23 パフェ
───この女、一体なにがしたいのでしょうか?
目の前でいきなり失禁して気絶したアナシスを、シアンは白い目で見ていた。
常時適当に過ごしているシアンだが、彼女にはそれなりの主義がある。
決めたことは一応ちゃんとやる。約束は一応守る。売られた喧嘩は買う。そして、
悪意を持って攻撃してきた者は絶対に許さない。
どんな理由があろうと、大義があろうと、自身に悪意を持って攻撃してきたものを、たとえ兄妹であろうとも絶対に始末する。
それ故自身に悪意を持って殴ってきたこの女を許す気はなかったのだが……
───なんか冷めてしまいました……
殴られた時、スリッピングアウェイの要領でほぼダメージは無かったのだが、攻撃してきたのならば……と思っていたが、もうどうでもよくなってきた。
どうしてこんなことになっているのか……
シアンは今朝の事を思い出していた。
★
早朝から、謝礼金などを持ってきたスワンナから金を受け取り、天使のコアクリスタルを渡したシアンは勝利の元へ行こうと思っていたが、彼は今から神人の会わなければいけない。
正直自分が神人と会っても碌な事にならないだろうと思ったシアンは、勝利が神人との謁見が終わるまで彼を待つことにした。
「それなら終わるまで街を散策して来てはいかがかしら?」
どうやらブルリカは活発な街らしく、昨日あんなことがあったにも関わらずもう街は活気を取り戻しているらしい。
スワンナに促されるまま街をぶらぶらとしようかと思っていると、スワンナは知らない天使を連れてきた。
「アーシュリに街を案内してもらったらどうかしら?」
「……へ?」
事態を飲み込めていた天使が、スワンナに背を押されてこっちにやってくる。
「な……なんで私が彼女の案内しなきゃなんないのよ?!」
「アーシュリ。貴女今日はオフでしょ?ならいいじゃない!彼女を案内してあげて?」
「仕事より嫌だわ!!」
「なんてこというの!それに貴女も彼女に……ってあああ!シアンさんちょっとまって?!」
なにやら問答を始めた天使たちを無視してホテルを出ようとしていたシアンを、スワンナは慌てて引き止める。
「アーシュリ!命令よ!シアンさんを案内してあげて!!」
「今日はオフだっつってんでしょーが!!」
尚もギャーギャーと言い争う天使たちを、シアンは白い目で見ていた。
その後、しぶしぶと街の案内を了承したアーシュリに連れられて、シアンは街を散策する。
───散策ついでプレゼントでも探しておきますか……
そう思って辺りを見渡すとある喫茶店が目に入った。
店の外にも席があり、客たちはモーニングを楽しんでいた。
そしてその店の看板にでかでかとイラストで描いてあるのは、看板メニューであるジャイアントパフェであった。
シアンはその看板を興味深げに見る。
「……パフェ。食べたいんですかぁ?」
アーシュリが興味深げにシアンに聞いてきた。
昨日食べたサンドイッチもギルドで食べた料理も美味しかった。
魔界で食事をしたことのないシアンにとって、勝利の言う通り食事とはなかなか楽しいものである。
「そうですね……」
「じゃあ奢りますよ!」
行きましょう!というアーシュリに連れられてシアンも店に入る。
ジャイアントパフェを注文して外のテーブルで待っているとアーシュリが話しかけてきた。
「意外でした。シアンさんって甘いもの好きなんですねぇ」
「いえ。食べたことないので食べてみたかっただけです」
「え!パフェ食べたことないんですかぁ?!」
驚くアーシュリをよそにパフェが運ばれてくる。
パフェの大きさに少し面食らっていると、アーシュリがパフェを食べ始めた。
「んーーー!おいしーーー!」
「……」
シアンもスプーンを使いパフェを食べてみる。
───冷たくておいしい……
地上の食事は本当に面白い。
でも……
───やっぱりショーリさんと一緒に食べたいですね……
やはり勝利と共に食べる食事の方が、なぜが美味しく感じる。
そんなことを考えながらパフェを食べていると、あたりがざわつき始める。
気配で気付いてはいたが、よくわからない連中がシアンたちを取り囲んでいた。
それを無視してパフェを食べていると、リーダー格であろう女がシアンに言った。
「魔族の少女。貴女には今殺人及び、公務執行妨害の容疑がかけられています。」
「……」
「私は王国筆頭軍3番隊副隊長のアナシスと申します。大人しく我々についてきてくださいますね?」
するとアーシュリが声を上げる。
「はぁ?!意味わかんないんだけど!」
「今朝。広場で氷漬けなった大量の遺体が見つかりました。現場に駆け付けた王国筆頭軍隊長を負傷させ、彼女は現場から逃げました」
「は!!だったら残念でした!!シアンさんは朝から私たちと一緒だったのよ!!」
スワンナたちも証人よ!というアーシュリにアナシスは言った。
「天使が魔族を庇うとは意外でしたが、本当に朝から貴方たちは一緒だったのかしら?」
「あん?!何が言いたいのよ?!」
「彼女のスピードを加味すれば、あなた達と会う前に事件を起こしてホテルまで戻るのに、それほどかからないはですわ」
「……!!」
「事件が起きた時刻を考えてみても、辻褄はあいますわ」
「でたらめよ!!なんでシアンさんがそんなことすんのよ!!」
するとアナシスはため息をついてアーシュリに答える。
「それを今から確認するために、彼女を王都に連行するのですわ」
「はぁ?!なんで王都なのよ!!この街で起きた事件なら少なくとも、警備隊かアークエンジェルズが彼女を連行するはずでしょ!!」
「王国筆頭軍隊長を負傷させたんですわよ?隊長は現在病院で療養中ですが、意識は戻っていません。彼の意思を継ぎ、我々王国筆頭軍がこの事件を解決いたしますわ」
「なんですってこの……!」
「……あの」
ヒートアップしてきた二人の会話にシアンが口を挟む。
「いいですよ?連れて行ってください」
「……なんですって?」
「シアンさん?!何言ってんですか?!」
アーシュリはともかくなぜアナシスまで驚くのか。
シアンはため息をつきながら続けた。
「ここでゴタゴタ言ってても面倒なので、王都に連れて行ってください」
「……わかりましたわ。では……」
「シアンさん……」
そうして部下たちにシアンの拘束を命じるアナシス。
厳重に拘束され、車に乗せられる最中シアンはアーシュリに言った。
「ショーリさんに王都で待っていると伝えてください」
「……わかりました……」
★
こうして拘束され、車で首都まで護送されているわけだが、シアンは彼らの杜撰な警備に首を傾げた。
そもそもこの拘束具、魔力封じの一種のようだが、こんなもので自分を封じているつもりだろうか?
魔力封じとは本来、魔力の発生を抑える石『無光石』を使って相手の魔力を抑える道具だ。
しかしどんなに高級な『無光石』でも抑えきれる魔力には限度がある。
事実雁字搦めに拘束されているシアンだが、その拘束具に取り付けてある『無光石』のキャパシティをシアンの魔力は優に超えていた。
つまるところ、いつでも拘束を解くことが出来る状態で自分を護送しているのだから、ずいぶん杜撰なことだ、とシアンは思う。
───ショーリさんは王都まできてくれるでしょうか……
神人の依頼はなんだったにせよ、そこそこ悠長に構えている感じがするので、それほど切羽詰まった依頼ではないはずだ。
ならばまだ、自分と遊ぶ時間もあるはず。
あの街が嫌だったわけではないが、こうやって難癖をつけられるぐらいなら首都に言って真実を晴らせばいいし、なによりせっかく人間界に来たのならばいろいろな所に行ってみたい。
そしてその時の勝利の反応をいろいろ楽しみたい。
王都までただで運んでくれるのならばまぁいいかな?程度の感覚でシアンは拘束されたのである。
あとは王都で勝利を待つだけだが、はたして勝利は自分を追ってきてくれるのだろうか?
少し不安ものこるが、恐らく勝利は王都まで来てくれるだろう。
なんの根拠もないが、なぜかそう思うのだ。
───早くきてくださいね?ショーリさん
殺人の容疑者として護送されているのにも関わらずシアンは呑気に勝利の事を想っていた。




