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36 運命に出会う

───大したもんだぜ……


王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカは目の前で消えた魔族の少女の実力を目のあたりにして、改めてその実力に舌を巻いた。


魔族の少女が無罪なのは知っているが、それでも仕事は仕事。

ジャランカは決して油断などしていなかった。


魔術も神術もどんなに極めたものでも発動には何かしらのキーがいる。

ノータイムで発動しているように見えても本当は発動まで少しタイムラグがあるのだ。


ジャランカはその発動を見逃すほど間抜けではない。

戦闘中ならいざ知らず、非戦闘中であって目の前で堂々と魔術など発動したらすぐに止める事ぐらいは出来ると思っていた。


だが魔族の少女はジャランカが警戒しているにもかかわらず魔術を発動して逃げおおせたのだ。


全くタイムラグなしに魔術などを発動できるものがある。

それは固有魔術及び神術だ。

生まれつき備わった特殊な魔術などなら基本魔術などと違って演唱や発動キーも必要ないものもある。


魔族の少女の固有魔術は恐らく瞬間移動系の魔術なのだろう。

そこまで考えて直、ジャランカは目の前で起きたことが信じられなかった。


なぜなら報告にあった魔族の少女の戦闘データでは、彼女の固有魔術は恐らく氷系の魔術だと報告があった。

一瞬にしてディオスパイダーを凍結させ、圧倒的な戦闘能力で全滅させた少女。

その氷の能力が固有魔術でなく基本的な属性強化の魔術に過ぎないということになる。


基本的に固有魔術は一人につき一つまでしか得られない。

最強と謳われる現在の勇者でも固有神術は一つだ。


だが……


───固有魔術が二つあるって言われたほうがまだましだぜ……


氷にせよ瞬間移動にせよどちらも強大な能力だ。

どちらかが基本的な魔術のみで行われているとなると、やはりあの魔族の少女の実力は自分たちが思っている以上に遥か高みなのだろう。


ため息をつきジャランカは首を振る。

どちらにせよ容疑者に逃げられたのだ、追わないわけにはいかない。

さてどうしたものかと考えていると、聖女クラシーと王国筆頭軍2番隊隊長パルアキが部屋へ到着した。


その後、シスターを慰めているクラシーを余所に、ジャランカはパルアキに廊下に連れ出されていた。


「貴様……。なんだこの体たらくは」

「しゃあねぇだろ?あのお嬢さんの実力は俺たちが思ってた以上だったってわけだ」

「言い訳にすらなっていないな。それならば逃していい理由にならない」

「だから今から追うんだろうが。邪魔すんな」


胸倉を掴んでくるパルアキを押しのけ、ジャランカは教会を出ていこうとする。

そんなジャランカをパルアキは睨みつけていたが、それ以上の言及はなかった。



───パルアキの野郎どう出やがる?


教会を出てジャランカは考える。

パルアキと聖女は革命軍『ル・ルシエ』のメンバーなのは間違えないだろう。

証拠はないが、ジャランカには確信があった。


そしてあんなに堂々とパルアキに『ル・ルシエ』をぶっ飛ばすと宣言したのだ。

恐らくパルアキは邪魔な自分を消しに来るだろう。


先ほどは他のシスターなどがいたからすぐには手を下せなかっただろうが、こうやって協会から出てひとけの少ない場所に移動すれば奴は必ず尻尾を出すだろう。

早く自分を始末しなければ、『ル・ルシエ』にとって邪魔な情報を持つ自分を野放しにすることになる。


『王の壁』の中は基本的に治安が良く、人けの少ない裏路地などでもゴロツキなどはいない。

たまに看守の目を欺いて忍び込んできた輩などがいるが、すぐに筆頭軍などに捕まってしまう。

故に裏路地には人けがなく、暗殺するには絶好の場所なのである。


自分への刺客を警戒しつつ裏路地を調査していると、ふと気配を感じた。


───ついに現れやがったか!!


気配はどんどん近づいてくる。

感覚的にどうやら一人のようだ。


───たった一人の刺客!!どうやらご本人のお出ましかよ!!


仮にも隊長である自分に刺客一人と言うことはないだろう。

だとしたら恐らく来ているのはパルアキ本人!


自分の魔力が高ぶっていくのが分かる。

高ぶる魔力を抑えつつ自分の獲物である槍を召喚し裏路地の角へと向かう。

その先に刺客がいるはずだ。


ジャランカは先制攻撃を仕掛けるべく裏路地の角へ飛び出した。

そして……


「ああーーん!!もう!!ここどこーーー?!!」


運命と出会った。



佐藤勝利たちと別れ、スワンナと共に『王の壁』の中に入ったアーシュリであったが、スワンナの提案で二手に分かれて情報を集めることになった。


そんなことをしなくても聖女の元へ行けばシアンは居るはずなのだが、どうやらスワンナはアルデンに頼まれた別の調べ事もあるようだ。


聖女教会へ行ってシアンの無事を確認するのはアーシュリの役目となり、アーシュリは教会へと向かった。


街で一際目立つ聖女教会を見つけ、教会の門を開く。

入ってすぐに受付をしているシスターに話を聞くとシアンは大聖堂の中で今、聖女に懺悔をしているそうなので、懺悔が終わるのを待つことにした。


待合室で待ちつつ、安堵のため息をつく。


───どうやらシアンさんは無事の様ね……


少なくともシアンに限って万が一なことは無いだろうが、あんな捕まり方をしたのだ。

もしかしたらという心配がなかったわけではない。


安心しつつ懺悔が終わるのを待っていると窓の外にいる女性が目に入った。

それはシアンを捕まえた女、アナシスであった。


───あの女!!


アナシスはシアンに罪を擦り付け、容疑者に仕立て上げた女だ。

あの女を捕まえて真実を明るみに出来れば、シアンの容疑は晴れるはず。


急いで教会を出てアナシスがいた場所に向かう。

するとどこかに移動するアナシスの後ろ姿が見えた。


「待ちなさいよ!!」


そしてアナシスを追って裏路地までたどり着いたアーシュリだが、そこでアナシスを見失ってしまった。

当てもなく裏路地をぐるぐるしていたが一向にアナシスは見当たらない。


そしてアーシュリは気付く。

自分が完全に迷子になっていることに。


「ああーーん!!もう!!ここどこーーー?!!」


「大丈夫かい?お嬢さん!!」

「……へ?」


すると裏路地の角からガラの悪いリーゼントが現れた。


「こんなとこで何してんのかはわかんねぇが、天使とは言え女性一人でこころうろつくとあぶねぇぜ?」


リーゼントはニヤニヤと笑いながらこちらに近づいてくる。

アーシュリは冷や汗を流しながらゆっくりと距離をとる。


「おっと俺は怪しいもんじゃあねぇ!!王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカだ!!」

「……あんたが王国筆頭軍隊長??」

「ああ!!これが証拠の腕章だ!!」


そう言って腕の腕章を見せてくるリーゼントだが、その腕章が王国筆頭軍隊長の証拠かどうかなどアーシュリは知らない。


───『王の壁』の中でこんなガラの悪いやつがいるなんて……!!


アーシュリは完全に油断していた。

『王の壁』の中ならばさすがに裏路地であろうと、そこまで怪しいものは居ないだろうと。


じりじりと距離を詰めてくるリーゼントと距離をとるアーシュリ。

アーシュリの背中が壁に当たりこれ以上距離がとれなくなる。


───やばい!もう逃げらんない!


アーシュリの肩に手を置こうとしてくるリーゼントに、恐怖で目を閉じたアーシュリだが次の瞬間リーゼントに押し倒された。


「やめ……!!なに?!!」


驚いて目を見開くと、先ほどまでアーシュリがいた場所の壁から小さな穴と煙が立ち上がっている。


「っち!!スナイパーかよ!!」

「スナイパー?!」

「お嬢さん!!巻き込んでわりぃが、ちぃとついてきてもらうぜ!!」


何が何だか分からないアーシュリをリーゼントは抱き起すと、そのまま横抱きに抱きかかえリーゼントは走りだした。


「もう!!なんなのよーーー?!!」


展開について行けないアーシュリの叫び声が、裏路地にこだまするのであった。

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