41 密会
二度のブルリカ陥落作戦の失敗。
王国筆頭軍3番隊隊長オスマン・デコアの口封じも失敗。
魔族の少女の脱走と、王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカ暗殺の失敗。
度重なる失敗で革命軍『ル・ルシエ』での聖女クラシーの信頼は失いつつあった。
もちろんブルリカ陥落計画の指揮者は指導者カイン・アルベルドであり、オスマン・デコアの口封じを失敗したのも、王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカ暗殺の失敗したのも聖女クラシーではなく、その部下たちの失敗だ。
しかしカイン・アルベルド亡き今、ファルデア王国の陥落計画の最高責任者は聖女クラシーであり、彼女を力をもってしてもいまだに計画が成功していないのは事実だ。
なによりファルデア王国の陥落計画の肝となっていたディオスパイダーが殲滅されたのは、あまりにも痛手であった。
カイン・アルベルトの最高傑作にして、最大最強の決戦兵器であったディオスパイダーの群れを失ったことで、実質ファルデア王国の陥落計画は不可能に近い状態にある。
そんな革命軍としては壊滅的な状態にあっても聖女クラシーは晴れやかな表情で、暗く長い廊下を歩いていた。
今から他の八人の指導者達に会わなければならない。
彼らから小言を言われるかもしれないが、それは甘んじて受けよう。
だが指導者たちは皆クラシーの同志なのだ。
彼らに面と向かって会う機会はそうないので、クラシーは彼らに会うのを楽しみにしているのである。
暗く長い廊下の先に小さな扉がある。
そこを抜ければ革命軍『ル・ルシエ』の本拠地、天空都市アバンガーデンに繋がっている。
こうして密会がある時のみ、この扉はかの天空都市に繋がるのだ。
天空都市に行くことは幼いころからの夢でもあった。
その夢がまさか大切なものを失って手に入るとは幼いクラシーには思ってもみなかっただろう。
扉を開けるとそこは綺麗な草原であった。
見通しのよい草原に、テーブルと椅子が並んでおり、それを囲むように扉が立っている。
天空都市の風はいつ来ても涼しく、心が穏やかになる。
のどかなその風景にクラシーは笑みを深めた。
席を見るとすでに何人か着席しており、どうやらクラシーは四番目だったようだ。
着席すると同時に、隣に座っている褐色の女性がニヤニヤとしながら口を開いた。
「聖女様ってのは随分とお忙しいんだなぁ?」
「お陰様で。お久ぶりですわね?アラナージ」
「っち。ああ、久しいなぁ!クラシー!」
お元気そうで良かったですわ。と言うクラシーにアラナージと呼ばれた褐色の女性はため息をつく。
「カインが死んだって聞いてちょっと心配してたけど、変わりなさそうでよかったぜ」
「ご心配お掛けしました。カインが旅立ってしまったのはたしかに悲しいですけれども、何時までもふさぎ込んでいるわけにはいきませんわ」
「その通りだ……」
すると低く重厚感のある声が静かに響く。
その声の主こそ、革命軍『ル・ルシエ』の創設者にして八人の指導者の最高責任者、イオグマ・マグナッソである。
白く長い髪と髭を蓄えた老人ながら、未だに衰えることのない体と神力を保っている。
圧倒的な存在感をもった老人であった。
「度重なる失敗申し訳ありません、御老公」
「よい……。如何なる物事にも失敗は付き物。大切なのはそれを踏まえてこれからどう対処していくか……だ……」
イオグマは静かにそう言うと目を閉じだ。
「だが今は、皆が揃うまで、革命の礎となった同志カインの為に祈ろう……」
そう言うと黙祷するイオグマ。
クラシー達もそれに倣って黙祷する。
───カイン。貴方の無念は無駄にはしません。必ずこの世界をより良くしてみせますわ……。
だから静かに眠って下さい。とクラシーは心の中で亡き同志に祈りを捧げるであった。
★
程なくして他の指導者たちが到着し、着席する。
七人が全員着席すると、イオグマは目を開け静かに言った。
「多忙の中、よく集まってくれた……。同志諸君。まずは礼を言おう」
そう言って深く頭を下げる。
そして指導者達を見渡し口を開いた。
「今回集まって貰ったのは、ファルデア王国の陥落計画の見直しのためだ」
「ふひひ。カインさんが死んでクラシーさんも失敗続きだからですかぁ?」
そういって暗く笑うのは、黒いおさげ髪にぐるぐるの眼鏡の少しふくよかな女性である。
彼女はリーサ・エリザベス。
ファルデア王国の南方に位置する大国アースガロン王国の第三王女である。
「リーサさん。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「……別に心配してるわけじゃないっすけど……」
申し訳なさそうに笑いながら言うクラシーに、リーサもそれ以上の言葉を噤む。
「口を挟むなリーサ!!ご老公がお話になっているのだ!!」
「ああんもう隣で大声ださないでくださらなぁい?我の高貴な鼓膜様が震えてるわぁん?」
そんなリーサを諫める男と、その声に不満の声を上げる男。
リーサを諫めた男は筋骨隆々な体、浅黒い肌に三つの瞳、スキンヘッドの頭から全身にかけて入れ墨を掘った体。
全身から常に立ち上る魔力は今にも爆発しそうな雰囲気を発している。
彼の名はマッハブージ。
かつて戦争で功績を上げ、魔界の魔王を任されている歴戦の猛者である魔族だ。
隣の男もマッハブージに負けずと筋骨隆々の男である。
ファーのついた派手なピンクのコートを身にまとい、その下はショートパンツのみという奇抜な格好の男の名はアーガマジン。
リーサの国であるアースガロン王国のカジノの都市ランペイジを、裏で仕切るマフィア『ベネッツア』のボスであり彼もまた魔族である。
この二人こそ革命軍最強の戦闘能力を持った二枚看板であり、単純な個人の戦闘能力で彼らに並ぶものはいない。
「ファルデア王国の陥落計画の要であったディオスパイダーの群れが殲滅されてしまった今、かの国を陥落させるにはまた時間が必要になった」
そんな騒がしくなった周りを無視してイオグマは話を続ける。
「しかし我々も悠長に構えるわけにもいかない。作戦が遂行された今、前から我々を追っていたものたちもまた更に追跡の手を強くするだろう……」
故に、と続けてイオグマは口を開く。
「次なる計画に事を移す時だ」
イオグマは鋭い目で周りを射抜きながら、静かに言葉を続けるのである。
「カインが残してくれた最後の希望。進化の種を使ったファルデア王国の陥落計画である」




