40 家族
その後、スワンナさん達へ連絡してくれたバラバさんと合流して『王の壁』の前でスワンナさん達を待つ。
バラバさんの話では、スワンナさん達は『王の壁』の中でアーシュリと共に襲撃されていた王国筆頭軍の隊長の人と仲間になったらしい。
そして1時間ほど待つと、スワンナさん、アーシュリ、そしてリーゼントの王国筆頭軍の隊長の人が『王の壁』の中から出てきた。
「俺は王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカだ。よろしくな!」
「佐藤勝利です!よろしくお願いします!」
俺に気さくに挨拶してくれるジャランカさん。
アルデンさんとはすでに知り合いだそうで、お互い握手を交わし挨拶をしていた。
そしてジャランカさんはシアンに向きなおると口を開いた。
「えーっと。変装してるよだが、あんたが脱走した魔族のお嬢ちゃんってことでいいんだよな?」
「はあ……」
「はははは!大丈夫だって!!ここで捕まえたりはしねーよ!!」
「はあ……」
豪快に笑うジャランカさんに気のない返事して、シアンは話は終わったというようにジャランカさんから離れると、アーシュリにそばに寄った。
「怪我をしてるんですか?」
「あ……大丈夫ですぅ……えと」
「私の神術で取り合えず傷口は塞いだのですが、まだ完全には完治していなくて」
申し訳なさそうに言うスワンナさんを横目に、シアンはアーシュリに手をかざす。
すると淡い光がアーシュリを包んだ。
「え……?治って……?」
「貴女には借りがありますから」
「!?……私のこと……覚えてるんですかぁ……?」
「?……一緒にパフェを食べたでしょ?それに伝言も頼みましたし」
そう言って首を傾げるシアンをアーシュリは呆然と見つめた後、顔を赤くして背けた。
そんなアーシュリの行動に首を傾げるシアン。
そんな二人を俺たちは微笑ましく見つめていた。
やはりシアンは無感情そうに見えて、意外と義理堅く真面目な性格なのだろう。
その後俺たちはこれからの事を話し合うために、一度街のホテルに移動することになった。
ホテルに着くと辺りはもう真っ暗になっており、作戦会議は次の日にする事になり今日はお開きとなった。
一応俺は革命軍に狙われているらしいのでバラバさんと相部屋となり、隣部屋にスワンナさんとアーシュリが、そして反対側にシアンが泊まることとなった。
「お休みなさい。ショーリさん」
「お休み。シアン」
シアンと挨拶を交わし部屋を閉じる。
「勝利殿。ここには私がいる。安心して休むといい」
「ありがとうございます。バラバさん」
シャワーを済ませた俺は、バラバさんの言葉に甘えてベットに倒れた。
怒涛の三日間だった。
移転初日でいきなり気絶して、その次の日にスタンピード、そして今日はシアンの逮捕に化け物スライム。
二日目の夜は次の日に神人との面会があったから緊張してそれどころではなかったが、ようやくこうしてゆっくり(?)眠りにつける状況になって俺は初めて家族の事を思い出していた。
───母さんと兄さん元気かな?……心配してるだろうな……
連絡さえ取る手段があればいいのだが。
明日そのあたりをスワンナさんに聞いてみよう。
そんなことを思っていると、俺はいつの間にか眠りについていた。
★
「貴方のお父さんはとても素敵な人だったのよ?」
それは事あるごとに言う母の口癖だった。
父は警察官だったそうだ。
しかし俺が物心がつく少し前に殉職している。
刃物を持った凶悪犯から市民を守って殺されたらしい。
そして母子家庭となったわけだが、幸いお金に苦労することはなかった。
殉職した父の香典とか手当とかあったし、元々キャリアウーマンであった母がまた働き始めたのもあった。
俺達兄弟がどんな大学に行っても問題ないほどのお金はあるから安心してね、と母は笑っていた。
俺には四つ上の兄がいる。
兄は非常に優秀で、成績優秀、スポーツ万能それでいて顔もよかったし性格も良かった。
それに比べて俺は全てが平々凡々。
成績も特に悪いわけでもなく、スポーツが特にできないわけでもない。
自分で言うのもなんだが、顔だって普通ぐらいはあると思う。
だが兄に比べると全てが劣っていた。
そんな兄弟だが俺たちの兄弟仲はとても良く、兄は俺を見下す事なんて一度もなかったし、俺とよく遊んでくれたし勉強だって教えてくれていた。
俺もそんな兄の事が大好きで、小さいときからよくくっついていたと思う。
母は俺達兄弟をとても愛してくれていると思う。
仕事が忙しくて、俺達はよく祖父母の家に預けられていたが夕食は絶対に家族揃ってで食べていたし、疲れているだろうに休みの日はよく遊びに連れ出してくれていた。
でもそんな母に俺は、あまり期待はされていないのだと子供ながらに分かっていた。
別に蔑まれているわけではない。
優秀な兄に比べられた事だってないし、それで怒られたことだってない。
でも……
「貴方はお父さんに似て本当に優秀よね!」
兄が学校で表彰された時などに、母は本当に嬉しそうに兄を褒めていた。
兄は俺の前で母に褒められるのを少し嫌がっていて、成績などをあまり母に言わないようにしていたようだが、それでも学校からの評価が母に届くのは止める事は出来ない。
多分俺が兄に比べられて自分で落胆するのを気にしていたのだと思うが、俺は優秀な兄を誇りに思っていたのであまり気にしたことはなかった。
でも、それでも俺だって母に褒められたいと思わないわけではなかった。
兄に対して劣等感を持ったことはない。
それでも少しだけ羨ましかったのは事実だ。
そんなある日、小学校から下校していると道端で倒れているお婆さんを見つけた。
友達達は気が動転して慌てている中、俺はすぐにお婆さんに駆け寄り介抱した。
倒れて呻いているお婆さんの背中をさすりながら、子供用のスマホで119番通報をした。
すぐに救急車が駆けつけ事なきを得たのだが、その後人命救助をしたということで表彰状を貰うことになった。
あれだけの事で大げさな……と思っているとその後母に抱き寄せられた。
「貴方はお父さんに似て、困っている人を放っておけない優しい子なのね!」
本当に嬉しそうにそう言って俺を抱き寄せる母を見て、俺は初めて心の奥底から母に褒められたのだと理解した。
それからだった、俺が困っている人を放っておけなくなったのは。
始めは人助けをすると母に褒められる、その思いで人助けをしていたのだが、いつの間にか俺の中でその行為が当たり前のことになっていた。
目の前で大変な思いをしてる人達がいるなら俺は手をのばしたい。
いつの間にかそれは俺の中での強固な行動理念になっていた。
兄はそんな俺は最初は褒めてくれていた。
だが、度が過ぎた俺の人助けに少し顔を顰める時もある。
「勝利、人助けは立派だよ。でもそれでお前が危険な目にあうことがあるかもしれない」
兄は真剣な目で俺を見つめ言葉を続けた。
「度が過ぎた人助けはいずれお前の命を取ることになりかねない。こんなこと言ったら俺は嫌な奴だけど、俺は赤の他人の命よりも大切な弟の命の方が大事なんだ」
だから程ほどにね?と言う兄に俺は申し訳ないと思ったが、それでも変えることは出来なかった。
───兄さんの言った通り、かなり危ない目に合ってるよ……
だが俺はこれからも、この生き方はかえれないだろう。
例え俺が無力でも、俺は目の前の人たちに手を伸ばし続けるのだろう。
例えそれで命を落とすことになっても。
何故ならそれが父から受け継いだたった一つの、佐藤勝利の生き方なのだから。




