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27 灼熱

「う……ああ。多分俺が君を召喚した……」


混乱で頭がどうにかなりそうになりながら、どうにか俺は答えた。


「あは!やっぱり!」


すると少女は花が咲いたような笑顔で微笑んだ。

それだけで俺の心臓は音を立てる。


───俺はシアンに惹かれているのに……この()にも……?!


自分の尻軽さに愕然としている俺を余所に、少女は俺に話す。


「ぼくを召喚するなんてすごいね!初めてだよ!召喚されたのなんて!」


それに、と付け加えて少女は言う。


「キミ、シアの匂いがするね?もしかしてシアの知り合い?」


シア?もしかしてシアンのことだろうか?


「シアンとは……知り合いだよ」

「やっぱり!」


少女は笑顔を深くして手を叩いた。


「ぼくはクリム!シアとは姉妹でぼくはシアのおねぇさんだよ?」


腹違いだけどねー、っと笑いながら言うクリムにようやく俺は合点がいった。

つまり彼女が召喚されたのはシアンの姉妹だからだ。


───のこり30%の確率でその思い描いたものの関係者などが召喚されます───


とのことなので姉妹であるクリムが召喚されたのだろう。

とそこまで考えてようやく俺は今の現状を思い出す。


「クリム……でいいか?頼む!クリム!あの化け物スライムを倒してくれないか?!」


いきなり訳の分からない場所に召喚して、いきなり物を頼む。

俺は最初に異世界から移転させられて、説明の無さに文句があったが、今は俺が彼女に同じようなことを強いている。

若干の自己嫌悪に陥りながらも、それでも藁にも縋る思いでクリムに頼むしかない。


「化け物スライムって……」


クリムが言いかけた瞬間轟音と共にスライムの建屋がまた俺たちに振り下ろされた。

さっきみたいに縦横無尽に振り回すのではなく、確実に俺たちを狙った一撃。

衝撃波すら発する勢いの一撃に俺はたまらず目を瞑る。


しかしいつまでたっても衝撃は襲ってはこなかった。

俺はおそるおそる目を開ける。


そして目を見開く。


そこにあったのは驚愕の光景だった。


それを視ていた誰もが、目を見開いている。

スワンナさんたちも、ジークさんたちも皆……。


それほどまでにあり得ない光景であった。


「化け物スライムってこれのこと?」


振り下ろされた建屋をクリムは、指一本で止めていたのである。



ダークスライムは目の前の化け物に驚愕し恐れおののいていた。


多くの者を吸収し、蓄えた知識を総動員しても目の前の化け物が分からなかった。

存在しているだけで死を連想させる圧倒的存在感。

天使も人間もわかっているのだろうか?

あの邪悪で恐ろしい魔力を!

見ただけで吸い込まれるブラックホールのような圧力を!!


自分など、あれに比べたら可愛いものだ。


───早く逃げなけれバ!!


もはや自分の存在意義である使命などどうでもいい。

目の前の化け物から一目散に逃げだしたかった。


しかしダークスライムはやりすぎた。

巨大になって鈍重になってしまった体では目の前の化け物から逃げることは出来ないだろう。

しかしそこでダークスライムは考え直す。


確かに目の前の化け物は強いだろう。

しかしありとあらゆるものを吸収できる自分にこいつは勝てるのだろうか?


この化け物を捕食すればもはや自分はこの世界での神にも等しい存在になれる!!!


───こいつを捕食すル!!!


結局ダークスライムの知性は所詮はただの魔物から然程(さほど)成長していなかった。

いや只の魔物のほうがまだよかっただろう。

なぜなら自然界で、自分より圧倒的に強い存在に挑む魔物などいないのだから……。



「おっけー。じゃ。さっさとたおすね」


気の抜けるふにゃりとした笑顔で返事をしたクリムと、今からやることが合致しない。


クリムはスライムと戦ってくれるのだろう。

スライムの攻撃を指一本で止めたクリムは恐らくシアンと同じレベルで強いのだろう。


しかし全ての攻撃を吸収してしまうスライムをどうやって……?


そう思っていると突如、クリムの掌から朱い鎖が召喚された。

朱い鎖は一瞬でスライムを捕縛する。

熱を持っていいるのだろうか?鎖触れた部分からはじゅうじゅうと言う音とともに煙が出ている。

捕縛されたスライムは体をぐねぐねと変化させ、鎖から逃れようとするが全く鎖から逃れることは出来ない。

スライムは分裂しようと体の一部を切り離そうとするが、なぜかそれも出来ないようだ。


「そこらへん飛んでる人たち、どいといてね」


そう言うとクリムは、よ!という掛け声とともにスライムを上空へと投げ飛ばした。

もはや50メートルに近い大きさになったスライムが、まるで風船のように軽々と上空へ飛ばされる。


現実離れした光景に目を見開ていると、クリムは上空へ掌を向けた。

そして───


「ビオラ」


そう呟いた瞬間、クリムの掌から巨大な赤い灼熱の熱線が発射された。


まるで怪獣映画の怪獣の放射熱線を見ているようだ。

近くにいるだけでその熱で溶けてしまいそうだ。


熱線はスライムに着弾し、そして……


嘘のようにスライムは跡形もなく消し飛んだ。


それだけだった。

あれだけ猛威を振るっていた巨大スライムは、ものの数秒で跡形もなく消し飛んだのであった。



「あれは恐らく火炎系の最上級呪文にして、禁術のビオラデ・グランデカ・ジグラデオメガ!!!」


スレッタが興奮気味に言う。


彼はAランク冒険者としてダンジョン攻略や魔物退治に勤しむ中、趣味として魔術の研究をしている。

それ故この世で存在していたとされる禁術にも詳しいのである。


そんな彼でも禁術をこの眼で見るのは初めてであった。

圧倒的な灼熱を視た彼は興奮で今にも暴れ出しそうだ。


あの圧倒的熱量はさすがのスライムでも吸収しきれなかったのであろう。

自身のキャパシティを圧倒的に超える灼熱に対応しきれずスライムは消滅したのだ。


───そんなことより彼女に話をいろいろ聞かねば!!!


興奮冷めやらぬスレッタは急いでクリムの所に向かうのであった。



「終わったよ?ご主人様?」


笑顔でそう言ってくるクリムに俺はひっくり返りそうになる。


「ご……ご主人様?!」

「え?だってぼく、キミに召喚されたんでしょ?だったらキミはぼくのご主人様!でしょ?」

「いやいやいやいやいや!!お……俺は佐藤勝利!勝利でいいよ!!」

「うーん。やだ!ショーリくんはぼくのご主人様!」


決定!と言ってくるクリムに俺は冷や汗と心臓の鼓動が止まらなかった。

こんな美少女にご主人様と言わせてる背徳感と何とも言えない高揚。

このままじゃ俺はどうにかなってしまいそうだ。


こういう時は無理やり話題を変えるに尽きる。


「そうだシアンだ!今シアンは王都に連れていかれてるんだ!!」

「へー。シアってばなにやってんの?」

「殺人の容疑者にされてるんだよ!免罪だろうけど!俺も王都に行かなきゃいけない!」

「おお!面白そうだね!ぼくもいっしょについてくよ!」


そう言って笑顔を見せる彼女の周りに、突如光があふれ始める。

まさか……


「あ……。もしかして時間切れ?」


クリムは残念そうに言うと、そうだっと手を叩いた。


「ぼく、また人間界にくるよ!今度は召喚じゃなくて自力でね!だから……」


そう言ってクリムは俺に近づいてきた。

そして……


俺の頬に口づけをした。


「またね?ご主人様」


初めて見せる妖艶な笑みを残してクリムは光と共に消えていった。


残された俺は、クリムに礼を言うのを忘れてた、とか、今のはいったい?とか、頭の中が混乱した状態で、頬だけでなく全身まで赤くして固まるのであった。




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