53 聖女の興奮
黒いフルプレートの鎧を身に纏い、禍々しい気配を放つ目の前の存在に聖女クラシーは困惑していた。
何を推進力に飛んでいるかは分からないが、目の前の存在からは魔力も神力も一切感じない。
純粋な機械の力で飛んでいるのだろうか?
だがそれでは時折体から発される謎のオーラの説明がつかない。
困惑していると、黒い鎧は銃を取り出し此方に銃口を向けてきた。
「!!!」
次の瞬間轟音が鳴り響き、銃口から赤いエネルギー弾が発射される。
「聖女様!!」
聖女を庇うように周りを飛んでいた天使が数名で盾になる。
赤いエネルギー弾は天使に着弾し、凄まじいスパークと共に爆発した。
「ああああああ?!」
聖女の盾になった天使は弾丸を浴びて、今まで受けたことのない痛みに悶える。
着弾した場所自体は少し焦げている程度の怪我にしか見えないが、そこから一気にひび割れた様なあざが全身に伝わる。
そのまま天使は飛ぶことも儘ならず、地上へと墜ちて行った。
仲間の天使があわてて落下する天使を、地上に激突する前に抱き止める。
クラシーは天使が真っ赤なトマトにならなかったことを安堵しつつ、今の現象について一つの答えを得ていた。
───これは神力病!!
だとすると目の前の存在に説明がつく。
俄か信じがたいが目の前にいる黒い鎧の正体はまさか……!!
聖女は興奮と共に口を開いた。
「貴方様は邪神様なのですね……?!」
★
「貴方様は邪神様なのですね……?!」
聖女が興奮気味に俺に訪ねてくるが、それ所ではなかった。
危うく天使を一人殺してしまう所だった。
───まァ空中でヤリァそうなるわな……───
その通りなのだが、思った以上に神力病の巡りが早い気がする。
バラバさんの時は殴ってから少したって発病したと思ったのだが。
───威力によって変わるのさ!!拳で撃ち抜くよりもショットガンで撃った方が威力はたけぇだろ?逆に触っただけとか、ガードされたりとか、ダメージが少ないと巡りも悪くなっちまう───
なるほど……などと思っている俺を余所に、聖女は尚も言葉を続ける。
「お答え下さい。貴方様は復活された邪神様なのですね?」
「……」
正直な話俺は急いでいるし、此処で問答する時間もない。
先程の一撃で、天使たちは警戒して俺から距離を取るように離れている。
───よし!これなら……!!
俺は推進力を更に強め、一気にここから離脱する事にした。
今度は城側にいる天使にショットガンを向け、躊躇なく発砲した。
俺は今、ショットガンに弾を詰めていない。
邪神からの異次元エネルギーを直接ショットガンに流し込み、それを弾丸代わりに撃ちだしているのだ。
だからリロードは必要なく、引き金を引くだけでエネルギー弾を撃ちだすことが出来る。
更に言うなら引き金を引く必要もないのだが、撃ちだすイメージを俺自身が分かりやすくするために引き金を引いているのだ。
撃ちだされた二発目のエネルギー弾を天使は大きく回避した。
だがこれは俺の予想通りだ。
得体のしれない攻撃に警戒するように、天使たちが必要以上に避けてくれるのが俺の理想だった。
俺は推進力を上げ、天使たちが避けた場所目掛けて一気に加速する。
「!!!───逃がすな!!」
俺がここから離脱しようとしている事に気付いた天使の一人が大声を上げるが、もう遅い。
加速した俺は一気に王城へ向かった。
★
「彼は一体……」
聖女クラシーは、逃げた邪神について思考していた。
彼が邪神なのは間違えない。
何故なら魔力病や神力病は、邪神のエネルギーに触れたものしか発病しないからだ。
しかし分からない。
邪神は復活と同時にこの世界を破壊せんと、大爆発を起こすはず。
それは文献に記されていたし、それが間違えとは思い難い。
しかし先ほどの邪神は随分と理性的に見えた。
天使を一人墜とした時も、少し動揺していたように見える。
そこで一つの仮説がクラシーの中で浮かんだ。
あの黒い鎧を誰かが装着しているのだ。
邪神のエネルギーに触れては誰もが病魔に侵される。
しかしその病魔に侵される心配のない存在が、今この世界には二人いた。
別世界からの魔力も神力も持たない少年たちだ。
一人は革命軍が所有している。
だがもう一人。
そう、天界に招かれた移転人である佐藤勝利。
もし彼が何かしらの力を得て、邪神の力を自在に扱えるのなら……。
───うふふふ!やはりどうあっても彼を手に入れる定めなのですね!!
佐藤勝利を手に入れれば、今クラシーが恋焦がれているシアンが手に入る。
そして邪神の力そのものも手に入る。
あくまで予想であり理想だが、クラシーの中でもう先ほどの邪神の正体は佐藤勝利だと断定していた。
聖女クラシーは天使達に問う。
「シリーカさんは大丈夫ですの?」
「はい……。命に別状は無いようですが……」
問われた天使は苦虫を噛み潰したような顔をして続けた。
「シリーカはどうやら神力病に侵されたようで……」
「うふふ。やはり先ほどの御方は邪神様で間違えないようですわね」
「……聖女様……。あの邪神をどうされるおつもりですか?」
不安げに問う天使にクラシーは優しく言った。
「私達の目的は世界の浄化。世界を一度正常に戻す為に戦っています」
「……はい」
「その為には邪神様の力も必要かもしれません」
「……そうですか」
天使としては納得は出来ないのだろう。
彼女もアークエンジェルズの一員なのだ。
「どちらにせよ邪神様も城へ向かわれました。私達も急ぎ参りましょう」
「……はい!」
あの邪神が佐藤勝利ならば、彼の目的は国王達を救う事だろう。
しかしあの国王が、たとえ援軍だとしてもあの怪しい黒い鎧を信じるだろうか?
どちらにせよ……
───嗚呼、とっても楽しくなってきましたわ!
数十年間聖女という役割をこなしてきたが、今日ほど楽しい日は無い。
マッハブージの乱入で少し陰っていた心も今はとても晴れやかだ。
多くの命が失われる事はとても心が痛むが、それ以上に革命への本当の一歩を踏み出している実感に聖女は酔いしれるのであった。




