31 聖女クラシー
「初めまして。私がファルデアの聖女のクラシーですわ」
そう言って優しく微笑む女性。
彼女こそファルデア王国が誇る唯一の聖女クラシーである。
「貴女の事は聞き及んでいます。たった一人でディオスパイダーの群れを退治してしまわれたとか……」
「………」
「ぜひお会いしたいと思っていましたわ」
ディオスパイダーを殲滅したのはつい先日の事である。
随分と耳が早いことだ……とシアンは思う。
すると聖女は、両隣を守る騎士たちに言った。
「申し訳ありません。お二人とも少し席を外してくださらないかしら?」
「……聖女様。我々は貴女を守る使命があります」
「勝手なこと言われちゃあ困るんですがねぇ?」
すると聖女は微笑して答えた。
「彼女を見てみてくださないな?魔力封じでかわいそうなほど雁字搦め。これでは彼女はなにもできませんわ」
「しかし……」
尚も食い下がる騎士に聖女は言った。
「私を信じてください。大丈夫。彼女は私に危害をくわれるような方ではないわ」
「殺人犯の容疑者として連れてこられたやつに言うセリフじゃあねぇでしょうが……」
「……分かりました。もし何かあればすぐに魔道具を使って我々を及び下さい」
そう言い残し、二人の騎士は席を外す。
二人の騎士が完全に教会から出たのを確認して、聖女ラクシーは口を開いた。
「改めて初めまして。私はファルデアの聖女にして、革命軍『ル・ルシエ』の指導者の一人。聖女ラクシーですわ」
そう言って優しく微笑む女性をシアンは白い目で見ていた。
★
「どう思うよ?」
「なにがだ……」
教会から退出させられた二人の騎士が話す。
彼らは王国筆頭軍5番隊隊長ジャランカと王国筆頭軍2番隊隊長パルアキだ。
髪をリーゼント・スタイルに纏めたヤンキー風の男、ジャランカはいぶしげな顔でパルアキに言った。
「聖女だよ!!なにが信じて下さいだ!!」
「聖女様への暴言は許さんぞ」
「っけ!!てめぇは聖女信者だからなぁ!」
「何が言いたい?」
銀髪を靡かせ、スラっとした美男子のパルアキはジャランカを睨みつけながら問うた。
「あの魔族はなんでもブルリカを救ったみたいじゃねえか!そんな奴が次の日大量殺人とついでにオスマンの阿呆をボコったっていう」
「……」
「おかしいじゃねぇか!!そんなのそこいらの阿呆でもわかる!!」
「……だから何が言いたい?」
そこで一息ついてジャランカはパルアキを睨みつけながら言った。
「容疑者にしたってもう聖女への懺悔タイムだ!!本来ならもっと慎重に事を運ぶべきことをすっとばして!!まるでさっきの魔族がもう犯人と断定してるように事を運びやがる!!」
「……」
「なんでだ?!まるで聖女が何もかも知ったみたいじゃねぇか!!」
「なに……?」
「聖女との懺悔タイムを昨日今日でセッティングするなんて出来ねぇ!!なのに聖女はまるでこうなるのが分かってたように今日!!懺悔タイムを用意してやがった!!」
「……貴様」
「そうだよ!!裏で聖女が手引きしてやがったって思っても仕方ねぇだろ!!」
「貴様!!」
それを聞いた瞬間パルアキはジャランカの胸倉を掴む。
激昂するパルアキを今度はジャランカが冷めた目で見ながら静かに言った。
「3番隊には俺の密偵がいる」
「!!!」
「その密偵によりゃあボコらたオスマンはスライムだったようだ」
「なん……だと?」
「恐らく大量殺人したのはそのスライムだ。だがそのスライムは突然変異で獲物を取り込むと一気に消化しちまうらしい」
「……」
「現場には氷漬けの死体がわんさかいたそうじゃねぇか。だが報告によればそいつらはホームレス、つまり無戸籍のやつもわんさかいるし、ホームレスに見分けなんてつかねぇ」
「……」
「しかもホームレスに炊出ししてたボランティア団体の遺体は一人しか見つかってねぇ」
「……」
「誰かが現場に別の遺体を大量に用意しやがったんだ。そしてそいつは突然変異のスライムの事も知っていて、こうなることを予測して死体を用意した」
そして一息ついてパルアキを睨みつけ言った。
「そのへんの報告がなぜこっちに全く入ってこない?!こっちへの報告は広場で氷漬けの遺体、そして容疑者は魔族の小娘ってだけだ!!」
「……」
「その後突然変異のスライムは街を襲った!!大勢の被害者が出た!!その報告すらこっちには入ってこねぇ!!現場への緊急要請もだ!!」
アルデンの旦那がそこら辺を怠るともおもえねぇ、と付け加えてジャランカ言った。
「まぁ俺も現場に急行しようと思ったんだが、どうやらスライムは討伐されたらしい」
「!!!」
「……くく。いい反応するじゃねぁか」
離せよ、と言ってパルアキの拘束を解き、ニヤッと嗤ってジャランカはパルアキに言った。
「どちらにせよ、誰かが裏で手引きをして、こっちに何の情報も入れさせなくしたんだ」
「なんのためにだ」
「しらねぇなぁ?知られちゃまずい事でもあったんじゃねぇのか?」
「……」
「まぁそれは置いといてだよ。こんな裏で手引きが出来るやつなんざ、王族か聖女ぐらいだろうが」
「聖女様はそんなことはされない」
「どうだかな?俺はあの聖女を信用はできねぇなぁ」
「貴様の勝手な妄想に付き合うつもりはないが、ブルリカで本当にそんな事件が起きていたのなら、私も調査してみよう」
「そして都合の悪いことは証拠隠滅ってか?」
「なに?」
それに、と言ってジャランカは言った。
「スライムに擬態されてた本物のオスマンも生きてたみたいだから、連絡は制御できても本人はどうしようもねぇだろ」
「なに!!!」
かかかっと笑いながらジャランカは続ける。
「事件の真相はオスマンに聞こうぜ?なぁ?パルアキさんよ」
「……」
「まぁどちらにせよ俺はこの一連の件、聖女が裏で手引きしていると確信している」
「だからか……」
「そうだぜ?だから今日聖女の護衛を請け負ったんだよ。まぁ今の問答でほぼ確信したわ!」
「確信……だと?」
「ああ?王国筆頭軍にも裏切り者は大勢いる。そしてそいつらは大体聖女信者だ」
「聖女様への侮辱も、私への侮辱も許さんぞ……」
「なーんで自分が疑われてるってわかってんだよ!!」
そして笑うジャランカだが、ひとしきり笑うと真剣な顔をしてパルアキを睨んだ。
「この国を好きにはさせねぇ。てめぇらまとめてぶっ飛ばしてやるよ?革命軍『ル・ルシエ』!!」
「!!!」
そう言って不敵に笑うジャランカをパルキアはもはや憎みを込めた眼で睨んでいた。




