39 本当にやりたいこと
公園のベンチで待っていると、ほどなくしてアルデンさんが戻ってきた。
「お待たせしたな」
俺はまだ先ほどの衝撃(頬への口づけ)で赤くなっていたが、取り合えず気持ちを入れ替えてアルデンさん言う。
「いえ!こちらこそすみません。わざわざ買いに行ってもらって」
「なに、構わんよ。それよりシアン殿、これを」
そう言って手に持っていた袋をシアンに手渡す。
「そこにウィッグと伊達だが眼鏡が入っている。それを身につけるだけでも少しは違うはずだ」
「なるほど……」
シアンは神妙に袋を眺めると、中からウィッグと眼鏡を取り出す。
そしてそれを身に着けるとくるりと回って俺に問いかけた。
「どうですか、ショーリさん?似合ってますか?」
黒いロングのウィッグを着けて黒縁の眼鏡をかけたシアンだが、以外にもそれはそれで似合っていた。
「似合ってるよ!シアン」
「ふふ。ありがとうございます」
俺の答えに満足したのか、シアンが微笑んだ。
「おじさまも、ありがとうございました」
「ははは。気に入ってもらえてよかった」
アルデンさんは朗らかに笑った後、表情を引き締め俺達に言った。
「さて。二人ともこれからどうするかね?」
「どうするというと?」
アルデンさんの言葉に俺が首を傾げると、アルデンさんは頷いて言葉を続けた。
「シアン殿と再会するという勝利君の目的は達せられた。つまりもうデポカにこれ以上滞在する必要はないわけだ」
「……あ!」
「先ほどシアン殿は王都で遊びたいと言っていたから、せっかく変装したのだし二人で遊んでくるといい」
「遊びに……ですか」
「うむ。私は王都でまだやるべきことがあるからここで分かれるが、君たちは街で遊んできなさい」
確かにアルデンさんの言う通り、予想外にも俺の目的は既に達成されている。
しかしだからといってこのまま二人で遊び惚けてもいいのだろうか?
アルデンさんたちは恐らくこの先、ブルリカで起きた事件の真相を明かすべく王都で調査をするのだろう。
つまりそれは革命軍『ル・ルシエ』に近づくということだろう。
ブルリカでの事件でもわかるが、革命軍『ル・ルシエ』はとても危険な組織なのだろう。
そんな組織に近づいて皆無事で済むのだろうか?
もちろんその調査に俺が加わった所で、猫の手よりも役に立たないのは目に見えている。
むしろ足手まといだ。
だがシアンなら……?
彼女の実力をもってすれば、危険な革命軍といえども問題ないのではないだろうか?
そこまで考えてまた自己嫌悪に陥る。
シアンといいクリムといい俺は彼女たちを何だと思っているんだ?
自分の都合のいい駒とでも思っているのか?
彼女たちは善意で俺に協力してくれていたのに、俺はまたシアンを利用しようとしている。
───自分で出来ないことをシアンに押し付けて、まるで俺がやってるかのように考えるのはやめろよ……!!
それに俺には目的もある。
ケタロスさんに言われた邪神『ボムバ・ヌクリア』の再封印。
俺がこの世界に呼ばれた目的である邪神の封印を後回しにしてまで、俺自身何もできないくせにこの国の事に首をつっこむのか?
また自己嫌悪という思考の渦にぐるぐると飲まれそうになっていると、シアンが不思議そうに俺に問いかけた。
「どうしたんですか?ショーリさん」
「いや……なんでも。そうだな!シアン!せっかくだし街で遊んで行こう!」
さっきまでのくだらない考えを振り払うように、俺は極力明るく言った。
するとシアンは俺をじっと見つめ、そして問いかける。
「ショーリさんはどうしたいんですか?」
「……え?」
「だってショーリさん、今から遊びに行くって雰囲気じゃないですから」
「それは……」
口ごもる俺をジト目で見つめてシアンは言葉を続ける。
「どうせまた、目の前で大変な思いをしてる人達がいるなら俺は手をのばしたい!!ってなってるんでしょ?」
「シ……シアン……」
「ショーリさんはゴブリン程度に怯えて失禁するぐらい臆病な人なのに、意外と勇敢ですからね?」
「だから漏らしてはないだろ?!」
「いいですよ?私も付き合います」
「え?!!」
シアンの言葉に驚く俺を余所にシアンは続ける。
「その代わりまた報酬は頂きます」
「報酬?」
「はい。もうお金はいりませんから、他の報酬をいただきます」
「他の報酬って……」
その言葉に戦々恐々とする俺を余所にシアンは、ふふっと微笑むと指を唇に当てて言った。
「内緒です」
「内緒って……」
「でもショーリさん。もう少し胸を張ってもいいのでは?」
「……え?」
いきなり言われた訳の分からない言葉に俺は首を傾げる。
胸を張るってなにをだ?俺は何もしていない。
「貴方は前の街を救ったんですよ?」
「あれをしたのは俺じゃなくてシアンとクリムだろ?!」
「違いますよ?というかクリムに助けて貰たって街を救ったことだったんですか」
私がいない間にまたなにやら大変だったんですね?と呑気に言うとシアンは言葉を続けた。
「私を説得したのも、クリムを説得?したのも貴方です。私たちは自らどうでもいい人間たちを守るようなことは絶対にしません」
「いやだからって……」
「私たちの心を動かしたんだから、それは凄いことだと思いますよ?」
「シアン……」
「だから……」
そこで言葉を切ってシアンは微笑んで俺に言った。
「あの街を救ったのは貴方なんですよ?ショーリさん」
正直シアンの言ってることは俺にとっては異議しかない。
なぜならあの街を救ったのは紛れもなくシアンとクリムだからだ。
クリムに関しては本当にいきなり召喚されて、何も報酬すらないのにも関わらず快く俺たちを助けてくれた。
納得はできない。
でも……それでもシアンがそう言ってくれているのなら、そう思ってくれているのなら、俺の想いは飲み込もう。
他でもないシアンがそう言ってくれているのだ。
そこに異を唱えたらそれこそ彼女への侮辱だ。
そしてそんなシアンが協力してくれると言ってくれるのならば、俺はどんな対価でも彼女に払おう。
「わかった!シアン!どんな報酬でも俺が払ってみせる!だから……俺に協力してくれ!」
「ふふ。あとで払えない、は無しですよ?」
「もちろんだ……って俺がちゃんと払える報酬にしてくれよ?」
「ふふふ。さぁ?どうしましょうか?」
楽しそうに笑うシアンにつられて俺まで笑ってしまう。
「勝利君、シアン殿……」
そんな俺たちを黙って見ていたアルデンさんが口を開く。
「アルデンさん。俺達協力します!一緒に革命軍をどうにかしましょう!」
「勝利君……」
アルデンさんはきつく目を閉じると首を振った。
「本当は君たちがそう言ってくれるのを、私はどこか期待していたんだろう……」
本当に私は汚い老人だ・・・と言うアルデンさんに俺は首を振る。
「アルデンさん、俺も同じですよ。きっと心のどこかでシアンが俺に協力してくれるのを期待してたんだと思います」
「勝利君……」
「俺がシアンへの報酬払えなかったら、払うの手伝ってくださいね?!」
わざとおどけて言うと、アルデンさんはきょとんとした後に大笑いした。
「わははは!もちろんだとも!無一文になろうともかならず払ってみせるよ!」
そう言って大笑いするアルデンさんを見て俺も笑顔になる。
こうして俺達も王都デポカに巣くう革命軍『ル・ルシエ』に首を突っ込むこととなったのであった。




