない。


その事実に呆然としているスワンナにクリムは声を掛けた。


「スワンナさん。悪いんだけどぼくたち一回魔界に帰るね?用事が終わったらまたこっちにきてご主人様探すから……またね!」

「……わかりました。クリムさんもシアンさんもお元気で……」


正直な話、スワンナは二人の楽観的な話を信じてはいなかった。

佐藤勝利がまだ邪神の中で生きていて、彼を取り戻すことが出来ると思っている二人を。


しかしここでその事を言うのは無粋だろうし、彼女たちもその目にするまでは信じる事は出来ないだろう。


出来る事なら……


───彼女たちが邪神に逢う前に、邪神は倒してしまいたいわ……


邪神が佐藤勝利の皮を被り彼女たちの前に現れれば、それは彼女たちにとって耐えがたい事になるだろう。

そうなる前に自分たちの手で邪神をうち滅ぼしたい。


そんなスワンナの考えを気付いてか、シアンは鋭い瞳でスワンナを射抜き言った。


「ショーリさんは私たちがどうにかします。貴女達は余計なことはしないように……」

「……わかりました。シアンさん。どうかお気をつけてね」

「……貴女達もお気をつけて。……そうだ、あの天使さんにもよろしく言っておいてください」

「ふふ。わかったわ」


言葉を交わし終えたシアンは、無言でウルガを促す。

それに頷いてウルガは魔法陣を召喚した。


「では帰りましょう。魔界へ」


その言葉と共に眩い光が辺りを照らす。

そして光が消えた時、シアンとクリムの姿はもうどこにも無かった。


「シアンさん……クリムさん……。ごめんなさい」


───それでも私は……邪神が許せないの……


一人目を閉じ静かに黙祷する。

此処で犠牲になった人達へ。


暫くすると、辺りが騒がしくなってきた。

恐らく残った王国軍やアルデンが援軍に呼んだブルリカのギルドの人達などが玉座に向かって来ているのだろう。


彼らにこの惨状を説明しなけらば……そして───


───皆で力を合わせて邪神をうち滅ぼさないと……必ず!!



こうして後の歴史に記されることになるファルデア王国最悪の日は終わりを告げた。


邪神の復活による国王と王子殺害。

それだけに飽き足らず聖女クラシーの殺害に多くの筆頭軍の殺害。


可笑しなことに革命軍による王都の多大なる被害も、邪神によるものだと歴史に記されている。

つまりこの日邪神が復活し、街を破壊しつくし最後に国王と聖女を手にかけたという事だ。


なぜ革命軍の名が伏せられたのかは定かではないが、どちらにせよ邪神は復活を果たし世界を恐怖のどん底に突き落とした事は間違えは無かった。



「以上持ちましてファルデア王国の報告を終わります」



「ふむ……。これは由々しき事態ですな」


「なんという事だ……!邪神だと!?……移転人は一体なにをやっているのだ!?」


「その移転人が邪神に食われたんだろうが!!だから私は元々反対だったのだ!!よそ者にこの世界の重要な事を任せるなど!!」


「でも私達では邪神をどうする事も出来なかったでしょう?」


「それでもだ!!!天界の方々は今回の件、一体どう責任を取られるつもりなのだろうな!!」


「だんまりでしょうなぁ。……ですがこれはチャンスかもしれませんぞ?」


「チャンスだと!!?一体何がチャンスなのだ!!?」


「ファルデア王国の国王達が邪神によって殺害されたのは、天界の落ち度でもある。ですが今まで我々が手を出せなかった邪神だが、復活してしまったのならば話は別だ」


「……なるほど。復活してしまったのなら排除することも可能ですか……。で、あるならば」


「おお!!そうか勇者の出番か!!」


「ならば話は早い!!勇者よ!!勇者スヴェンよ!!聞いているのであろう!!貴様の出番だ!!」



「っせーな。聞いてるっつーの」


リビングのソファに寝そべり、勇者スヴェンはため息をついた。


魔術による遠隔会議。

映像の前で口だけはいっちょ前な国王達による聞くに堪えない会議だが、一応勇者という職業柄参加しない訳にもいかない。


故に自身の映像は切り音声のみで参加しているわけだが、今日の会議はどうも雲行きが怪しい。


なんでも邪神とやらが復活してファルデア王国を滅ぼしどっかに行ってしまった。

そしてその邪神を勇者である自分が退治しろとの事みたいだ。


───めんどくせ……


「めんどくせ……」


「心の声が……漏れています……よ?」


鈴が鳴るような、美しい音色が聞こえた。

気だるげに顔を向ければ、黒い着物に身を包んだ黒髪の美しい少女がソファの側に立っていた。


彼女の名は鈴。

スヴェンのガールフレンド(スヴェン談)で魔族の少女だ。

四つ耳族と呼ばれる特殊な一族の末永で、猫の様な耳と尻尾を持つ少女である。


「鈴……いたのか」

「邪神の退治……逝かれないのですか……」

「逝かねぇよ……ん?行くだよな?逝くじゃねえよ?」

「ですが貴方が逝かなければ……誰が行くのですか……?」

「ねぇ聞いてる?そんなに俺に逝ってほしいの?」

「それに貴方を殺すのは私ですから……邪神などに逝かされてもこまります……」


微妙にズレている会話をしながら勇者スヴェンは考える。


正直な話自分と鈴がいれば、向かう所敵なしだ。

鈴は大魔王の娘で実力は自分に匹敵する……というより惚れた弱みがあるから戦ったら普通に負けるが。


邪神だろうが神だろうが大魔王だろうが、自分と鈴がいれば敵ではないだろう、多分。


「……しゃーねぇ!給料減らされても困るし───行くか!!」


勇者スヴェンは重い腰を上げる。


世界の平和の為に今、勇者スヴェンの冒険が始まるのである。


「……で、邪神ってどこにいんだ?」

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