58 座天使
座天使へと進化したデポカ所属アークエンジェルズ隊長のイリシエは、混濁する意識の中で自身が為すべき事を、即ちデポカの破壊を実行していた。
途中鬱陶しい蠅が邪魔してきたが、その蠅ももう墜とした。
これで心置きなくデポカを壊滅させることが出来る。
灼熱の光線を発し、街を破壊しながらイリシエは逃げ纏う人々を他人事の様に眺めていた。
本来ならば守護せねばいけない存在である人々に、自身が刃を突き立てているこの状況をイリシエは愉しんでいた。
そもそも地上人は聖女クラシーを除き嫌い、見下しているのだ。
天界の守護が無ければ存続さえ危うい存在でありながら、厚かましくも神人と対等であろうとするエルフ。
戦後全ての種族が平等になったなどと抜かして、何の役にも立たないくせに粋がる人間。
存在するだけで吐き気を催す臭いを発するドワーフや獣人。
その全てが嫌いだった。
エリートであるが故地上の守護を任されたイリシエであるが、地上の匂いにはほとほと嫌気がさしていた。
そんな時出会ったのが聖女クラシーだ。
彼女からは人間特有の腐った匂いを感じない所か、神人には匹敵するカリスマを感じた。
そんな聖女にイリシエは直ぐに虜になった。
正直な話革命などどうでも良かった。
人間たちが多く死のうがイリシエには関係が無い。
只彼女の望みが叶えるのが自らの望みであった。
その為ならば同胞とて裏切れる。
そう、昔から自分に恋焦がれて何度も告白をしてきたあの間抜けな天使。
アルデン達を裏切れば自分はバラバの愛に答える。
そう念話で通信すれば、あの男は簡単にアルデン達を裏切った。
唯一気がかりだった移転人の佐藤勝利も、聖女クラシーが彼を懐柔出来ればそれでいいがもし失敗した場合にはバラバに処理する様に命じていた。
今頃佐藤勝利は秘密裏にバラバに処理されているだろう。
万事全てが上手くいっている。
最早自分を止める事の出来る者など誰もいないだろう。
満足感と充実感と共にデポカを更に灼熱の地獄へと変えようと神力を籠めた次の瞬間、地上から放たれた熱線に体を焼かれた。
───これは……!!
焼かれた部位を一瞬にして回復しながら、イリシエは思考する。
これは先ほど墜とした筈の鬱陶しい蠅の魔術。
───まだ生きていましたか……
下を見れば墜ちた筈の蠅はどうやらぴんぴんしている様だ。
集中砲火を受けたというのに怪我らしい怪我が見当たらない。
どうやら思った以上にこの蠅はしぶとい様だ。
ならば……
───確実に息の根を止めるまで、叩き潰してやりましょう
★
取り合えず一発かましてやったクリムだが、大したダメージが見込めないのは想定道理であった。
死んだふりをしつつ不意を突こうと思っていたクリムであったが、座天使が無差別に街を砲撃し始めたのを見て考えを改めた。
このままでは地上にいる人々の半数は命を失うだろう。
そうなれば佐藤勝利も悲しむかもしれない。
そう思い取り合えず牽制に一発攻撃を当てた後、直ぐに座天使より上空に駆け上がる。
これで少なくとも自分がやられるまでは座天使はクリムに集中するだろうし、地上への攻撃も無くなる筈。
ただ座天使より上空に飛んだ事により、クリムも困った事になる。
そもそも座天使を一撃で消し去ること自体クリムにとって左程難しい事ではなかった。
クリムが最も得意とする戦い方は、自身の最大火力で一気に相手を制圧する奇しくも座天使と似た戦闘スタイルだ。
だがそれには周りの被害を度外視しなければならない。
事実クリムはスライムとの戦闘では周りの被害を考慮し、最下級魔術でスライムを仕留めた。
故に今回の戦闘でも基本的に最下級魔術しか使用していない。
先程の不意打ちに一撃も、最下級魔術での牽制程度だ。
だが威力、速度共にほどほどである最下級魔術では、どうやら座天使は仕留めしれないらしい。
スライムを捕まえた朱い鎖で拘束する手も考えたが、あの鎖には速度が無い。
思った以上に瞬発力が高く、尚且つ高速で移動する座天使を拘束するのは少し難しいだろう。
更に座天使より上空に飛んでしまった事で、今度は魔術事態撃つのを躊躇われた。
そもそもクリムは最下級魔術以下の威力の魔術を持っていないのだ。
その魔術ですら、地上に撃てば被害は避けれないだろう。
───空中であいつの下を取って、最大火力をブチかますってのが理想なんだけど……はぁ……面倒くさいなぁ……
心の中でため息をつきつつ、クリムは飛ぶ。
先程の集中砲火が座天使の最大火力ならば、正直な話座天使の攻撃は左程怖くない。
あの程度の攻撃ならば瞬時に回復できる。
だが問題は座天使の回復力だ。
自分と同等とまでは言わないが、かなり高い回復力を持っている座天使を打倒するにはやはりそれなりの威力の魔術がいる。
接近戦も考えたがあの回復力の前では、クリムの接近戦の手札では有効打を与えるのは難しいかもしれない。
やはり最大火力とまではいかなくとも、少なくとも魔術の威力を上げる必要があるのだ。
そんなクリムの思惑を察してか座天使が砲撃でクリムを牽制しつつ高度を下げ始める。
そんな座天使を苦虫を噛み潰したような顔で見つめながらクリムは思考する。
───これで空中で下とって、ってのは無理になったなぁ……もう!下にいる人たちも早く避難してくれないかな!
このまま空中で座天使の攻撃を避け、街の人間たちの避難の時間を稼ぐ手も考えたが、座天使は地上に向けても砲撃を開始する。
何時までも自分がもたもたしていれば被害は確実に増えていくだろう。
固有魔術を使うのも考えたが、あんなものを使っては街が無くなってしまう。
───仕方ないか……
ここでクリムは自身の攻撃による街の被害を考えないことを決めた。
このまま座天使を放置して街の被害を拡大させるより、自分が座天使を倒せる魔術を使用して倒してしまったほうが被害が少ないだろう。
掌を座天使に向け魔力を溜めようとした次の瞬間、地上から座天使に強力な魔術攻撃を仕掛ける影があった。
様々な魔術を駆使して座天使を攻撃しながら男はクリムに叫ぶ。
「ようやく逢えましたねぇ!!!魔族の少女ぉ!!!」
その男の名はスレッタ。
ファルデア王国ブルリカのギルド「オーバ」所属のAランク冒険者の一人である。
スレッタ達ギルド「オーバ」のメンバーは昨日の夜、アルデンからの援軍要請を得てこうしてデポカへと馳せ参じていたのであった。




