6 移転失敗?
一瞬の閃光で目が見えなくなっていたが、光が消えてようやく目が使えるようになってきた。
辺りを見渡してみると、どうやら街のようだ。
ルネサンス時代の街並みというのだろうか、中世ヨーロッパ時代のような街並みがあたりに広がっている。
ここが天界とやらか?
「あああああああああ!!!」
そう思って首を傾げていると隣から叫び声が聞こえた。
「失敗した失敗した失敗したぁ!!」
見るとアーシュリが頭を抱えて悶えていた。
腰が抜けていたのは治ったのか両の足でちゃんと立っている。
「あのく〇ったれ守銭奴〇そったれ(二回目)あたまいかれち〇ぽ魔族から私を切り離すために術を複雑化したのが失敗だったぁ!!」
しかもなんでブルリカなのよぉ!と涙目で頭を振りながら文句を言い続ける。
というかこいつキャラこんなんだったけ?
そう思ってまた首を傾げているとアーシュリはこちらを睨みつけてきた。
「大体にしてあんたのせいだからね!」
「……は?」
なんで俺のせいなんだ?
「あんたがそもそも魔界のポータルになんて転送されなきゃこんなことになってなかったのに!!」
その言葉を聞いて俺のなかでまた何かが切れた。
「ふっざけんなよ!」
「ああん!?」
しかし俺の抗議を遮るようにアーシュリは巻くし立てる。
「人間ごときが偉そうに私に意見しないでよ!」
そして俺を睨みつけて言った。
「そもそもあんたはあのまま魔界にいたら確実に殺されてたわ!それを私とジルトさんがわざわざ迎えにいってあげたのに……っ!」
なおも文句を続けようとしているアーシュリだが、突然俺の後ろを凝視して言葉を止める。
疑問に思い後ろを振り返るとそこにはシアンが立っていた。
「ずいぶんと面白いことをするのですね?」
「ひぇ……!」
そのたった一言にアーシュリは尻もちをつく。
「シアン……」
俺はなぜかシアンの姿を見て安堵していた。
この世界に連れてこられて初めて会った人物だったからだろうか?
間違いなくアーシュリよりも危険であろうシアンに、俺はなぜか好意的な感情を持っている。
「ショーリさんも災難でしたね?」
「……ッ!」
初めて名前を呼ばれた。
それだけの事なのに俺はなんでこんなに胸が高鳴るんだ!
ついさっきまで彼女と普通に話せていたんだ、なのになんでこんな……!
おれが混乱しているとアーシュリが俺に小声で囁く。
「あんた……はやく抵抗しなさいよ……!完全に魅了されてんじゃない……!」
「魅了!?」
俺はいつのまにかシアンに魅了をかけられていたようだ。
魅了って言いうとゲームとかのサキュバスとかがやってくるあれか?
「上級の神族や魔族はそこにいるだけで下位種族に魅了がかかるようになってんの!」
なんだと!?
驚いている俺をよそにシアンはアーシュリに話しかける。
「私だけを別の場所に移転しつつ自分たちは天界に移転する」
そしてふっと馬鹿にしたような笑みを浮かべて続けた。
「発想自体はまぁありきたりな天使の発想でしたが、あなたにはそれほど複雑な術式を組めるだけの能力はなかったようですね?」
「あ……あうぅ……」
しどろもどろになったアーシュリを無視してシアンは俺に話かけた。
「ここは人間界ですよ」
「に……人間界?」
「ええ。といっても貴方がいた世界の人間界とは違いますけどね?」
そこまで話してシアンは首を傾げる。
「どうしましたか?ショーリさん……。随分と顔が赤いようですが、熱でも出ましたか?」
「ええっと彼はなにやら疲れているみたいなので、一度宿をとってそこでゆっくりこれかについて話し合いませんか!?」
アーシュリが口を挟むようにシアンに言った。
「私が術を失敗しちゃったみたいで!!そのせいで貴女も遠くに飛ばされたみたいで!!それで……!」
なおもアーシュリが捲し立てようとしたとき、突然爆発音が聞こえた。
「な……なんだ!?」
突然の爆発音に驚いていると、あぁっとシアンは思い出したように言った。
「どうやらこの街でスタンピードが起きているみたいですよ?」
だがら周りに人がいないでしょ?っとシアンが言った。
スタンピードってなんだ?
俺が疑問に思っているとアーシュリが助け舟をよこす。
「スタンピードというのはその名の通り、魔物の大量はっせいですぅ」
「人間界と魔界で稀に起こる現象なんですけど……何かの原因で時空に歪みが生じてそこから大量に魔物が合わられるんですぅ……」
なるほど……何かの原因というのが気になるが、とにかくそういうものなんだろう。
というかこいつキャラがコロコロ変わって安定しないな・・・。
「大規模なスタンピートだとこの街程度ならすぐに飲み込むほどの魔物が押し寄せます……」
そこで一息つき、でも大丈夫ッ!!と指を立て言った。
「そんなときの為のアークエンジェルズです!」
「アークエンジェルズとは人間界を守るために派遣された天使たちで、スタンピードなど人間界での異常事態に対処する天使たちです!」
かくいう私もアークエンジェルですけど!っと胸をはるアーシュリ。
「だからスタンピードが起きてもすぐに───「こんなところでなにやってるんだ!?」……は?」
自慢げなアーシュリの話を遮ったのは一人の男だった。
短く整えられた黒い髪に厳つい顔、筋骨隆々の体には軽装な鎧を纏っており、背中には身の丈ほどの大剣を携えていた。
見るからに強そうな男は息を乱しながら俺たちに捲し立てる。
「こんなところにいたら危ないだろ!?警告鐘を聞いてないのか!?」
そこで言葉を切り、俺たちの奥を視ながら続ける。
「とにかく急いで非難するんだ!!」
「ちょ……ちょっとまってください!」
急かす男にアーシュリが話しかける。
「あなたこそ大丈夫なんですか?あたな多分冒険者かなんかなんでしょうが、ここはアークエンジェルズに任せたほうが……」
「アークエンジェルズは全滅したよ……」
アーシュリの問いかけに男は渋い顔をしながら続ける。
「君はこの街の天使じゃあないのか……?」
「アークエンジェルズが……全滅……?」
アーシュリは呆然と男の言葉を繰り返す。
「とにかく今は話している時間もおしい!君たちのこの先にある噴水広場に早く行くんだ!」
「噴水広場……」
俺が繰り返すと男は大きく頷いて続けた。
「そこで車を使って住民たちが避難しているはずだ!君たちもそこに合流して早く避難しろ!」
そう言うと男は駆け出して行った。
「……」
「……」
「……ふわぁ」
その場に残された俺たちは呆然(欠伸をしたシアン以外)と立ち尽くすのであった。