38 襲撃者の正体は?
「この場は俺様が預かる!!!」
轟音と共に放たれる言葉の衝撃波にスワンナは顔を顰める。
正直状況がいまいちわかっていないスワンナは、新たに現れた鬼が敵なのか味方なのか判断しかねていた。
アーシュリと別れ、アルデンの頼みである革命軍『ル・ルシエ』の情報を集めるべく、王都所属のアークエンジェルズ達に会いに行っていたスワンナであるが、唐突に嫌な予感に襲われた。
王都所属のアークエンジェルズ達への念話による通信途中だったが、断りを入れすぐに踵を返す。
アーシュリの向かった教会へと急ぐスワンナは、裏路地で轟音と共に放たれた電撃を目にする。
すぐにそれがアーシュリの神術であると気づいたスワンナは周囲がざわつく中、急いで裏路地へと向かった。
そこで見たのは銃弾に襲われ苦悶の表情をしているアーシュリであった。
急いでアーシュリを助けるべく剣に手をかける。
間一髪でアーシュリを救ったスワンナだが、新たに現れた襲撃者に面を喰らう。
そうしてスワンナが躊躇していると、リーゼントの男が鬼に叫ぶ。
「てめぇナニモンだぁ?!」
「俺様が何者かなんぞ貴様には関係ない!!」
鬼はそう言うや否や地面に向かって大きく拳を振り上げた。
───まずい!!
鬼の意図に気づき止めようとするスワンナだが時すでに遅く、鬼は地面に拳をぶつける。
轟音と共に崩壊した地面と土煙がスワンナ達を襲う。
スワンナは羽に神力を纏わせ、思いっきり羽ばたかせる。
一瞬にして土煙を払ったスワンナだが、自分の失策を悟る。
───逃げられてしまったわね……
土煙が晴れると既に襲撃者たちは姿を消していた。
「くそ!!逃げられちまった!!」
悪態を付くリーゼントを余所にスワンナは急いでアーシュリに回復の神術を施す。
「アーシュリ!大丈夫?!」
「大丈夫なわけないでしょ……」
まだ悪態はつけるぐらいの元気はあるようだ。
安堵のため息をつきスワンナはアーシュリの傷を癒す。
程なくして市街地の方から軍人たちが到着した。
四、五人の王国筆頭軍であろう軍人たちはスワンナ達に銃を向け叫んだ。
「そこを動くな!!」
「彼女たちは被害者だ!」
すると軍人たちの前にリーゼントの男が立つ。
軍人たちはリーゼントの男を見ると慌てて敬礼して答えた。
「5番隊隊長殿!!」
「おう。この天使ちゃんたちは俺が襲撃を受けた時に巻き込んじまった娘たちだ」
「襲撃……でありますか?!」
「ああ。お前ら赤い巨体の鬼を探せ。そいつが襲撃者を連れてここから逃走した。まだ遠くにゃいってねぇはずだ」
「は!!」
王国筆頭軍の軍人たちはまた敬礼をするとその場から去ろうとする。
「あとそいつを見つけても手を出すな。お前たちの負える相手じゃねぇ。尾行してそいつらの潜伏先を教えろ」
「承知しました!!」
今度こそ去っていく軍人たち。
それを横目にアーシュリが、ホントに隊長だったんだ……と呟くと気絶してしまった。
「アーシュリ?」
「大丈夫か?!天使ちゃん!!」
リーゼントの男も慌ててアーシュリに駆け寄る。
「……大丈夫です。気絶してしまっただけのようなので……」
「そうか……。そいつは良かった、ってわけじゃあねえが……」
リーゼントの男がため息をつくとスワンナを見て言った。
「そのお嬢さんに言っといてくれ。巻き込んじまって悪かったって」
「それは本人に直接言ってください」
「そうしたいのも山々だが、おれぁ狙われてる。これ以上お嬢さんがたを巻き込めない」
「ここまで巻き込んでおいて?貴方が私たちから離れても、彼らは恐らく目撃者として私たちを狙ってきますよ?」
「……う」
「それよりも教えて下さい。彼らは何者で、なぜ貴方を狙ってきたのかを」
スワンナは強い視線でリーゼントの男を睨むと、リーゼントの男は一瞬たじろいだ後、ため息をつき首を振った。
「わかった……。お嬢さんがたにも教えるよ……。俺がなんで狙われてるのかを」
ただし、と付け加えて男は続ける。
「これを知っちまうとマジでお嬢さんがたは、奴らに狙われちまうことになると思う。それでも大丈夫か?」
「………それはもしかして、革命軍『ル・ルシエ』絡みの話ですか?」
「!!!なんでお嬢さんがそれを……?!」
驚愕するリーゼントにスワンナは不敵に笑うと、改めて自己紹介をした。
「私はブルリカ所属アークエンジェルズの隊長スワンナと申します。この度はブルリカでの二つの事件の真相を追ってこの王都デポカに参りました」
「あんたがブルリカの……!!」
「私たちは二つの事件の影に革命軍『ル・ルシエ』が潜んでいると確信しています。だから王国筆頭軍の隊長さん。私たちに手を貸してください!」
そう言って手を差し伸べるスワンナを驚愕の面持ちで見ていたリーゼントだが、気を引き締めるとがっしり彼女の手を握った。
「そう言う事ならもちろんだぜ!俺は王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカ!!よろしく頼む!!」
にやりと笑ってジャランカはスワンナの手を強く握った。
★
「下手をこいたな!!パルアキ!!」
ジャランカ達から逃げおおせた鬼達は、追っ手を警戒しつつも下水道の中の隠れ家に辿りついていた。
「申し訳ありません……」
鬼の仮面を取り項垂れるパルアキ。
まさかあの襲撃が失敗するとは思ってもみなかった。
ジャランカは密偵など抱え多くの部下を持っているが、奴の性格上他を巻き込むのは好まないはず。
故に奴は自らおとりとして裏路地で自分たちを待ち構えていたのだ。
本当ならばその勇気に敬意を表し、パルアキ一人でけりをつけに行くつもりだったが、そこで待ったがかかる。
アナシスともう一人の男もジャランカの暗殺に加わるというのだ。
「まさかあれで失敗するとはねぇ……」
ジャランカを襲った襲撃者の一人の男、王国筆頭軍9番隊隊長ヴァージルは傷ついた腹を魔術で回復しながら肩を竦める。
彼こそジャランカ達を遠くで狙っていたスナイパーであるが、スワンナの反撃で手酷いダメージを受けていた。
そして……
「くそ!糞!クソ!絶対に許しませんわ……!!!」
利き腕をスワンナに奪われたアナシスは応急処置をしながら怨念を吐く。
その目は既に狂気に染まっていた。
───だから私一人で行くといったんだ……
そんなアナシスを呆れた目で見ながらパルアキはため息をつく。
この二人が、ジャランカを確実に仕留めるためとパルアキの反対を押し切って同行してきたが、結果は御覧の様だ。
予想と反してジャランカは天使の女と共に行動していた様だが、それよりも自分たちの襲撃を対処してしまったもう一人の天使が気になる。
彼女こそ恐らく、このファルデア王国でもその実力で右に出る者はいないと唄われている、ブルリカ所属アークエンジェルズの隊長スワンナだろう。
ブルリカのみならず、ファルデア王国全体を見回しても随一の実力者である彼女がなぜこの王都デポカに来ているのかは分からないが、厄介なことに変わりはない。
ブルリカはファルデア王国で見ても随一の実力者揃いの街だ。
スワンナを始めとして、英雄アルデンとその甥であり最強のAランク冒険者ジーク、世界樹の守護者であるエルフの里出身のAランク冒険者レコアなど粒ぞろいである。
だからこそ最初の標的としてディオスパイダー作戦が行われたのだ。
その結果は言わずもがなだが、なぜ王都まできたのだろうか?
その後のバックアッププランであったスライム作戦も失敗に終わり結局革命軍はブルリカに少しの爪痕しか残せなかった。
そして今、ブルリカからスワンナ達がこの王都に足を踏み入れた。
おそらく通信の妨害などの細工を調査しに来たのだろう。
彼から革命軍『ル・ルシエ』にたどり着くのは時間の問題だ。
───なんとかせねば……
パルアキが思考していると鬼が口を開いた。
「もう戻らねぇと娘が心配しちまう!!」
そう言うと鬼の体からシュウシュウと音を立てて煙が立ち込める。
そして……
「じゃあ俺様は宿舎に戻るぜ!!」
煙が開けるとそこに立っていたのは王国筆頭軍7番隊隊長バンギアスであった。




