37 襲撃者たち
ファルデア王国の王都デポカの中心部『王の壁』の裏路地で、王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカは天使の少女を抱きかかえて走っていた。
スナイパーに狙われているジャランカは裏路地を抜け、人通りの多い街の中心へと急ぐ。
腕の中の天使の少女も最初は暴れていたが、音もない銃撃に狙われていると悟り今では大人しく小さくなっている。
───かなり腕利きのスナイパーだ!障害物が多そうな道を通ってんのに確実に俺を狙ってやがる!!
このままではいずれ弾丸の餌食になるだろう。
しかしもうすぐに裏路地を抜ける。
さすがに人通りの多い市街地で刺客も自分を狙うわけにはいくまい。
「……ねぇ。あんたなんで狙われてんの?」
腕の中で小さくなっている可愛い天使に話しかけられた。
「王国筆頭軍ってのはわりぃ奴らに狙われるもんさ」
その質問に適当に返しつつ市街地へと急ぐ。
腕の中で少女が、あんたが一番悪いやつに見えるけど・・・と、小さくつぶやいたが取り合えず無視をしておく。
そして少し走ると市街地が見えてきた。
あそこまでたどり着けば取り合えずは大丈夫だろう。
もう少しだ。
そう思ったジャランカは背中に冷やりと悪寒を感じた。
咄嗟に抱きかかえている少女ごと体を無理やり捻る。
瞬間ジャランカがいた場所に後ろから刀が振り上げられていた。
「きゃああ?!」
少女が悲鳴を上げるが、ジャランカはそれどころではなかった。
抱えていた少女を壁に投げると同時に後ろを振り向き、すぐに槍を召喚して構える。
そこに立っていたのは二人の人物だ。
一人は鬼のような仮面を被って刀を携える男。
そしてもう一人は狐の仮面を被り細い剣を構える女であった。
「ここで仮装パーティかなんかやってたのかぁ?!なぁパルアキ!!」
ジャランカは確信をもって叫ぶが、鬼の仮面の男はそれを無視してジャランカに襲い掛かる。
そして狐の仮面の女は、ジャランカに投げられて尻もちをついている天使の少女に襲い掛かった。
───やべえ!!
天使の少女を守りに入りたいジャランカだが、鬼の仮面の斬撃を往なすのに精いっぱいで彼女を守りに行けない。
仮面の女は天使の少女を突き刺そうと構え、細剣を突く。
「逃げろ!!」
ジャランカが叫んだ瞬間、轟音と光が走った。
「ぎあああ?!!」
そして悲痛な叫び声が裏路地にこだまする。
その叫び声を上げたのは仮面の女であった。
仮面の女は予想外の攻撃に慄きながら、天使の少女から距離を取る。
「あんたらさぁ……。あたしを誰だと思ってんの?」
指の先からバチバチを火花を散らす電気を発しながら、天使の少女はゆらりと立ち上がった。
「こちとら腐ってもアークエンジェルズなのよ!!あんたらみたいな人間ごときに遅れをとるわけないでしょ?!」
そして毅然とした態度で襲撃者たちに啖呵切った天使の少女に、ジャランカは戦闘中であるにも関わらず見惚れてしまうのであった。
★
───危なかったぁ!!
心の中で叫びながらアーシュリは襲撃者たちを見据える。
心臓はバクバクと大きな音をたてているし、正直脚はガクガクと震えている。
訳の分からないリーゼントが狙われているついでのように自分まで狙われるなんてまっぴらごめんだ。
それにスナイパーに狙われている時には気が付かなかったが、よく考えればリーゼントに抱きかかえられてないで飛んで逃げれば良かった。
まあそんなことをすると、もしかしたらスナイパーに狙い撃ちされるかもしれないが、もっと言うと迷子になった時点で空を飛んで上から確認すればよかったのだ。
自分の愚かさを呪っても使用がないので頭を切り替える。
襲撃者の狐の仮面の女は自分の予想外の反撃に、たじろいでいるようだ。
そしてもう一人の男はリーゼントと戦っている。
スナイパーはどうやら仲間を撃つことを恐れてか銃撃がやんでいる。
だがここでじっとしていればそれこそまたスナイパーの格好の餌食だ。
───仕方ないわね!!
さっきの電撃は市街地にも音が伝わるようにわざと派手な神術を使った。
もしかしたら市街地にいる王国筆頭軍がそれに気づいてやってくるかもしれない。
その時このリーゼントが本当に王国筆頭軍か分かるだろうし、なによりこの襲撃者たちもそうすればひかざるを得ないだろう。
気合を入れて襲撃者を睨む。
仮面の女は息を整えると、また細剣を構える。
「ブリド・リジドアド」
「!!!」
仮面の女の演唱と共に、冷気をまとった魔術が発射された。
それを咄嗟に避けるアーシュリだが、瞬間肩に激痛が走る。
───撃たれた!!!
どうやらスナイパーはまだアーシュリたちを狙っているようだ。
苦悶の表情を噛み殺し、仮面の女から目を離さないよう指先に神力を溜める。
無演唱でも神力を溜めれば打ち出せる、単純な神術である雷の神術を放とうと仮面の女に掌を向けた時、二度目の激痛が走った。
「ごふ……!」
「お嬢さん!!」
どうやら今度は左脇腹辺りを撃たれたみたいだ。
この位置はスナイパーにとって格好の餌食らしい。
仮面の女はスナイパーの射線上に入らないようにアーシュリの横に移動し、止めを刺すべく剣を構えた。
───結局こうなるのね……
やはり自分は大した天使ではないのだ。
さっきは啖呵を切ってみたが、このままこの襲撃者たちに嬲り殺しに合うのだろう。
痛みと悔しさに涙を流すアーシュリだが、瞬間風が横切った。
「?!!」
「な?!!……ああああああ?!」
次の瞬間、仮面の女の腕が宙に舞っていた。
仮面の女の腕を飛ばした風は地面に着地すると急いでアーシュリに近づく。
それはアーシュリの親友にして、ブルリカ所属アークエンジェルズの隊長スワンナであった。
スワンナはアーシュリに近づくと細剣を空に振るう。
するとアーシュリの側の壁に小さな穴が開く。
スナイパーの弾丸だ。
細剣で弾丸を弾いたスワンナは、銃撃の先を見据えると静かに演唱を唱えた。
「ライトニング・アロー」
演唱と同時に光の弓が現れ、スワンナは細剣を矢の用に引き撃ちだした。
するとスワンナ達から500メートルほど離れた建屋の屋上で光の柱が立つ。
「なに?!」
予想外の援軍に鬼の仮面の男がたじろぐ。
その隙を逃さずリーゼントの男が仮面の男に猛攻を仕掛ける。
「これで終わりだあ!!」
「ちぃ!!」
仮面の男がリーゼントの猛攻にバランスを崩した隙をスワンナは見逃さなかった。
撃ちだした細剣を召喚してまた手に持つと、羽を広げ仮面の男に一瞬で飛び掛かる。
空中で回転を加えながらの斬撃を防御した仮面の男だが、その威力に耐え切れず刀を飛ばされる。
「おらああ!!」
止めを刺そうとリーゼントの男が槍を上段に構えた時、リーゼントとスワンナ、そして仮面の男の間に上空から何かが衝撃と共に落ちてきた。
土煙が立ち上るなか、それは姿を現した。
三メートルは超える巨体に真っ赤な体。
頭には大きな角が二本生えており口からは鋭い牙がのぞく。
魔界の鬼と呼ばれる種族にそっくりの容姿の男は、リーゼントの男とスワンナを静かに見据えて口を開いた。
「この場は俺様が預かる!!!」
耳を塞ぎたくなるような轟音と衝撃に、アーシュリは気を失いそうになるのであった。




