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57 魔王の一撃

───一体何が起きたというのだ……?


マッハブージは目の前で起きた出来事を理解できなかった。

いや、理解は出来るがそれを脳が拒んでいる。


必殺として繰り出した溶岩の兵士たち(マグマソルジャー)が、例外なく全て凍り付いているという現状にマッハブージは目を見開いて固まっていた。


「でも少しだけ貴方を侮っていました」


大魔王の娘が口を開く。


「この結界は魔力が低いものは問答無用で凍らせるのですが、貴方は思ったよりも魔力が高かったのですね」


そう言うが否や大魔王の娘が目の前から消える。


───瞬間移動か!?


マッハブージは咄嗟に背後からの攻撃に構えるが、瞬間正面からバツの字の斬撃が襲う。

背後からの奇襲を警戒していたマッハブージは正面からの斬撃を避けきれず、肩口からバッサリと切り裂かれてしまった。


「ぬぐぅ!!」


鋭い痛みと共に、切り裂かれた箇所が一瞬にして凍り付く。


───傷口を止血してくれるとはな!!


ダメージを気にせずマッハブージは拳に魔力を籠め、渾身の一撃を繰り出そうと構えるがなぜか体の動きが頗る悪い。

よく見れば体がカタカタと震えている。


それでも気合で右の拳を繰り出すが、威力、魔力共にお粗末な一撃は少女に軽く避けられてしまった。

そして次の瞬間宙に舞う右腕。


「ぐうぉ!!?」


斬られた右腕の先もまた凍り付く。

そしてマッハブージは気付く。

凍り付いた腕の先と先程斬られた場所から、どんどん体が凍り付いていく事に。


このままでは勝てない。


マッハブージはもう一つの能力にして奥の手。

進化の種によって得た究極の力を開放する事に決めた。


「大魔王の娘よ!!貴様を侮っていたわ!!!」


その言葉と共にさらに爆発的に発される魔力。

進化の種により自身のキャパシティを完全に上回る魔力を発する。


これぞ進化の種により得たもう一つの力。

単純に魔力を強化するのだがその爆発的な魔力は圧倒的で、既に進化前の十倍は超える魔力を発していた。

デメリットとしてはこの力は数分で一気に萎れていき、また魔力が回復するまでに時間が掛かるのだが今は関係ない。


目の前の敵を最大の力で排除する。


マッハブージは更に魔力を発する。

自身を凍結させんとしていた氷は砕け散り、傷口から一気に血が噴き出る。


だが構わない。

震えていた体も正常に戻り、マッハブージは決着を付けるべく残った左の拳に魔力を溜める。


そしてマッハブージは業火を纏い、目の前の敵を打ち砕かんと必殺の一撃を放つのであった。


「くらい知れ!!俺の渾身の一撃!!───業火の一撃(マグマボム)!!!」


音速を超える超音速で放たれた拳は、摩擦と魔力により更に爆発的は業火と化す。


自身が放つ生涯最強の一撃。

これが決まらねば自分は負ける。

故に必ずこの娘を此処で倒さねばならない!!

それが出来ねば革命軍に未来は───無い!!!


その思いと共に放たれた一撃は


雹演舞(ひょうえんぶ)1節、氷の一閃(ひのいっせん)


無情にも踊り子の一閃に、敢え無く切り裂かれるのであった。



両手を交差させるように斬り放つ必殺の斬撃。


冷気の魔力を籠めた斬撃はシアンの予想をたがわず、マッハブージを切り裂いた。

冷気の斬撃波はマッハブージを超えて後ろの建物すら両断する。


そして両断されたマッハブージ共々一瞬で凍り付くのであった。


両断され宙に浮いたマッハブージの上半身は、逆らわず地面に激突し砕け散った。

それと同時に凍結している全ての物たちが一気に崩壊する。


バラバラに砕け散り氷の結晶と化しているマッハブージを、シアンは見つめ思った。


ああいった手合いは渾身の一撃を避けたりすると、なぜがそれを負けた理由にしたがる。

あの一撃が決まっていれば、あの時敵が避けなければ、などと下らない負け惜しみをシアンは何度も聞いてきた。


なのでシアンは渾身の一撃を繰り出す相手には、よっぽどの事が無い限りは真正面から完膚なきまで叩き潰すと決めていた。


シアンは戦う(舞う)のは好きだ。

特に一騎打ちでお互いの命を賭けた、死力を尽くした真剣勝負が好きだ。


故にマッハブージとの真剣勝負は、久々にシアンを熱くさせた。

わざと侮るような事を言ったりもしたが、あれ程の魔力の持ち主魔界を探してもなかなかいない。


───最後のひねりの無い只の一撃には少しがっかりしましたが……貴方は強かったですよ


心の中でマッハブージを称えてシアンはその場を後にする。


上空に見える目玉の怪物を野放しにする事になるが、まああれはクリムに任せておけば大丈夫だろう。


クリムとはお互い死合いをもした仲だ。

彼女の実力はシアンがよく知っている。

それより気がかりなのは佐藤勝利だ。


先程の嫌な悪寒。


速く佐藤勝利の元に行かねば、取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。


目指すは王城。


シアンは佐藤勝利の安否を想い、急ぎ翔るのであった。



「マッハブージよ……逝ったか……」


暗い神殿で、革命軍『ル・ルシエ』の最高責任者、イオグマ・マグナッソは一人呟いた。


彼との出会いは戦後直ぐだった。


戦争で勝利した魔族でありながら、戦後の魔族の立場などが気に入らないと荒れていたマッハブージをイオグマは革命軍にスカウトしたのだ。


荒くれものだがどこか憎めず、魔族として人間を見下していながらもどこか親しみを持っていたマッハブージをイオグマは好意的に思っていた。


イオグマはマッハブージを想い静かに黙祷する。


すると神殿の扉を開いて、入っている一人の男がいた。

男は深くフードを被り顔が見えない様になっている。


「翁。邪神が復活した」

「!!!」


男の言葉に黙祷をしていたイオグマは目を見開く。


「なに……?」

「俺も信じられなかったが間違えない。邪神は今ファルデアにいる」

「……」

「俺もファルデアへ飛ぶ」

「……任せた」


男の名はアラゴス。

革命軍八人の指導者にして、最後の指導者と呼ばれる人物である。


指導者を二人も失った革命軍『ル・ルシエ』であるが、状況は邪神の復活により更なる混沌へと進んでいくのであった。

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