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62 ファルデア王国最悪の日 前

「がはははっははあ!!ちょっと力を手に入れただけで粋がる餓鬼なんざ、所詮この程度よ!!」


バンギアスの言葉が玉座にこだまする。


「ち……父上……」

「……情けない声を上げるなボナパルト。最後の瞬間まで堂々としていろ」


息子である第一王子のボナパルトの弱弱しい声に顔を歪めながら、レオパルド五世は思考する。

頼みの綱であった邪神が今この場で倒れてしまった今、自分たちを守る者はもういない。


しかしレオパルド五世は思う。


先程の大爆発。


信じがたい事だが、あれは何者かが座天使(ソロネ)を打ち倒した証だ。

そして座天使(ソロネ)を打ち倒した何者かは自分たちの味方である可能性が高い。


座天使(ソロネ)を打ち倒すほどの猛者がこちらの味方ならばまだやり様はある。


「聖女よ。お前の望みは俺の首だろう?ならば頼みがある。妻や息子達は見逃してはくれないか?」

「……当然そのつもりですよ?国王陛下。……では……さようならの時間ですわね?」

「そう焦るな。俺の首はくれてやると言っただろう?だが貴様に聞きたい事がある。それを聞くまでは……ぐえ!!!?」


レオパルド五世の言葉が終わらないうちに、バンギアスによってその首がねじ切られた。


「父上!!!」

「てめぇも後を追うんだよ」

「ひぃ!……バンギアス!!やめてくれ!!私は……!!!」

「どちらかと言うとテメェをぶっ殺したかったんだよ。てめぇの御遊びのせいで俺の妻は……!!」

「妻!?お前の妻は魔族によって……!!」

「テメェと問答するつもりはねぇよ。死ね」


ボナパルトの言葉に聞く耳を持たずバンギアスはその拳をボナパルトの心臓に叩き込んだ。

カエルが鳴くような声を出しボナパルトは絶命する。


「バンギアスさん……」

「……わりぃな聖女様よ。聖女様にとっても仇だってのに両方俺が殺っちまって」

「構いませんわ。それに(わたくし)には彼らを滅するだけの力はありませんもの」


少し悲しそうに微笑み聖女クラシーは目を伏せる。

少しの間静寂が流れた。

だが───


「時間がない」

「うおお!!?」


気配もなくバンギアスの背後から現れたフードの男によって静寂は終わる。


「あら。アラゴス様」

「マッハブージも討たれた。此処にいては奴らが攻め入ってくるだろう」

「……マッハブージ様。そうですか……シアンさんとお話したいけれど、そうもいかないのでしょうね……」

「邪神を確保する。門を開くから早くいくぞ」

「わかりましたわ。……でも今回は痛み分けですわね。国王陛下を討つことは出来ましたが(わたくし)達も多くの同志を失いましたわ」

「革命には犠牲は付き物だ。……おい貴様」


フードの男、アラゴスは黙っていたバンギアスに言った。


「貴様もこい」

「……俺様には娘がいるんだがなぁ」

「案ずるな。貴様もここで死んだことにしてやる。だったら娘に迷惑はかかるまい」

「……はぁ。わかったよ」


周りには国王を守らんと命を散らした兵士たち。

バンギアスは少しだけ兵士たちに黙祷すると、アラゴスたちに従った。


「ファルデア王国国王及び王子殺害は、邪神が行った事にする」

「まぁ……」

「そっちの方がより、この国及び国連達に恐怖を与えることが出来るだろう。お前の死体も作ってやる。そうすればお前の信者たちが目を覚ました時、より邪神の恐ろしさが伝わるはずだ」


言いながらアラゴスは聖女の死体とバンギアスの死体を作成する。

それをその辺に放置して、最後の仕上げを行いアラゴスは門を開いた。


「いくぞ」


アラゴスの開いた門へと足を運びながら、聖女クラシーはもうすぐここに到着するであろうシアンを想う。


───シアンさん。また逢いましょう?……その時こそゆっくりとお互いを理解し合いましょう



「なんて……ことなの……」


あまりの無残な光景にスワンナは息を飲んだ。


あちらこちらに散らばった死体。

その中には聖女クラシーや王都筆頭軍の隊長達もいる。

苦悶の声を上げ横たわる天使や兵士たち。


そして───


「嗚呼───国王陛下……」


玉座に乗せられた国王の首と、その下に置かれた王子の首。


そしてその奥の壁には、血で書かれた紋章があった。

あの紋章は───


「邪神……ボムバ・ヌクリア……!!」


かつて邪神を生み出した魔術師が記したとされる紋章。

その紋章が壁に描いてあったのである。


此処で王国軍と革命軍のどんな戦いが行われたのかは分からないが、分かることはただ一つ。

その全てが邪神によってうち滅ぼされたのだ。


血が出る程に手を固く握りしめ、スワンナは目を閉じる。


───移転人である佐藤勝利様の命を奪うだけでは飽き足らず、これ程までの悲惨な事を……!!


許せるはずもなかった。

今まで生きてきてこれ程までの憎悪を抱いたことは無かった。


しかし今のスワンナに出来る事はない。

失意の中、目を伏せるスワンナに少女たちの声が届いた。


「ショーリさん!」

「ご主人様!大丈夫!?」


魔族の少女であるシアンとクリムだ。


スワンナは二人の少女を見て、目から涙が零れるのを止める事は出来なかった。


「シアンさん、クリムさん……勝利様は───」


スワンナは目を伏せ静かに語る。


佐藤勝利が邪神に乗っ取られ命を落とした事。


そして乗っ取った体で王城に押し入り王国軍も革命軍も纏めて叩きのめした事。


そして……国王とその息子である王子の命を奪った事。


全てを語り終えた後、スワンナはただ静かに聞いている二人の顔をおずおずと覗く。

もしかしたら烈火のごとく怒り狂っているかもしれない。


彼女たちがここで暴れては自分ではどうすることも出来ない。


恐る恐る様子を伺うと、意外な事に魔族の少女二人は冷静に考え事をしているようだ。


「うーーーん。多分だけどご主人様は生きてる気がするんだよなー」

「私もそう思います。ショーリさんが死ねば私たちが付けた匂いも残っていない筈ですし……」


「しかし勝利様の体は邪神に乗っ取られて……」


スワンナは二人の言葉に口を挟むが、二人はそれを否定する。


「その邪神?に乗っ取られたってのもなーんか釈然としないんだよなー」

「確かに。ショーリさんの匂いに違うものが混じっていはいますが、ショーリさん自身の匂いは消えてはいません」

「じゃ!決まりだね!ご主人様は生きてる!そしてどこかに連れ去られちゃった!」

「はい。そして天使さんの話を信じるのであれば、ショーリさんは邪神と融合している」


二人はお互いの言葉で頷くと、話を続ける。


「じゃあ簡単だね!ご主人様を早く取り戻さないと!」

「そうですね。ショーリさんを連れ去った連中が恐らくこの惨状を作ったのでしょうが、ショーリさんの邪神とやらの力を狙って攫った事は間違いないです」

「よーしじゃあ頑張ってごしゅ───「クリム様、シアン様。お迎えに上がりました」……ってなに?」


クリムの言葉を遮る様にクリムの背後から声がする。


「あれ、ウルガ?なんでここにいるの?」


そこに立っていたのは狼の魔族であった。

彼の名はウルガ。

クリムの城の執事をしている魔族である。


「申し上げた通り、お二人をお迎えに上がりましたクリム様、シアン様。お二人を大魔王様がお呼びになっています。今すぐ魔界へ帰りましょう」

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