28 これから
───こいつ化け物魔族を引き寄せるフェロモンでも出してんの?
頬を赤くして固まっている佐藤勝利を見ながらアーシュリは思った。
あの化け物スライムを一瞬で蒸発させた魔族の少女が消えてからもアーシュリは震えが止まらない。
あんな化け物が魔界にはうようよしているのだろうか?
───そりゃ戦争にも負けるわよね……
アーシュリは戦争を経験していない。
戦後生まれたアーシュリにとって魔族とは、天使族よりも下級な種族でありながら、卑怯な手で戦争に勝利した下賤な種族という印象だった。
だがだった数日でその幻想は打ち砕かれた。
シアン、そして先ほどのクリム。
たった二人の魔族の登場で、絶望的な戦局もあっさりひっくり返される。
アーシュリの魔族に対する印象はすでに180度変わっていた。
「勝利様!」
呆然としている佐藤勝利にスワンナとバラバが上空から降りてきた。
「勝利様!お怪我はありませんか?」
心配そうに近寄るスワンナだが、まあ佐藤勝利は大丈夫だろうとアーシュリは思う。
「俺は……大丈夫です。それよりも皆さんは大丈夫ですか?」
「ええ……。とは言え被害は少なくはありませんね……」
そう言って暗い顔をするスワンナにジークが近寄ってきた。
「少年!スー!無事か!」
「ジークさん!」
「ジーク!!」
ジークは二人が無事だったのを確認すると、安堵のため息をついた。
「二人とも無事でよかったぜ。……それで少年、さっきの少女は一体誰だったんだ?」
「そうですね。彼女にお礼がいいたのですが……」
そう言って、先ほどの化け物魔族を探す二人だが、残念ながらもう居ない。
佐藤勝利は二人に、あの少女は自分が召喚した事、それはケタロス様からもらった薬による能力だったことを説明する。
二人が説明を聞いていると、他の者たちが集まってきた。
アークエンジェルズ、警備隊そしてギルドのメンバー。
居残り王国筆頭軍の面々も集まってきた。
「のおおおおお!!なんとぉ!!!もう彼女は居ないのですか?!!」
「スレッタうっさい!!それより皆……とは言えないけど、無事でよかったぁ」
うるさい面々が集まってくるのを横目に見ながら、アーシュリはこれからの事を考えていた。
恐らく佐藤勝利はこれから王都デポカへ向かうのだろう。
それには自分も同行しなければいけない。
心底嫌なのだが、仕事だから仕様がない。
今でもシアンの事は恐ろしいし、早く魔界に帰ってほしいと思っている。
だがなぜだろうか?
最初ほど、シアンに対する恐怖心は薄れてきている気がする。
同じテーブルでパフェを食べた仲だからだろうか?
興味深げにパフェを口にするシアンに、なぜかアーシュリは年相応の親近感を覚えた。
そんな彼女が目の前で捕まっていったのだ。
───シアンさんなら大丈夫だろうけど……放ってもおけないわよね……
そこまで考えて、アーシュリはシアンからの言付けを思い出した。
「佐藤勝利」
「?なんだアーシュリ」
……ふと思ったがこいつなんでアークエンジェルズの仲で、私だけ呼び捨てなんだろうか?
「……シアンさんからの伝言よ」
「!!」
「王都で待っている……ですって」
「!!」
佐藤勝利は目を開いて、そしてキリっとすると大きく頷いた。
全然正直イケてない。
決め顔も、見た目も何もかも。
シアンも先ほどの少女もこいつの何に惹かれているのだろうか?
やはり魔族に好かれるフェロモンでも出しているのだろうか?
───はぁ……やっぱり王都に行くの憂鬱だな……
アーシュリは心の中で盛大にため息をつくのであった。
★
シアンが王都で俺を待っている。
それを聞いただけで俺は居ても立っても居られなくなった。
今すぐ王都に行かないと!
そう思ってスワンナさんを見ると、スワンナさんは大きく頷いた。
「勝利様。急いで王都に向かいましょう!」
「ちょっと待ちなさいよ」
そんなスワンナさんをアーシュリが止める。
「急いでってどうやって行くのよ?私たちは飛んでいけるからいいけど、まさかそいつを担いで、王都まで飛んで行こうってわけじゃないでしょうね?」
私は絶対に嫌だからね!というアーシュリにバラバさんが口を開いた。
「ならば私が勝利殿を抱えて飛んで行こう」
「バラバさんなら……いけるかもしれないけど……」
「では私が彼を王都までお連れしよう」
すると突然上空から俺たちに声をかけるものがいた。
見上げると、飛竜に跨った王国筆頭軍の隊長のオスマンさんがいた。
「オスマン?!生きていたのか!!」
ジークさんが驚きの声を上げる。
飛竜が地上へと降り立ち、オスマンさんが飛竜から降りてくる。
そんなオスマンさんを皆は驚愕の表情で見ていた。
オスマンさんは左腕がなく、全身ぼろぼろの満身創痍であった。
スワンナさんとレコアさんが慌ててオスマンさんに駆け寄り、治療の魔術と神術であろう光を発する。
魔術の光に包まれながらオスマンさんは口を開く。
「なんとか……彼女が助けてくれてね」
そう言って飛竜を優しく撫でる。
「そいつは……」
「アナシスの飛竜だ。私の飛竜とは番いだったのだが……」
アナシスと言うとたしか王国筆頭軍の副隊長だった人のはずだ。
「アナシス。……?!!まさか?!」
それを聞いたジークさんが何かを察したように驚愕した。
「そうだ。彼女は裏切り者だ。今朝の事件を起こしたのはスライムだが、恐らく彼女はそれを手引きした犯人の一味に違いない」
苦渋の表情でオスマンさんは続ける。
「彼女は俺の飛竜と広場の女性を殺害したのは間違いない」
そしてと言ってオスマンさんは続ける。
「彼女は恐らく……いや間違えなく革命軍『ル・ルシエ』のメンバーだ」
革命軍『ル・ルシエ』。
確かケタロスさんが言ってたテロリストの連中だ。
そんな連中がこの街にも、そして恐らく王都にも……!
俺は生唾を飲み込むのであった。




