30 ファルデア王国の王都デポカ
ファルデア王国の王都デポカは二重の巨大な城壁に囲まれた都市だ。
都市の外を囲うように作られている城壁「デポカの壁」は高さ30メートルにも及ぶ。
巨大な壁には全ての窓に主砲を装備しており、外敵からの侵攻を防いでいた。
都市の中心部にある壁「王の壁」は外壁ほどの高さはなく、これはあくまで市民と貴族を区切るための壁であった。
「王の壁」の外に市民たち、そして「王の壁」の中に貴族たちが住んでおり、国民たちは基本的平和に暮らしている。
三界大戦後、種族平等制度は実施され、今やデポカには数多くの他種族が暮らしているが、貴族はあくまで人間族とエルフ族が主であった。
当然天界の遣いの天使たちや、天界人、つまりは神人達は「王の壁」を自由に行き来できるが、三界の勝者であるはずの魔族は自由に出入りすることは出来なかった。
しかしそれに不満を想う魔族は少ない。
なぜなら三界大戦後も魔族は基本的に魔界から出ていくことは稀であり、基本的に人間界にも天界にも興味がなかったのである。
★
「起きなさい」
いい加減移動に飽きて眠ってしまっていたシアンは、心地よい眠りから目を覚ます。
「よくもまあ眠れたものですわね!」
「……あなたも先ほど眠っていましたよね?」
「……!!!私は眠ってなどいませんわ!!」
自分が失禁して、気絶していたことは眠った事には入らないのだろうか?
真っ赤になりながら怒鳴るアナシスをシアンは白い目で見る。
「……っく!!ともかく!!着きましたわ!!」
そう言ってアナシスは車の窓の外を顎で指すと、そこには美しい情景が広がっていた。
煌びやかな街並み、そして中心にはそびえ立つ白い城。
「王の壁」の中の街に今、シアンたちは居るのである。
シアンたちは車を降り、街に降り立つ。
「喜び、誇りなさい?魔族でありながらこの「王の壁」の中に入れることを」
「……」
しかしそんな街並みを見てもシアンは全く興味を示さなかった。
つまらなさそうな顔をして、街並みを眺めたあと興味を失ったように視線を外した。
「本来なら魔族などがこの地を踏むことなど許されていませんわ。でも貴女はこれから聖女様にお会いして罪を懺悔しなければなりません。」
「……」
「その後、裁判が行われますわ。そこで貴女は裁かれることになります」
「……ふわぁ」
これからの事を説明するアナシスであるが、シアンは興味がなさそうに欠伸をした。
「……!この!!」
「副隊長!!行きましょう!!聖女様がお待ちです!!」
「……!わかっていますわ!!」
憤り、手を上げそうになるのを部下に諫められる。
怒りが冷めやらないアナシスだが、渋々とシアンを連れて教会に向かった。
煌びやかな街並みだがその中でも一際目を引く建物がある。
王都デポカの聖女教会だ。
「王の壁」の外にも聖女教会は存在しているが、壁の中の聖女教会こそこの国唯一の聖女がいる。
聖女とは世界そのものと契約し、奇跡を起こす存在である。
この世界には3人の聖女が存在しており、それぞれ連合国に所属していた。
デポカに所属する聖女クラシーは、3人の聖女の中で最も年配で経験豊富な聖女である。
誰にでも分け隔てない優しさと、見たものを魅了する年齢を感じさせない美しさ。
この国の象徴として、多くの国民たちに愛されている。
「残念ながら私はここまでです。貴女は今から聖女様に自分の罪を懺悔なさい?」
「……?」
「まだ分かっていないようですわね?確かにあなたは容疑者としてここに連行されました」
でも、と言ってアナシスは続ける。
「聖女様は全てをご存じなのです。つまり聖女様が貴女を黒だと言えば、裁判でもそれが真実になるでしょう」
「……」
───なるほど。聖女もグルですか……
つまるところ自分を捕まえた時点で、自分が白なのか黒なのか関係ないのだろう。
なぜならこの女の言った通り、聖女がこの国の司法を握っているようだ。
何とも面白い話だ。
どうやらこの女と聖女とやらは、どうしても自分を犯人に仕立て上げ、裁きたいらしい。
───そんなに私に犯罪をしてほしいのでしたら、〇ってもいいのに……
別に殺人にも犯罪にも嫌悪感など持っていない。
面倒だからやらないだけで、そんなに暴れて欲しいのならば、今から合う聖女諸共皆〇しにでもしてやろうか?
そうすれば退屈な魔生にも少しは張りが出来るかもしれない。
自分は経験できなかった三界大戦も、これを切っ掛けに第二次三界大戦として参加できるかもしれない。
しかし
───それではショーリさんと遊べませんね……
佐藤勝利。
自分を今、一番楽しませてくれる不思議な男の子。
彼とこの王都で遊ぶためにも、ここで犯罪を犯すわけにはいかない。
───早く来てくださいね?ショーリさん
自分が今から罪を問われるという状況にも関わらず、シアンは呑気に佐藤勝利の事を想うのであった。
★
「はぁ……待ちきれませんわ……」
ファルデア王国の聖女クラシーは、件の魔族の少女が来るのを今か今かと待ちわびていた。
彼女の事を恨んでいた。
自分の大切な同志を殺害した彼女を。
しかしクラシーはすぐに考え直した。
あのカイン・アルベルドを殺害し、それだけに止まらずディオスパイダーをも蹂躙した魔族の少女。
ディオスパイダーの群れは恐らく、この国が誇る王国筆頭軍が全軍集まっても勝つことは難しかっただろう。
そんなディオスパイダーの群れを、たった一人で壊滅してしまった少女の実力をクラシーは評価していた。
恨みで事を仕損じるのは愚か者のすること。
今では彼女に恨みなどなく、むしろ彼女の実力に惚れ惚れしている。
───彼女には私たちの同志になってほしいですわね……
革命軍八人の指導者の一人である聖女クラシーは、魔族の少女が目の前に現れるのを今か今かと待ちわびていた。




