55 老い
「がはっははあ!!悲しい!!悲しいなぁ!!!アルデン殿!!」
赤い鬼と化した王国筆頭軍7番隊隊長バンギアスの圧倒的暴力に、アルデンは成すすべもなく吹き飛ばされた。
只でさえ力自慢のバンギアスが、進化の種により強化された魔力と筋力によって繰り出される攻撃は最早災害であった。
只腕を振るうだけで起こる衝撃波にアルデンは翻弄され、直接攻撃が当たるものならば紙屑の様に吹き飛ばされる。
「いくら英雄のアルデン殿とはいえ、寄る年波には勝てねぇとは……。がははあははっは!!泣けてくるぜぇ!!」
吹き飛ばされ、建物に激突したアルデンに止めを刺すべくバンギアスは跳ぶ。
「あの餓鬼にしても、あんたにしても!!余計な首突っ込まなきゃもう少し長生き出来たのになぁ!!!」
言葉と共に必殺の拳をアルデンに叩き込むため、バンギアスは両手を高く上げる。
そして落下と共に振り下ろされた両の拳は、逆らわずアルデンの腹に激突した。
「ぐ……はぁ!!」
口からの大量の吐血と共にアルデンは崩れ落ちた。
「……っは。英雄アルデンの最後がこんなもんとはな……」
その言葉と共にバンギアスは、崩れ落ちたアルデンを片手で持ち上げる。
最早アルデンには抵抗する気力も残されてはいなかった。
武器である銃も先ほど吹き飛ばされた時に、手から離れてしまった。
「昔のアンタは俺達の憧れだった。人間たちの中で誰よりも強く、賢く、勇ましかった……。でも今のアンタは只の出涸らしだ……」
見るに堪えねぇ、と呟いてバンギアスは止めを刺すべく拳を振り上げる。
「じゃあな。アルデン殿」
「戦闘中に……ペラペラとよく喋る……」
「!!!」
次の瞬間、轟音と共に大爆発が起きる。
アルデンの固有魔術は爆発であった。
物質を爆弾の様に爆発させる固有魔術。
普段は愛用の銃の弾丸にその固有魔術を掛け使用するが、何も爆発させる物体は弾丸で無ければならないわけではない。
アルデンは自らの腕に固有魔術を掛け、至近距離で大爆発を起こしたのである。
例え弾丸は避けれても、この至近距離でものゼロ距離爆破は避けきれない。
アルデンの読み通り、バンギアスは爆発に巻き込まれ吹き飛んでいった。
だが当然この至近距離ならばアルデンも無事では済まない。
アルデンも爆発に巻き込まれ吹き飛んでいった。
近くの建屋に激突したアルデンは、衝撃により崩れ落ちる建屋をゆっくりと眺める。
そして目を閉じると、残された若者の事を考えていた。
───勝利君……
バンギアスの言う通り恐らくバラバは裏切りものなのかもしれない。
それにより佐藤勝利の命が奪われたのかもしれない。
だが……
───なぜだろうか……君は生きている気がする……
彼とまともに関わったのはたったの一日だ。
昨日行動を共にしただけの少年だ。
だが、彼の迷いながらも真っすぐと、弱いながらも何かをしようとするあの眼差しはアルデンの心に鮮明に残っていた。
そんな彼が、なぜか簡単に死ぬ気がしないのだ。
───すまない勝利君。シアン殿への報酬を払う手伝いは出来そうにない……
心の中で佐藤勝利に謝る。
ゆっくりと瓦礫がアルデンを押しつぶさんと墜ちてくる。
だが自分はディオスパイダーの時も、突然変異のスライムの時も死を覚悟していたのだ。
今更死ぬのは怖くはない。
アルデンはこれまでの人生を走馬灯のように振り返った。
若くしてファルデア王国筆頭軍の隊長として戦場に出て多くの仲間を失ったが、必死に戦いいつの間にか英雄と呼ばれる様になった事。
愛した女性は戦場で帰らぬ人となったが、アルデンは決して魔族を恨んではいなかった。
同じように自分も多くの魔族の命を奪ったのだ。
戦争が終わり王都筆頭軍を引退し、故郷に戻り警備隊長となった事。
甥とその仲間たちがギルドを立ち上げた事。
そしてつい先日、異世界から来た少年に出会った事。
その全てがアルデンにとっての掛け替えのない出来事だ。
アルデンはゆっくりと目を開けると、その先の瓦礫に埋もれているバンギアスを視た。
彼も妻を魔族に奪われ、その怒りから革命軍に入ったのだろう。
愚かな男だが、自分もボタンを掛け違えれば奴の様になっていたかもしれない。
自分はやれるだけの事はやった。
老兵は最早去るべきだ。
後は若い者たちに任せるとしよう。
───勝利殿……ジーク……あとは頼んだぞ………
★
バンギアスは崩壊した建物からゆっくりと姿を現した。
アルデンの最後の一撃で脇腹辺りに大きなダメージを受けた。
じゅうじゅうと音をたて、焼けただれた脇腹を抑えながらバンギアスは思う。
アルデンの出合い頭の最初の一撃のせいで、バンギアスは奥の手としてとっておいた鬼への変身を余儀なくされた。
変身する事により弾丸のダメージを回復する為である。
バンギアスは回復魔術が一切使えない。
だが変身する事により体の構造を作り替える影響で、一度だけ回復できるのだ。
しかし今回受けたダメージはもう回復は出来ないだろう。
進化の種により鬼への変身能力を得たバンギアスであったが、変身できるのは一日に一度きりであった。
───老いぼれがぁ!!最後の最後まで余計な事しやがってよぉ!!!
瓦礫の下敷きになったアルデンを見て、バンギアスは怒りを抑えきれなかった。
口の中に魔力を溜めると、大きな火球として打ち出す。
「がはははははははあ!!!火葬してやるよ!!!アルデン殿ォ!!!」
瓦礫を中心に炎が燃え盛り、建屋を通じて一気に火災は広がっていく。
例え瓦礫で死んでいなくても、これならば確実に生きてはいないだろう。
バンギアスはしばらく燃え広がる火災を見て、満足そうに頷くと踵を返した。
今王城では革命と言う名の反乱が起こっているだろう。
最早誰も止める事のできない革命の波。
唯一筆頭軍を止める事が出来る人物は、アルデンその人だっただろう。
アルデンの影響力は、彼が思っている以上に高いのだ。
だがそのアルデンも最早いない。
自分で止めを刺しておきながら一抹の寂しを感じつつ、バンギアスはその場を後にした。
───あばよ。アルデン殿……
目指すは王城。
ファルデア王国の国王達を亡き者にせんと、バンギアスは王城へと跳ぶのであった。




